著者
前島 隆司
出版者
金沢大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

視床下部及びモノアミン・コリン作動性神経系により形成される睡眠・覚醒制御システムについて、個々の神経系を結ぶ入出力回路の作動機序と機能的役割の解明をめざし、錐体オプシンを用いた光遺伝学的手法を導入し実験を行なった。マウスをモデル動物とし、視床下部オレキシン神経及び縫線核セロトニン神経の神経活動を光遺伝学的に操作し、睡眠・覚醒状態の変化を観察する実験系の立ち上げを行なった。長波長型及び短波長型錐体オプシンをそれぞれ励起波長の重ならない蛍光タンパク質eGFP及びmCherryで標識し、Cre-loxP部位組み換え反応により発現されるようアデノ随伴ウイルスベクターにクローニングした。実験には細胞特異的にCreリコンビナーゼを発現する遺伝子改変マウスを用い、オレキシン神経及びセロトニン神経への遺伝子導入のため、それぞれOrexin-Creマウスの視床下部外側野とSERT-Creマウスの背内側縫線核内にウイルスベクターを投与した。いずれの錐体オプシンもセロトニン神経特異的に発現し、最適波長の光照射により過分極応答を誘発させることをそれぞれ組織学及び電気生理学的手法により確認した。また視床下部においては一部非特異的発現が認められたが、オレキシン細胞においても錐体オプシンの活性化により過分極応答が誘導された。次に、脳波・筋電計測下の生体マウスにおいて、錐体オプシンを導入した神経核に対し光ファイバーを通して直接光照射を行ない、睡眠・覚醒状態の変化を観察する実験システムを構築した。予備的ながら光照射期間において睡眠・覚醒状態の変化を観察した。今後実験系の修正を適時行いつつ実験を重ね、厳密な対照実験との比較から慎重に結論を導出したい。錐体オプシンを用いた光遺伝学的手法は神経回路の機能的役割を解明するための一助となると期待される。