著者
円城寺 秀平
出版者
山口大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

胃癌は、未だに世界のがんによる死亡者数の第3位であり、新たな治療戦略が必要とされている。SETは、炎症反応の増強やがんの悪性化に重要な役割を果たす多機能タンパク質であり、重要ながん抑制因子であるタンパク質脱リン酸化酵素PP2Aの活性を阻害することでがんの悪性化に寄与する。実際に多くのがんでPP2Aの不活性化が認められており、一部のがんではSETの発現上昇と悪性度との相関が報告されている。しかし、胃癌におけるSETの発現や機能については明らかになっていない。そこで胃癌におけるSETの機能を解明することで、SETが胃癌に対する新規治療標的となりうるか検討することを目的に研究を行った。今年度の研究成果として、ヒト胃癌細胞株におけるSETの発現抑制は転写因子E2F1と、そのターゲット因子である幹細胞マーカーNANOGの発現を低下させた。このことから、SETはPP2A阻害を介してE2F1とNANOGの発現上昇を引き起こし胃癌細胞の幹細胞性を亢進させていると考えられる。また、SET標的薬であるOP449はE2F1の発現を減少させて抗がん効果を示したことから、胃癌に対する新規治療標的としてSETの有用性が期待される。また、SET標的薬 OP449とキナーゼ阻害薬であるdasatinibの併用効果を胃癌細胞株で検討したところ、相加効果が認められた。さらに、HER2陽性の胃癌患者に適応されるHER2抗体trastuzumabに対して抵抗性を示す胃癌細胞株MKN7にも、OP449は抗がん効果を示した。これらの結果は、既存のキナーゼ阻害薬とホスファターゼ活性化薬の併用効果、薬剤耐性がんに対する抗がん効果を示すものであり、今後 SET 標的薬を初めとしたホスファターゼ活性化薬の臨床応用の可能性を強く後押しするものである。本研究の成果から、SETを標的とした抗がん戦略の新たな可能性が示された。