著者
仙波 浩幸 八木 幸一 清水 和彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.G4P2315-G4P2315, 2010

【目的】臨床実習IIは理学療法専攻学生にとって、学外のそれぞれの実習地で、3週間という長期にわたり、同級生と離れて実践し、医療専門職、社会人として対象者と向かい合わなければならない。3週間の臨床実習IIにおける学生の生活情報、精神心理面の情報を収集分析し、学生の主観的満足度、主観的達成度に影響を及ぼす要因を明らかにして、有意義な臨床実習の遂行ができるように、臨床実習指導者及び教員が、精神心理状況も配慮した指導ができるための知見を獲得することを目的とした。<BR>【方法】対象は本学1期生62名(男子42名、女子20名、現役55名、1,2浪7名)である。平成21年2~3月の3週間にわたり実施した3年次臨床実習IIを分析対象とした。データ収集は、臨床実習開始前、臨床実習終了時にオリジナルな質問紙法により収集した。基本情報は、現役浪人区分、通学時間、家族同居有無、同級生との連絡頻度、学内学業成績5分位、1日の帰宅後の学習時間、主観的余裕度、課題量、指導者との人間関係、患者との人間関係、全般的満足度、全般的達成度である。全般的な精神健康度はGeneral Health Questionnaire (GHQ-12)、睡眠状態はPittsburgh Sleep Quality Index (PSQI)、抑うつ状況はZung Self-rating Depression Scale (SDS)を使用した。<BR>【説明と同意】本研究開始にあたり、対象学生に対し、本研究の目的、意義について説明会を開催し文書による承諾を得て実施した。<BR>【結果】主観的満足度は70.7±18.5%であった。また、主観的達成度は59.1±16.7%であった。<BR>1)主観的満足度に影響を与える因子(単相関、P<0.05 *:P<0.01)終了時うつ状態(r= -0.45)*、開始時導眠時間(r= -0.28)、指導者との人間関係(r= 0.46)*、状態不安(r= -0.26)、実習成績(r= 0.38)*、主観的達成度(r= 0.63)*;2)主観的達成度に影響を与える因子(単相関、P<0.05 *:P<0.01)主観的余裕(r= -0.29)、課題困難度(r= -0.27)、終了時うつ状態(r= -0.38)*、開始時導眠時間(r= -0.38)*、指導者との人間関係(r= 0.30)、実習成績(r= 0.31)、主観的満足度(r= 0.63)*;3)主観的満足度に影響を与える因子(重相関・ステップワイズ、P<0.05)、指導者との関係が良好なこと(t=3.0)、うつ状態が低いこと(t=-2.6);4)主観的達成度に影響を与える因子(重相関・ステップワイズ、P<0.05)、指導者との関係が良好なこと(t=2.2)、うつ状態が低いこと(t=-2.1)<BR>【考察】 学生の臨床実習における主観的満足度、主観的達成度は、臨床実習指導者との良好な関係、うつ状態が大きな影響を与えている。臨床実習指導者との良好な関係には、経済産業省が提唱する社会人基礎力(基礎学力、コミュニケーション能力、積極性、問題解決力など)という社会人として活躍するために必要な能力の要素が内包していると考えられる。 社会人基礎力は、学生の臨床実習指導者との人間関係自己評価、臨床実習指導者の総合評価に集約されていると考える。また、もう一つの重要な側面である精神的健康度としてうつ状態の評価が重要である。以上より臨床実習の遂行には、基礎学力、社会性、精神的健康度のいずれも良好であることが欠くことができない条件であり、学生の自己評価として主観的満足度、主観的達成度の評価に現れていると考える。このことが、教員、臨床実習指導者ともに留意して指導にあたる必要がある。<BR>【理学療法学研究としての意義】学生の主観的満足度、主観的達成度は、社会人基礎力、精神的健康度が大きく関与しており、臨床実習の鍵を握っている。この点を教員、臨床実習指導者ともに留意すべきであり、個々の学生に応じた目標設定や対応が重要であることを客観的に明らかにした。