著者
出原 章雄 水口 武尚
雑誌
研究報告組込みシステム(EMB) (ISSN:2188868X)
巻号頁・発行日
vol.2019-EMB-50, no.1, pp.1-7, 2019-03-10

近年,汎用 Ethernet デバイスの低価格化,高機能化から,機器間の通信に,独自の専用バスではなく,汎用 Ethernet を使いたいという要求が高まっている.しかし,Ethernet は一般的にスループット向上を目指すベストエフォート型であり,通信の定周期性が問題となることが多い.そこで,IEEE は,Ethernet 上で時間制約のある通信を行うことを目的として,TSN (Time-Sensitive Networking) を策定中である.TSN を実現するためには,送信タイミングのスケジューリングが重要であり,この実現に向けて,Linux は,2018 年 10 月に ETF (Earliest TxTime First) 機能を導入した.本機能により,Network Interface Controller が搭載するフレーム送信タイミング指定機能を,アプリケーションから利用可能となる.そこで,組込み Linux 上での TSN 通信の実現可能性を確認するため,組込み機器上で ETF 機能を用いた場合のフレーム送信周期のぶれを評価した.結果,ETF 機能を利用しない通常送信において,1ms 周期のフレーム送信の最大値と最小値の差は 20us 程度となった.対して,ETF 機能を利用した場合,最大値と最小値の差は 55ns となり,送信タイミングのぶれは 10 ナノ秒オーダとなることが判明した.一般的な TSN 通信のユースケースではマイクロ秒の精度が求められるが,通常送信の場合,フレーム送信タイミングは最悪 20us 程度ぶれるため,TSN 通信は現実的でない.これに対し,ETF 機能を利用した場合,フレーム送信タイミングは 10 ナノ秒オーダのぶれに収まるため,組込み Linux においても TSN 通信が実現可能となる見込みを得た.