著者
今江 崇 兼子 正勝
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1-13, 2013 (Released:2013-09-25)
参考文献数
18

近年、ユーザ・エクスペリエンス(UX)などユーザを重視する設計思想では、製品そのものにとどまらず、ユーザの使用体験をデザインすることが提唱される。筆者らはこれらの設計思想の検討を通じてユーザの概念を明確化する必要性を論じ、使用を、製品が予め決められた通りに機能するプロセスとしてのみならず、つどの使い方に応じてユーザと機能の関係が動的に生成するプロセスと捉える概念モデル (機能中心と、使い方中心の使用モデル) を提案する。本稿ではその概念モデルに基づき、ユーザの使用を定量的に把握する手法を検討する。即ち、先行研究の蓄積があるUXの評価項目を利用し、UXに配慮し設計された製品である初代iPadを事例とし、そのユーザの使用体験が記述されたブログをテキストマイニングの手法で分析する。そして形態素の出現傾向から、使い方中心のモデルで捉えうる使用のあり方を定量的に把握し、使用を通じて活性化するユーザと機能の関係を確認する手法の検討を行う。これは質的データを定量的に処理することで、特定の製品の使用体験に関するユーザの主観的評価の傾向を俯瞰する試みである。これにより、ユーザの行動の活性化を企図して設計された製品に関して、実際にそうした活性化が実現しているかどうかを確認する方法について検討する。