著者
前之園 春奈
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.225-237, 2015-10-30

ジャン=ジャック・ルソー(1712-1778)の『エフライムのレヴィ人』(1762)は旧約聖書の『士師記』の翻案である。作品の前半に登場するレヴィ人は『社会契約論』(1762)で論じられている立法者のモデルのひとつとして描かれていると考えられる。ルソーは『社会契約論』で立法者は共同体における例外的存在であると述べているが,レヴィ人もまたイスラエル民族の中で特殊な存在であった。このことを手がかりにして,レヴィ人が立法者としての資質を備えており,作品中では立法者としての役割を果たしていたということを明らかにした。
著者
前之園 春奈
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.79, pp.17-30, 2014-09-16

ジャン= ジャック・ルソーの『エフライムのレヴィ人』は,旧約聖書の『士師記』を下敷きにして書かれている。作品の最後にはアクサという娘が登場するが,このアクサのエピソードはルソーが創作したものである。このアクサの自己犠牲の行為が『社会契約論』における「全面譲渡」の身ぶりと同じであると考えられることから,『エフライムのレヴィ人』を政治的作品として位置づけた読解を試みた。本稿では,ルソーがアクサのエピソードを挿入することによって,「全面譲渡」成立の瞬間の原風景を物語化して読者に呈示していることを明らかにした。