著者
高島 謙 押海 裕之
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.33-40, 2021 (Released:2022-05-03)
参考文献数
85
著者
押海 裕之 中嶋 桃香 入江 厚
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

ワクチンは感染症予防のために重要であるが、副反応への懸念から接種率が低下することが度々問題となっており、新型コロナウイルスワクチンに対しても副反応への懸念から接種率が高くならないことが危惧されている。ワクチン副反応の大きな要因の一つとして過剰な免疫応答があり、接種局所での炎症の他に、ギランバレー症候群のような神経系に対する自己免疫疾患様の症状もごく稀に発症する。このような免疫応答の個人差は遺伝的要因と環境要因によるが、環境要因については十分に解明されていない。我々はこの環境要因の一つとして血液中に存在する細胞外小胞内の数種類のmicroRNAのバランスが重要であることを発見した。細胞外小胞はmicroRNAを細胞内へと伝達するが、ヒト血液中には免疫応答を制御するmicroRNA濃度が非常に高いことが網羅的解析から明らかとなった。実際に、ヒト血中細胞外小胞内の数種類のmicroRNA量のバランスとインフルエンザワクチン接種後の局所での炎症症状とは有意に相関した。また、マウス動物モデルでは神経系に対する自己免疫疾患の重症度とも血中の細胞外小胞内microRNA量が相関した。今後、血中の細胞外小胞内microRNAを新たなバイオマーカーとして副反応を予測する方法を確立できると期待される。一方で、 我々は新型コロナウイルスに対するペプチドワクチンの開発を進めており、中和抗体を誘導するペプチドのみを用いることで抗体依存性感染増強を誘導することなく予防効果の高いワクチンを作ることが可能かどうかについて動物実験を用いて検証を進めている。ペプチドワクチンと副反応予測方法を組み合わせることで、近い将来に、副反応への懸念から接種率が低下する問題を克服できると期待される。
著者
藤岡 周助 岡 香織 河村 佳見 菰原 義弘 中條 岳志 山村 祐紀 大岩 祐基 須藤 洋一 小巻 翔平 大豆生田 夏子 櫻井 智子 清水 厚志 坊農 秀雅 富澤 一仁 山本 拓也 山田 泰広 押海 裕之 三浦 恭子
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【背景と目的】ハダカデバネズミ (Naked mole rat、 NMR) は、発がん率が非常に低い、最長寿の齧歯類である。これまでに長期の観察研究から自然発生腫瘍をほとんど形成しないことが報告されている一方、人為的な発がん誘導による腫瘍形成に抵抗性を持つかは明らかになっていない。これまでにNMRの細胞自律的な発がん耐性を示唆する機構が複数提唱されてきた。しかし、最近それとは矛盾した結果も報告されるなど、本当にNMRが強い細胞自律的な発がん耐性を持つのかは議論の的となっている。さらに腫瘍形成は、生体内で生じる炎症などの複雑な細胞間相互作用によって制御されるにも関わらず、これまでNMRの生体内におけるがん耐性機構については全く解析が行われていない。そこで、新規のNMRのがん耐性機構を明らかにするため、個体に発がん促進的な刺激を加えることで、生体内の微小環境の動態を含めたNMR特異的ながん抑制性の応答を同定し、その機構を解明することとした。【結果・考察】NMRが実験的な発がん誘導に抵抗性を持つかを明らかにするため、個体に対して発がん剤を投与した結果、NMRは132週の観察の間に1個体も腫瘍形成を認めておらず、NMRが特に並外れた発がん耐性を持つことを実験的に証明することができた。NMRの発がん耐性機構を解明するために、発がん促進的な炎症の指標の一つである免疫細胞の浸潤を評価した結果、マウスでは発がん促進的な刺激により強い免疫細胞の浸潤が引き起こされたが、NMRでは免疫細胞が有意に増加するものの絶対数の変化は微小であった。炎症経路に関与する遺伝子発現変化に着目し網羅的な遺伝子解析を行なった結果、NMRがNecroptosis経路に必須な遺伝子であるRIPK3とMLKLの機能喪失型変異により、Necroptosis誘導能を欠損していることを明らかにした。【結論】本研究では、NMRが化学発がん物質を用いた2種類の実験的な発がん誘導に並外れた耐性を持つこと、その耐性メカニズムの一端としてがん促進的な炎症応答の減弱が寄与すること、またその一因としてNecroptosis経路のマスターレギュレーターであるRIPK3とMLKLの機能喪失型変異によるNecrotpsosis誘導能の喪失を明らかにした。