著者
渡辺 真由子
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.2_81-2_88, 2012 (Released:2012-12-25)
参考文献数
39

青少年による性的有害情報への接触は、インターネットの普及で容易になった。フィルタリングが必ずしも有効でないスマートフォンの登場がその傾向を後押ししており、新たな対策は急務といえる。本稿は、マス・コミュニケーションの効果研究において、性的有害情報に関する従来メディアの研究を概観した上で、ネット上の性的有害情報をめぐり海外で行なわれている研究の最新動向を伝え、ネットならではの影響特性や影響研究の限界についても分析した。性に関する情報が全て有害なのではなく、問題は、その描写内容に「性暴力」が登場するかどうか、さらには被害女性の反応をどう描くかにあることが示唆される。CGの発達やコミュニティサイトの相互作用性など、ネットの特性が生み出す実態にも目を向けねばならない。ネット上の性的有害情報への対策を技術的な規制のみに頼るのは限界がある。新たな自主規制・法規制の検討や、性情報の歪みやネットならではの特性を批判的に読み解くリテラシー教育が、家庭や学校において今後より求められよう。
著者
山口 真一
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.53-65, 2015

本稿では、近年多く発生している炎上の実態と、炎上に加担している人の属性について、実証分析によって以下6つの仮説検証を行う。①炎上件数は近年増加している。②企業に関連する炎上が多く発生している。③炎上加担者は少ない。④炎上加担者はインターネットヘビーユーザである。⑤炎上加担者は年収が少ない。⑥炎上加担者はインターネット上で非難しあって良いと考えている。<br>まず、記述統計量分析の結果、仮説①-③はいずれも支持された。つまり、近年多く炎上が発生しており、心理的・金銭的被害が出ているが、実際に炎上に加担している人は非常に少なく、具体的には約1.5%であった。また、2011年-2014年にかけての炎上件数は、いずれも年間200件程度であった。次に、計量経済学的分析の結果、炎上加担行動に対して、「男性」「年収」「子持ち」「インターネット上でいやな思いをしたことがある」「インターネット上では非難しあって良いと思う」等の変数が有意に正の影響を与えていた一方、「学歴」や「インターネット利用時間」等の変数は有意な影響を与えていなかった。このことから、仮説⑥は支持された一方で、④、⑤は棄却され、炎上加担者は社会的弱者、バカ等としている先行研究と実態が乖離していることが確認された。
著者
山口 真一
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.53-65, 2015 (Released:2015-12-22)
参考文献数
30
被引用文献数
3

本稿では、近年多く発生している炎上の実態と、炎上に加担している人の属性について、実証分析によって以下6つの仮説検証を行う。①炎上件数は近年増加している。②企業に関連する炎上が多く発生している。③炎上加担者は少ない。④炎上加担者はインターネットヘビーユーザである。⑤炎上加担者は年収が少ない。⑥炎上加担者はインターネット上で非難しあって良いと考えている。まず、記述統計量分析の結果、仮説①-③はいずれも支持された。つまり、近年多く炎上が発生しており、心理的・金銭的被害が出ているが、実際に炎上に加担している人は非常に少なく、具体的には約1.5%であった。また、2011年-2014年にかけての炎上件数は、いずれも年間200件程度であった。次に、計量経済学的分析の結果、炎上加担行動に対して、「男性」「年収」「子持ち」「インターネット上でいやな思いをしたことがある」「インターネット上では非難しあって良いと思う」等の変数が有意に正の影響を与えていた一方、「学歴」や「インターネット利用時間」等の変数は有意な影響を与えていなかった。このことから、仮説⑥は支持された一方で、④、⑤は棄却され、炎上加担者は社会的弱者、バカ等としている先行研究と実態が乖離していることが確認された。
著者
山口 真一
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.23-34, 2017 (Released:2018-01-26)
参考文献数
25

近年におけるIT技術の急速な進歩によって、コンテンツ産業において、コンテンツそのもの(あるいは一部)をフリーで提供し、それに付加価値を加えたコンテンツを有料で販売するフリー型ビジネスモデルが普及してきている。しかしその一方で、フリーで提供された無料財が有料財の代替材となってしまうという、いわゆるカニバリゼーションの問題も指摘されている。そこで本研究では、そのようなフリー型ビジネスモデルの有効性を検証するため、音楽産業における無料ネット配信が、有料財であるCDの販売数にどのような影響を与えているか、内生性に配慮した実証分析によって明らかにする。分析の結果、無料ネット配信視聴者数はCD販売数に有意に正の影響を与えており、その弾力性は約0.19であった。また、動画時間によって区別した分析を行った結果、長時間無料ネット配信では有意に正の影響が見られた一方で、短時間無料ネット配信では有意な影響がなかった。さらに、無料ネット配信を行うコンテンツの方が、行わないコンテンツよりも約13%、CD販売数が多いことが分かった。以上のことから、曲の多くの部分を公開する長時間の無料ネット配信はCD販売数を増加させるため、企業はそのような販促型フリー戦略をとるべきといえる。
著者
小宮山 功一朗
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.13-23, 2019 (Released:2019-07-22)
参考文献数
20

