- 著者
-
内藤 孝雄
- 出版者
- 特定非営利活動法人 日本顎咬合学会
- 雑誌
- 日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学 (ISSN:13468111)
- 巻号頁・発行日
- vol.30, no.1-2, pp.18-25, 2010-04-26 (Released:2015-12-11)
- 参考文献数
- 7
われわれ歯科技工士は,補綴装置を製作するための基本となる解剖学的観点からの歯の形態や歯列,嵌合状態を把握していなければ,歯科医師の指示による臨床での応用が利かなくなる.これは,臨床においては生体によってさまざまな咬合状態が存在するので,個々 の患者に対し適切に調和する機能性を考慮するためである. しかし,いまだ解剖学に沿った理想的な正常咬合という明確に定義づけられた基本模型が存在しないため,何を目標として技術の修練を行えばよいのか困惑している. そこで,解剖学的観点から,さまざまな臨床に対応するための指標となる正常咬合模型を具現化する事を目的として,日本人の全歯種の歯を平均値にて石膏彫刻を行い,もっとも嵌合する位置を探しだしながら排列を試みて検証を行った.その結果,おおよそではあるが,以下のことが確認できた. 1:正面面観から矢状面観にかけて切縁鼓形空隙は,一定の法則で広がりを見せた.2:咬合面観の歯列弓は,上下顎第二大臼歯が外開きになる傾向があった. 3:矢状面観の咬合平面は,隣り合う辺縁隆線が同じ高さでスピーの湾曲を呈していた.4:矢状面観の上顎臼歯部歯軸は,近心傾斜を示す傾向があった. 5:矢状面観の上顎第一大臼歯は,遠心頬側咬頭が挺出していた. 6:矢状面観の上顎第一大臼歯と上顎第二大臼歯の辺縁隆線は,とくに段差がついた. 7:上下顎の対向関係は1 歯対1 歯になったが,cusp to fossa の関係にはなかった. これらの結果の2については,上下顎第二大臼歯の咬合面溝形態と咬頭数の組み合わせによって歯列弓には変化が生じるとともに,7については,下顎が前方位になる1歯対2歯の対向関係になると,歯列弓や咬合接触点の位置に変化が生じると考えられた.