- 著者
-
内藤 梨沙
- 出版者
- 日本景観生態学会
- 雑誌
- 景観生態学 (ISSN:18800092)
- 巻号頁・発行日
- vol.17, no.2, pp.57-73, 2012-12-25 (Released:2013-01-09)
- 参考文献数
- 153
- 被引用文献数
-
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世界的な両生類の減少が注目されるようになってから約20年間,世界各地で両生類の減少理由や生態に関する研究が行われ,様々な情報が蓄積されてきた.減少の理由は生息する地域や種によって異なるが,主に,生息地である湿地の減少や分断化,環境汚染であると考えられている.日本においてもその例外ではなく,天然湿地や森林の開発などによる両生類の減少が進んでいる.日本の里山景観においては,湿地性生物の生息地の代替地として水田が重要な役割を果たしてきた.しかし,農業の近代化や耕作放棄地の増加に伴い水田環境が変化し,日本固有の水田生態系を代表する生物が絶滅危惧種に指定されるようになった.カエル類の多くは環境汚染に敏感であり,また生活史の中で水陸両域を必要とするため,水田環境の変化を反映する環境指標種として期待されている.その中でも絶滅危惧種IB類に指定されている日本固有種ナゴヤダルマガエルは水田環境に強く依存し,農業依存種の代表とされている.本種の生息場所は水田地域に限られているため,具体的な保全計画策定に向けて,水田における本種の生態に関する研究が求められている.本種の減少理由は水田における水管理の変化,圃場整備による乾田化,近縁種であるトノサマガエルとの交雑などが指摘されている.本種は一年を通して水田に留まり,繁殖活動や幼生の生存率などは水田の水管理に強く影響されている.また,水辺からほとんど離れない性質を持つため,成体の生息地利用は水田周辺の水辺環境(素掘りの水路や,ビオトープなど)の有無や湛水期間に影響されている.また,畦は水田地域における重要な陸域環境として利用されており,本種による微生息地利用の研究は今後の畦管理について示唆を与えるものである.本論文では,両生類の置かれている状況,水田環境とカエル類の関係,農地における生物の保全,ナゴヤダルマガエルの生活史や生態を整理し,カエルの水田における保全,特にナゴヤダルマガエルの保全に向けた提案を行った.