サイバーセキュリティガバナンスが重要な政治課題となる中、CSIRT(コンピュータ・セキュリティ・インシデント・レスポンス・チーム)への関心が高まっている。先行研究で繰り返された「CSIRT=サイバー空間の消防署」などの定義は変容の激しい世界において有効性を失いつつある。より普遍的なCSIRTの概念が必要である。本研究はサイバーセキュリティガバナンスの数々のレジームを目的と機能と文化という3つのレンズを通して眺めれば、CSIRTは被害者救済とシステムの復旧を目的にかかげ、機能としてインシデント対応能力を持ち、互恵主義の文化を信条とする組織群のことであると主張する。特に互恵主義の文化は他のレジームとの重要な違いであり、それが根付いた背景には、インターネットの特質がインシデント対応のための国際協力と、科学的知識の共有を要請したことがあったことを指摘する。
著者
上田 祥二 松井 亮治 針尾 大嗣
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.83-90, 2021 (Released:2021-11-17)
参考文献数
15

プレイステーション5 の購入者の転売活動を把握するために、発売日から12 月末までおよそ1 ヵ月半のヤフオクの落札に関する情報を収集し、取引に関するデータの分析を行った。発売日当日から4 日間の取引数が多い結果であり、1 日に600 件規模の取引が確認できた。出品者の取引回数を整理すると、取引頻度が1 回または2 回の出品者が全体の87% を占めているおり、オークションによる転売活動の大部分は取引頻度が1~2 回の出品者によるものであった。出品者の取引回数別にユーザをグループ化しプロファイルの具体化を行ったところ、「実店舗のWeb 販売」、「個人中上級取引者」、「個人初級取引者」の3 種類に分類できた。
著者
山口 真一
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.15-27, 2015

本研究では、コンテンツ産業におけるインターネット配信について、それらがパッケージ製品販売数に与える影響を、補完効果と代替効果という観点から理論的に整理する。そして、深夜アニメ市場の需要モデルを用いた実証分析によって、定量的な検証を行う。<br>作品をグループ、エピソードを系列とした固定効果法推定の結果、無料配信の補完効果は代替効果より大きく、パッケージ製品販売数に対して有意に正の影響を与えていた。そして、その大きさは、無料配信動画再生回数が1%増えるとパッケージ製品販売数が約0.10%増加するというものであった。また、有料配信は有意な影響を与えていなかった。このことから、少なくとも深夜アニメ市場については、インターネット配信を積極的に行うことが、生産者余剰と社会的厚生の増加に繋がることが確認された。<br>さらに、詳細な分析の結果、男性向作品では無料配信、有料配信共に有意に正の影響を与えていた一方で、女性向では共に有意な影響がなかった。そして、オリジナル作品と人気作以外では無料配信が有意に正の影響を与えていた一方で、オリジナル作品以外と人気作では無料配信も有料配信も有意な影響を与えていなかった。
著者
藤代 裕之
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.93-99, 2019 (Released:2019-10-29)
参考文献数
16

2016年のアメリカ大統領選挙を契機に、フェイクニュースに対する注目が世界的に集まっているが、国内においては研究がほとんど行われていない。本研究は,国内におけるフェイクニュースの生成過程を,オンラインニュースにおける生態系で重要な役割を果たすミドルメディアに注目して分析したものである。分析の結果、ミドルメディアは、マスメディアのニュースと検証困難なソーシャルメディアの批判的・否定的反応を組み合わせることでフェイクニュースを作り出していた。これはミドルメディアの新たな役割である。また、ミドルメディアにより作り出されたフェイクニュースが記事配信されることにより、オンラインにおいて大きな影響力を持つポータルサイトに到達する「フェイクニュース・パイプライン」の存在を明らかにすることができた。
著者
原田 伸一朗
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-11, 2021 (Released:2021-06-29)
被引用文献数
1

