- 著者
-
八巻 幸二
- 出版者
- 公益社団法人 日本食品科学工学会
- 雑誌
- 日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.7, pp.319, 2010-07-15 (Released:2010-09-01)
- 参考文献数
- 1
アディポカインとは,脂肪細胞から産生・分泌されるさまざまな生理活性物質の総称である.従来アディポサイトカインの名称でも用いられて来た.「アディポ」は脂肪,「サイトカイン」は細胞間生理活性物質を意味する複合語である.現在「サイトカイン」の名称は細胞間の情報伝達物質で免疫調節物質として用いられる場合が多く,免疫調節と関係のない物質もあることより,大きな意味で,近年はアディポカインを用いる場合が多いと思われる.これまでは脂肪細胞は単なる油滴を蓄えるエネルギー貯蔵庫細胞と考えられてきたが,近年メタボリックシンドロームに関わる重要な生理活性物質を産生・分泌していることが明らかとなった.これまでに報告されたアディポカインとして,アディポネクチン(adiponectin),レプチン(leptin),レジスチン(resistin),TNF-α (tumor necrosis factor-α,腫瘍壊死因子),アンジオテンシノーゲン(angiotensinogen),PAI-1 (plasminogen activator inhibitor-1),HB-EGF (heparin binding-epidermal growth factor-like growth factor),ビスファチン(visfatin)などがある1) .またアディポカインの分類では,インシュリンの抵抗性やメタボリックシンドロームを進行させるものを悪玉,よい方向に導くものを善玉と慣用的に呼ぶ場合がある.脂肪細胞には形態学的に,小型脂肪細胞,大型(通常)脂肪細胞,巨大化した大型脂肪細胞に分類されている.小型脂肪細胞は直径10μm前後で,球形であり,大型(通常)脂肪細胞は直径70-80μmで,球形ぶどう型である.また巨大化した大型脂肪細胞は直径が100μmを超える多面体型である.通常成長から肥満への過程で,小型脂肪細胞から大型の細胞に分化し,さらに巨大化した大型脂肪細胞へ分化する.また脂肪組織としての分類は,付着する部位が周辺の場合内臓脂肪,皮膚の下の皮下組織の場合は皮下脂肪に分類されている.また脂肪組織の機能によって,脂肪組織は白色と褐色に分類され,通常エネルギーとしての中性脂肪を蓄える単胞性脂肪細胞を白色脂肪組織,蓄えた脂肪をエネルギーとして使用し熱産生の働きを持つ多胞性脂肪細胞を褐色脂肪組織としている.1) アディポネクチンは小型脂肪細胞から分泌され,インシュリンの感受性を高めて糖代謝を促進する.また血管拡張作用を持ち血圧上昇を抑制する.また内臓脂肪の巨大化ではその分泌量が低下し,糖代謝異常高血圧を誘導することでメタボリックシンドロームが進行する.そのため,善玉と考えられている.2) レプチンは,白色脂肪細胞から分泌され視床下部の満腹中枢に働き食欲を抑制する.脂肪が増加すると分泌が高まり食欲を低下させ肥満を予防するが,脂肪がたまりすぎるとレプチン過剰になり満腹中枢が反応しなくなりレプチン抵抗性となる.3) レジスチンは脂肪細胞から分泌されるインシュリン抵抗性ペプチドとして発見された.この遺伝子の変異では糖尿病リスクが高まることが明らかになっている.4) TNF-αは白血球(マクロファージ)から産生されるサイトカインとしてよく知られている.通常マクロファージから産生され炎症やアレルギーの初期において白血球の遊走に関与するサイトカインである.近年このタンパクが脂肪細胞からも産生されることが明らかになって,インシュリンレセプターの働きを抑制し,インシュリンの抵抗性を誘導する.すなわち悪玉として作用するアディポカインの一つである.5) アンジオテンシノーゲンは,本来肝臓で産生,血液中に分泌される血圧に関与するタンパクであるが,脂肪細胞でも産生されることが明らかとなった.血液中のアンジオテンシノーゲンは腎臓から分泌された分解酵素であるレニンで分解され10個のペプチドからなるアンジオテンシンIとなりアンジオテンシン変換酵素によって2個ペプチドが切り出され,アンジオテンシンIIになり,この物質は強力な血管収縮作用を持つため血圧を上昇させる方向に働く.(View PDF for the rest of the abstract.)