著者
押海 裕之 中嶋 桃香 入江 厚
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

ワクチンは感染症予防のために重要であるが、副反応への懸念から接種率が低下することが度々問題となっており、新型コロナウイルスワクチンに対しても副反応への懸念から接種率が高くならないことが危惧されている。ワクチン副反応の大きな要因の一つとして過剰な免疫応答があり、接種局所での炎症の他に、ギランバレー症候群のような神経系に対する自己免疫疾患様の症状もごく稀に発症する。このような免疫応答の個人差は遺伝的要因と環境要因によるが、環境要因については十分に解明されていない。我々はこの環境要因の一つとして血液中に存在する細胞外小胞内の数種類のmicroRNAのバランスが重要であることを発見した。細胞外小胞はmicroRNAを細胞内へと伝達するが、ヒト血液中には免疫応答を制御するmicroRNA濃度が非常に高いことが網羅的解析から明らかとなった。実際に、ヒト血中細胞外小胞内の数種類のmicroRNA量のバランスとインフルエンザワクチン接種後の局所での炎症症状とは有意に相関した。また、マウス動物モデルでは神経系に対する自己免疫疾患の重症度とも血中の細胞外小胞内microRNA量が相関した。今後、血中の細胞外小胞内microRNAを新たなバイオマーカーとして副反応を予測する方法を確立できると期待される。一方で、 我々は新型コロナウイルスに対するペプチドワクチンの開発を進めており、中和抗体を誘導するペプチドのみを用いることで抗体依存性感染増強を誘導することなく予防効果の高いワクチンを作ることが可能かどうかについて動物実験を用いて検証を進めている。ペプチドワクチンと副反応予測方法を組み合わせることで、近い将来に、副反応への懸念から接種率が低下する問題を克服できると期待される。