近年、バーチャルYouTuber(VTuber)と呼ばれる、生身の人間の姿ではなく、CG アバターの姿を通してインターネット上で動画投稿・ライブ配信などの活動をおこなうエンターテイナーが若年層を中心に人気を博している。本稿は、CG アバターとして表現されるVTuber の「肖像」に対して、その「中の人」が持ち得べき権利について、法理論的根拠を検討したものである。これまでの判例・学説における「肖像権」の理解を確認しつつ、その「権利対象」と「権利内容」の2 つの拡張の必要性・可能性を検討した。第一に「肖像」とは何か、VTuber のCG アバターを「中の人」の「肖像」と法的に捉えられるかどうか、第二に「肖像権」とは何か、第三者によるCG アバターの利用を排除し、また自身が利用し続ける権利を「肖像権」の権利内容に含められるかどうかである。
著者
辻 大介 北村 智
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.99-109, 2018 (Released:2018-11-08)
参考文献数
39

インターネット上では、従来のマスメディア中心型の環境よりも、情報・ニュースの選択的接触が生じやすく、それによって人びとの意見の極性化が生じ、世論や社会の分断を招くのではないかという懸念が、多くの研究者や評論家から表明されている。本稿では、日本の「ネット右翼」やアメリカの“Alt-Right”に見られるようなネット上の排外主義に着目しつつ、2016年に日本とアメリカで実施したウェブ調査のデータから、ネットでのニュース接触が排外的態度の極性化(二極分化)傾向との連関について検証する。分位点回帰分析の結果、日本ではPCを用いたネットでのニュース接触頻度がユーザの排外的態度の二極化傾向と有意に連関していたが、アメリカではむしろ専ら反排外的な方向のみに変化させることが確認された。このことは、ネットにおける態度・意見の極性化の生起が、社会・政治・文化的コンテクストによって左右されることを示唆している。
著者
大槻 明 町田 悠貴 川村 雅義
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.111-126, 2018 (Released:2018-11-08)
参考文献数
15

ユーザ(消費者)の潜在的なニーズを明らかにするために,最近ではサイレントカスタマー分析やサイレントマジョリティー分析などのアプローチが盛んに研究されている.また,スマートフォンやSNSの普及により,ユーザがいつでも簡単に趣向等をSNS上に投稿することが可能となった.そこで,本研究ではTwitterで「暇」と対外的に意思表示をしているユーザが何を求めているのか,という観点でユーザシチュエーション分析を行うことで,マーケティングに資するユーザの潜在的ニーズを明らかにする分析アプローチについて提案する.具体的には,独自に開発したスクリプトを用いて,2015年9月〜2016年8月の期間で,全国で「暇」というキーワードが含まれるツイートを約80万件取得し,これらのツイートを対象に,T値及びMI値を用いて「暇」と共起関係が認められる単語(名詞,動詞,形容詞,形容動詞)を抽出した.そして,三大都市を対象に,「暇」と共起関係が認められる単語の位置情報を日本地図に可視化することで,暇ツイートが集中しているスポットを明らかにし,極性分析を行うことで暇ツイートが集中しているスポットでは,どのようなつぶやきがされていて,それらがポジティブもしくはネガティブのどちらの意味でつぶやかれているのかについて,三大都市の違いを明らかにした.さらに,極性分析では拾い切れなかったユーザの潜在的な状況について,共起ネットワーク分析及びTF-IDFの両アプローチを用いて分析を行うことで三大都市の違いを明らかにした.
著者
斉藤 邦史
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.19-27, 2017 (Released:2018-01-26)

本稿では、人工知能に対する法人格の付与について、以下の考察を得た。第一に、すべての人工知能が自然人の模倣を目的とするものではなく、近い将来に現実的なニーズが見込まれるのは、取引関係者の責任を制限するため、法的な権利義務を帰属させる投資媒体としての法人格であるように思われる。第二に、人工知能の自律的な判断に基づいて活動する法人においても、ことさらに構成員や役員を排除する必要はなく、たとえば既存の合同会社を利用する方法でも、その運営に関与する権限と責任を適切に配分することが可能である。第三に、外国法により法人格を付与された人工知能が日本で活動する場合には、抵触法(準拠法の選択)および実質法(外人法の適用)の両面において取引の安全を保護することができる。
著者
小川 一仁 川村 哲也 小山 友介 本西 泰三 森 知晴
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.47-52, 2019 (Released:2019-07-22)
参考文献数
12

スマートフォンの普及によって、児童や生徒がオンラインゲームでのさまざまな課金サービスに容易にアクセスできるようになった。本稿では近畿地方の小中高校生がオンラインゲームにおいてどの程度課金をしているかに関するアンケート調査の結果概要を報告する。かれらの課金経験率は約24%で、大学生を対象にした盛本(2018)と同程度である一方、社会人を対象にした新井(2013)よりは低かった。また、小中生では男子生徒の方が課金経験率が高い傾向にあった。
著者
石井 健一
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.3_25-3_36, 2011 (Released:2012-03-25)
参考文献数
28

