著者
冨田 武照
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

サメ・エイ類を含む軟骨魚類は、現在でも生きている原始的な脊椎動物と考えられており、その生殖システムを解明することは私たちの生殖システムの起源を知る上で極めて重要である。特にサメ・エイ類には卵生(卵を産む)と胎生(赤ちゃんを産む)のグループが共存しており、私たち哺乳類に見られる胎生がいかに進化してきたのか明らかにする格好の材料である。私は、沖縄美ら海水族館と共同で、卵生のトラザメが呼吸システムをいかに獲得するのか詳細に調査を行った。調査には実体顕微鏡による行動解析、組織切片の観察などを中心に行った。その結果、トラザメの胎児は卵殻の中にいる期間に大きく呼吸システムを変化させることが明らかになった。具体的には、前半の期間には外鰓を用いて呼吸を行うが、後半の期間には筋肉や骨格系の発達に伴って水をポンピングする能力を獲得し、内鰓を用いて呼吸を行うようになる。このような呼吸システムの変化は脊椎動物の進化の初期にすでに獲得されていた可能性がある。さらに、私の過去の胎生のエイ類の研究によって得られた結果は、トラザメで見られた呼吸システムの変化は胎生のサメ・エイ類でも見られる可能性があることを示している。この結果は、卵生と胎生はまったく異なる生殖システムなのではなく、ある程度同じシステムを共有していることを示唆している。胎生と卵生のシステムに今回共通性が見出せたことで、卵生から胎生への進化の過程の一端が解明できたと評価できる。