著者
飯田 修一 出田 収 松下 景 春原 嘉弘 根本 博 前田 英郎 石井 卓朗 田村 泰章
出版者
農業技術研究機構近畿中国四国農業研究センター
雑誌
近畿中国四国農業研究センター研究報告 (ISSN:13471244)
巻号頁・発行日
no.10, pp.69-86[含 英語文要旨], 2011-02

「姫ごのみ」は,温暖地西部向きの良質な低アミロース米品種を育成することを目的として,低アミロース米の「ミルキークイーン」を母,良質,良食味の「中国169号」父とする交配後代より育成した品種である.1999年,中国農業試験場(現近畿中国四国農業研究センター)において交配を行い,以降,集団育種方に準じて育成を進め,2005年以降は系統番号「中系2855」を付して,生産力検定試験,系統適応性検定試験に供試してきた.2006年以降は系統名「中国192号」を付して地域適応性を検討してきた.2010年に「姫ごのみ」として,品種登録出願(出願番号第24753号)を行った.1. 出穂期は「柔小町」より7日早く,「ヒノヒカリ」と同等である.成熟期は「柔小町」より8日早く,「ヒノヒカリ」と同等である.瀬戸内平坦部では"中生の晩"にあたる.稈長は86cmで,「柔小町」より5cm短く,「ヒノヒカリ」と同等である.穂長は「柔小町」と同等で,「ヒノヒカリ」より1.8cm程度長い.穂数は「柔小町」と同等で「ヒノヒカリ」よりやや少ない.草型は"中間型"である.耐倒伏性は「ヒノヒカリ」並かやや劣る"やや強"である.2. 「姫ごのみ」の玄米千粒重は約21gであり,「ヒノヒカリ」と同等である.玄米の外観品質は,「ヒノヒカリ」,「柔小町」より明らかに優る.なお,低アミロース性があるため外観はわずかに白濁する.育成地における普通期移植栽培での玄米収量は「ヒノヒカリ」よりやや多収である.3. 「姫ごのみ」のアミロース含有率は,8.4%で,「ヒノヒカリ」と比べると明らかに低く,「ミルキークイーン」と同等である.アミロース含有率が低いため,炊飯米は「ヒノヒカリ」より柔らかく,粘りが強く食味の総合評価は「ヒノヒカリ」並の"上の中"である.4. いもち病真性抵抗性遺伝子はPiaを有すると推定され,葉いもち圃場抵抗性は"中",穂いもち圃場抵抗性は"中"である.白葉枯病抵抗性は"中",縞葉枯病抵抗性は"抵抗性",穂発芽性は"やや難"である.5. 出穂期から判断して,「姫ごのみ」は関東以西の地域に適するとみられる.
著者
松下 景 春原 嘉弘 飯田 修一 前田 英郎 根本 博 石井 卓朗 吉田 泰二 中川 宣興 坂井 真
出版者
農業技術研究機構近畿中国四国農業研究センター
雑誌
近畿中国四国農業研究センター研究報告 (ISSN:13471244)
巻号頁・発行日
no.7, pp.1-14[含 英語文要旨], 2008-03

