著者
八田 幸恵
出版者
日本教育方法学会
雑誌
教育方法学研究 (ISSN:03859746)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.37-48, 2019-03-31 (Released:2020-04-01)
参考文献数
40

1974年の,OECD-CERI「カリキュラム開発」プロジェクトの東京セミナー第2分科会では, 「工学的接近」と「羅生門的接近」というカリキュラム開発の2つの立場が析出された。日本の教育方法学において「羅生門的接近」は常識化し,共通教育目標・内容の設定を否定する論陣の論拠のひとつとなった。しかし,第2分科会主要参加者の1960~1970年代における所論と「羅生門的接近」との関係を読み解くことで,次のことが明らかになった。第一に,成立時の「羅生門的接近」には複数の立場が含まれており,ひとつの立場とみなせるようなものではなかった。第二に,「羅生門的接近」の主要な部分は,OECD-CERI 発信のものでもアトキンの論でもなく,その成立には日本側メンバーの多大な貢献があった。第三に,「目標にとらわれない評価」が認識の相対性を強調する評価の立場であるとみなされるようになったことで,「羅生門的接近」は次第に授業の見え方の交流と同義となった。第四に,そのことによって日本の教育方法学は,共通教育目標・内容を開発チームで共有化することを可能にする,新しい教育評価のあり方というアトキンの問題意識を,十分に引き受けることができなかった。このアトキンの問題意識は,現代において非常に大きな意味を持つ。この現代的課題に取り組むために,今後の教育評価研究は,「羅生門的接近」における対比①③の背後にある問題意識と,対比②の背後にある問題意識を別物として引き受けていく必要がある。