著者
前田 建一郎
出版者
くにたち人類学会
雑誌
くにたち人類学研究 (ISSN:18809375)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-29, 2012

原住民土地法廷が開廷した1870 年を前後して、ニュージーランド・チャタム諸島では、部族による慣習的な共同所有が原則だったところに、土地の個人所有という先住民マオリにとって未聞の概念が導入されたことで、正統なる土地の所有者が誰なのかをめぐって、部族間で激しい対立が生じていた。本論は、19 世紀の原住民土地法廷の裁判記録を用いた歴史人類学的な研究である。前半部では、土地の所有者を裁判で確定していく作業を通じて、法的な主体として部族が立ち現れ、その過程でモリオリとンガティ・ムトゥンガの両部族が、慣習についていかなる主張を繰り広げたかを検討する。後半部では、裁判記録の中の個人名をたどることで、相互に深い血縁関係にある部族の成員が、所属と同盟を渡り歩きながら原住民土地法廷をきっかけとして、部族への単一なる帰属を選択していった過程について明らかにする。