著者
冨安 皓行
出版者
国立大学法人 大阪大学大学院人間科学研究科附属未来共創センター
雑誌
未来共創 (ISSN:24358010)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.3-30, 2021 (Released:2021-07-08)

本研究は、米国に住む「日本人ゲイ」が性的マイノリティ性と人種・民族的マイノリティ性という二つのマイノリティ性をどのように経験してきたのかについて記述することを目的とする。本研究は語る内容のみならずどのように物語るかという語り方、すなわち物語/語りのナラティブとしての側面に着目し、カリフォルニア州サンフランシスコ・ベイエリアに住む三名の「日本人ゲイ」の物語/語りを提示・分析する。三名の物語/語りは「オカマ」のような話し方によるいじめについての話や、日本企業の異性愛中心性についての話、日本と米国どちらに住み続けるかについて思案するような話を含んでいる。これらの話は既存の研究の指摘と多分に重なり合う。 ときに「日本人ゲイ」たちの物語/語りは両義性や矛盾を含む。たとえば一方で人種的・民族的マイノリティ性をもつ性的マイノリティが向き合う差別について語りながらも他方で自身の「成功」について示すことや、「悲惨」なものとして語りうる物語をさまざまな工夫を通して「悲惨」な物語として語らないことなどの例がみられる。本研究はこれらの物語/語りのもつ意味や役割について考察した。