5つのSNSサービス (Facebook、mixi、モバゲータウン、グリー、Twitter) について、個人情報の開示が利用にどのような影響を与えているのかという視点から分析をおこなった。その結果、既知の友だちが多く個人情報の開示度が高い「強いつながりのSNS」 (Facebook、mixi) と、既知の友だちが少なく個人情報の開示度が低い「弱いつながりのSNS」 (モバゲー、グリー、Twitter) に分かれることが確認された。「強いつながりのSNS」は既知の対人関係、「弱いつながりのSNS」はネット上の対人関係と結びついていた。個人情報のうち属性情報の開示はSNSの利用頻度や友だちの数と有意な相関があったが、識別情報の開示は、既知の友だちの数のみに有意な相関があった。コミュニケーション不安やプライバシー意識とSNS利用の間には有意な関連はみられなかった。
著者
大倉 沙江
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.23-30, 2018

<p>高齢化の進展に伴い、中途障害者が増加している。このことから、聴覚障害者は手話、視覚障害者は点字といったステレオタイプを超えて、障害の種類や程度、コミュニケーション手段の違いに応じた情報提供が求められている。本稿は、障害がある有権者に対する選挙情報の保障に関わる国レベルの政策の現状と課題を明らかにすることを目的とする。具体的には、政見放送への手話通訳・字幕の付与、選挙公報の点訳・音訳を中心に、審議会の会議録や新聞記事を用いて検討を行った。分析の結果、政見放送については、衆議院議員総選挙の比例代表では字幕の付与が、参議院通常選挙の選挙区では手話通訳および字幕の付与が認められていないことが確認された。また、選挙公報については、点字版はすべての都道府県で作成されているものの、拡大文字版は半数以上の都道府県で作成されていないことが確認された。選挙情報の保障に向けて、障害がある有権者の選挙情報の保障をいかに、誰の責任で実現するかという点に関する政策決定者や有権者の間の合意形成を図ることが緊要であり、将来の政策展開に必要な課題が整理された。</p>
著者
安岡 規貴
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.109-123, 2016

<p>この研究は Google に対する我が国の DMCA テイクダウンノーティスの利用実態を Google 透明性レポートおよび Lumen の 2015 年上半期までのデータを利用することによって分析する。その結果、我が国において DMCA テイクダウンノーティスは、主にアダルトコンテンツと同人の著作権者が関わることによりかなり活発であることがわかった。さらに Google によって不正利用とされた削除リクエストおよび何らかの理由で対応されなかった削除リクエストが多いという問題点が明らかになった。これらの事実を基に、本稿は DMCA テイクダウンノーティスが適切に利用されているかどうかを社会全体で注意して見ることおよび申立者の DMCA テイクダウンノーティスの適切な発行を促すことを提案する。</p>
著者
海野 敦史
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.37-49, 2014 (Released:2014-11-27)
参考文献数
20

憲法21条2項後段にいう「秘密」の意義及び射程については、従前の学説における議論が乏しかったが、以下のように捉えるべきであると考えられる。すなわち、当該「秘密」については、(1)通信当事者の意思に関わりなく客観的に成立する、(2)公権力及び通信管理主体という特定の主体との関係においてのみその保護が問題となる、(3)通信当事者が「通信」を行うに際して一般に有するものと客観的に認められる「信頼」に基づき発現する、という特質を有しており、通信当事者の「信頼」の向かい先にない一般私人との間では憲法上直接問題となるものではない。少なくともこの点において、「秘密」の概念は、公私双方の局面にわたり問題となり得るプライバシーの概念とは区別される。したがって、通信の秘密不可侵の保障の趣旨をもっぱらプライバシーの保護に求めることは必ずしも妥当ではない。「秘密」の保護とは、むしろ憲法上確保されるべき「通信」の制度的な利用環境の表徴として捉えられ、国民各人の「通信」の安心・安全な利用を確保する観点から、セキュリティ等のプライバシー以外の一定の要素も通信制度の中で適切に保護されることが憲法上予定されているものと解される。なお、近年一部の学説で主張されている「通信の内容の秘密」と「通信の構成要素の秘密」との憲法上の区別については、両者の不可分性等にかんがみ妥当ではなく、通信の秘密不可侵の保護領域においては両者を一体的に捉えるべきであると考えられる。