著者
全 美炷
出版者
一橋大学国際教育センター
雑誌
一橋大学国際教育センター紀要 (ISSN:21856745)
巻号頁・発行日
no.4, pp.63-74, 2013

東京方言では2つの文節が1つの韻律句を生成する場合、後部文節で第1モーラから第2モーラにかけての音調の上昇が生じないことがある。この現象を本稿では句頭の上昇の消失と呼び、その生起環境を調べるための本格的な実験前の準備段階として、関連要因を探索することを目的とした調査を行った。方法は、非実験環境で収録した音声資料から句頭の上昇が消失している文節を収集し、当該文節と先行文節の2文節の関係で共通する要因を抽出する方法を採用した。分析した項目は2文節のアクセント型の組み合わせ、2 文節の修飾関係の2 つである。従来の研究ではminor phraseの定義によって、1つの句に含まれるアクセント核の数を最大1つまでしか許容していない。そのため、2文節が両方とも有核語である場合は、後部文節で句頭の上昇が消失し、前部文節と後部文節が1つの句にまとまっていても、2つの句と認められ、1つの句を形成する2 文節の関係を調べるための分析対象から除外されていた。本調査では句頭の上昇の存在を基準とした「句」の定義を用い、「有核語+有核語」を含むすべての文節を検討した。その結果、アクセント型の組み合わせ「有核語+有核語」、「有核語+無核語」、「無核語+有核語」、「無核語+無核語」の4種類すべてにおいて句頭の上昇が消失しているデータが存在することが確認された。また、修飾関係に関しては「名詞助詞+動詞」、「程度副詞+動詞」、「名詞ノ+名詞」、「形容詞+名詞」、「動詞+名詞」、「~テイル類」、「~トイウ」の7 種類において句頭の上昇が消失しているデータが存在していることが確認された。