「はいいぶき」は苗立ちの良い巨大胚品種を育成する目的で巨大胚水稲「奥羽359号(後の「恋あずさ」)」を母,「中国151号」を父とする交配後代より育成した品種である。1996年中国農業試験場(現・近畿中国四国農業研究センター)において交配を行い,以後,系統育種法に準じて育成を進め,2003年以降は系統名「中国183号」を付して地域適応性を検討してきた。2006年度に「水稲農林418号」として登録された。1 出穂期は「はいみのり」より4~5日早く,成熟期は「はいみのり」より4日程度早い。瀬戸内平坦部では"中生の晩"に当たる。稈長は「はいみのり」並かやや短く,穂長は「はいみのり」並かやや短い。穂数は「はいみのり」より多く,草型は"穂重型"である。稈の剛柔は"やや剛",稈の細太は"中"で,耐倒伏性は「はいみのり」並かやや強い"強"である。芒は通常生じず,ふ先色・ふ色はともに"黄白"で,粒着密度は"密",脱粒性は"難"である。2 「はいいぶき」の発芽率は通常品種よりやや低いものの,「はいみのり」よりやや高い。出芽率は通常品種より低いが,「はいみのり」より明らかに高い。すなわち,「はいいぶき」は「はいみのり」と比較して苗立性が優れ,浸漬を十分に行った種子を2割程度多めに播種することにより機械移植が可能となる。3 「はいいぶき」の玄米の外観品質は「はいみのり」に優り,「日本晴」並である。4 「はいいぶき」の玄米千粒重は「はいみのり」並の19g程度で,胚芽重歩合は通常品種の2~3倍である。「はいいぶき」は搗精時の胚芽残存歩合が「はいみのり」より高く,胚芽精米としての利用に適する。「はいいぶき」玄米および胚芽精米の25℃水浸漬におけるGABAの生成量は,通常品種の2倍程度である。5 「はいいぶき」の発芽玄米の食味は「はいみのり」に優る。また「はいいぶき」は胚芽精米を用いた調理飯として,五目ちらし寿司などの混ぜご飯や炊き込みごはんに適する。6 育成地における普通期移植栽培では「はいいぶき」の玄米収量は「はいみのり」よりやや多収である。7 いもち病真性抵抗性遺伝子はPia,PiiおよびPikを有すると推定され,葉いもち圃場抵抗性は"弱",穂いもち圃場抵抗性は"やや弱"である。白葉枯病抵抗性は"やや弱",穂発芽性は"やや難"である。
著者
飯田 修一 春原 嘉弘 前田 英郎
出版者
農業技術研究機構近畿中国四国農業研究センター
雑誌
近畿中国四国農業研究センター研究報告 (ISSN:13471244)
巻号頁・発行日
no.3, pp.57-74, 2004-03
被引用文献数
5

「LGCソフト」は農業生物資源研究所放射線育種場で1992年に低アミロース良食味の低グルテリン米品種の育成を目的に,「ニホンマサリ」の低アミロース突然変異系統の「NM391」を母とし,低グルテリン米系統「LGC1」を父として人工交配を行いF1を養成し,F2から,近畿中国四国農業研究センター(旧中国農業試験場)において育成された品種である。2000年から「中国173号」の系統名で奨励品種決定調査等の試験を行ってきた結果,2002年9月3日に「水稲農林381号」に登録され,「LGCソフト」と命名された。「LGCソフト」は低グルテリン,低アミロース,良食味という新しい特性を持った新品種であり,タンパク質摂取制限が必要な腎臓病患者等の病態食等の利用が期待される。「LGCソフト」の特性の概要は以下の通りである。1 出穂期及び成熟期は「エルジーシー1」,「ニホンマサリ」とほぼ同じで「コシヒカリ」より4日程度遅く,育成地では早生の晩に属する粳種である。2 稈長は「エルジーシー1」,「ニホンマサリ」より8cm程度短い短稈で,穂長は「ニホンマサリ」並かやや短く,穂数は「エルジーシー1」,「ニホンマサリ」と同程度である。草型は偏穂数型である。3 収量性は「エルジーシー1」,「ニホンマサリ」よりやや劣る。4 耐倒伏性は,「エルジーシー1」,「ニホンマサリ」と同じやや強である。5 品質は,低アミロースのため糯種に近い白濁があるが,この点を除けば「エルジーシー1」,「ニホンマサリ」並の中である。6 食味は水加減を15%程度減じた場合,「エルジーシー1」,「日本晴」より明らかに良好である。また,「エルジーシー1」に「LGCソフト」を33~40%程度混米をした条件でも「日本晴」より食味が良好となる。7 白米中の易消化性タンパク質のグルテリン含量が低く,難消化性タンパク質のプロラミンが多い。8 米の用途としては慢性腎不全患者の病態食としての利用が考えられる。9 いもち病抵抗性遺伝子はPiaを持つと推定され,葉いもち圃場抵抗性,穂いもち圃場抵抗性はともに中である。10 白葉枯病抵抗性は中,縞葉枯病抵抗性に対しては罹病性で,穂発芽性はやや難である。「LGCソフト」は,中国,四国,近畿,東海から関東に至る地域の平坦地帯から中山間地帯に適すると考えられる。低タンパク質にするため多肥栽培はしない。登熟気温が低いとアミロース含量が増加する。栽培にあたっては,直播栽培,多肥栽培を避け,異品種の混入を注意する。また,腎臓病等への病態食として用いる場合には専門医,栄養士の指導を受ける。