著者
宮本 翔伍 杉野 浩 重原 幹生 兵頭 洋平 下永 貴司 木下 晴之 市川 織絵 岡 俊治
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.444-451, 2020-04-15 (Released:2021-04-24)
参考文献数
10

症例は21歳男性.就寝前に突然の胸痛を自覚し,当院を受診.来院時は明らかな心電図変化を認めなかったが,症状残存を認めたため経過観察目的に入院となった.その後胸部症状は消失したものの,翌夕方に再度突然の胸痛を認め,心電図にて下壁誘導の著明なST上昇を認めた.心臓超音波検査では下壁の壁運動低下を認め,急性下壁心筋梗塞が疑われたため,冠動脈評価のため緊急冠動脈造影を施行したが,有意狭窄を認めなかった.ニトログリセリン・ニコランジル冠注にてST変化は少しずつ改善を認めた.同時に施行した左室造影では下壁から心尖部にかけて壁運動低下を認め,たこつぼ症候群も否定できない所見であった.ニコランジル持続静注と硝酸イソソルビド貼付剤にて経過観察したが,翌朝再度心電図でST上昇を伴う胸痛発作を認めた.ジルチアゼム塩酸塩投与後は症状は軽快した.冠攣縮性狭心症と診断して同日よりカルシウム拮抗薬の内服を開始し,その後胸痛発作なく経過された.状態が落ち着いた段階でカルシウム拮抗薬内服下での冠攣縮誘発を行ったが,攣縮は誘発されなかった.たこつぼ症候群合併の可能性も考慮して二核種シンチグラフィも施行したが,たこつぼ症候群は否定的と判断した.退院後,現在まで胸痛の再発は認めていない. 若年の冠攣縮性狭心症は非常に稀であるため,若干の文献的考察を踏まえて報告する.