- 著者
-
内海 真衣
- 出版者
- 日本重症心身障害学会
- 雑誌
- 日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
- 巻号頁・発行日
- vol.43, no.2, pp.307, 2018
目的Lesch−Nyhan症候群は舞踏病様アテトーゼや口唇、指等を噛む自傷行為等により生活面で様々な困難さを抱えやすい。自傷行為に対する有効な治療法はなく身体抑制等、対症療法が用いられる。本報告では入所当初、情緒不安定さが顕著であった本症候群利用者に対する心理支援について検討する。症例19歳、男性A。家族との面会・外泊前後で情緒不安定となり「寂しい」「家に帰りたい」と訴え、より強固な身体抑制を求めることもあった。また自傷行為や汚言に対しては「わざとじゃない」「みんなに僕の病気のことをわかってほしい」と訴え、自分を「情けない」と涙することもあった。経過入所生活と情緒の安定を目的に心理支援を行った。心理士の勤務にあわせて週4〜6回、約30分の個別の時間を設けた。個別の中ではAの話を丁寧に聴き共感的理解に努めた。そしてAの思いを関係者に伝え関わりを助言し周囲とつなぐように支援した。またAが安心して楽しく過ごせるような環境調整を他職員と協働して行った。少しずつ個別の中で気持ちを言語化し消化できるようになり調子の波はありながらも落ち着いて過ごせる日が増え、約10か月後には「ここに来てよかった。僕のことを理解してくれる人がいるから」という言葉が聞かれるようになった。考察Aの行動障害や舞踏病様アテトーゼは精神的ストレスや気持ちの揺れと連動して強まり、自分の意志で抑制できないことで情緒的に混乱した。そして汚言は周囲との意思疎通を困難にした。これらがAの心理的苦痛となっていた。このようなAの体験世界や心理的側面に理解を示しながらAの健康的で肯定的な部分と対話するように関わり続けたことが情緒の安定につながったと考えられた。そして入所生活の安定には職員から障害特性も含めて理解されているという安心感や介助等に対する信頼感、生活上の楽しみや役割が寄与したと考えられた。倫理的配慮本報告にあたり本人および保護者の同意を得た。