著者
加藤 浩三
出版者
上智大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

平成12年度は、昨年度に収集した阪神淡路大震災および米国ノースリッジ地震に関する資料を分析し、その分析から得られる論点を整理し、そしてその論点を米国での現地調査で確認することに重点が置かれた。日本で収集された資料から得られた論点は、日本の危機管理の特徴は、その管理を司る組織形態が、集中的か分散的かという点ではなく、国家と社会との間で危機意識を共有する政策形成過程が、欠如しているということである。通常、日本の危機管理は、情報管理、指示系統が分散し、中央集中型の組織形態をとっていないため、特にその初動体制に問題が多いといわれてきた。官邸に設置された首相のリーダーシップを発揮するための危機管理室は、その点を考慮されたものである。しかしながら、中央管理的な危機管理のお手本とされた米国の意志決定システムは、日本でいわれるほど連邦政府による集中管理ではなく、実際には、連邦レベルの危機管理は、州レベル、郡レベルの管理体制と共生している。したがって、危機発生時のリーダーシップは、州知事、郡保安官、市長、そしてかれらの意志決定に日頃から深く関与している非政府組織らによって、発揮されている。連邦レベルの危機管理は、国家安全保障に係わる問題を除き、地方政府の要請なくしては発動されないのが基本である。本研究の焦点である地震災害では、連邦緊急事態管理庁(FEMA)は、危機管理の主役ではなく、被災地域救済、復興に必要な物資・経費を見計らう少数の専門家集団であった。日本の危機管理が、米国のそれと決定的に異なるのは、国家と社会との間の危機意識を共有する度合いである。日本の場合は、自然災害について、中央・地方政府と社会集団との間で、危機意識を共有していることは希で、災害ヴォランティアの人々も、平常時には、国家と社会との仲介者とはなっていない。日本経済成功の要因として指摘されてきた、国家と社会との間の緊密なネットワークは、少なくとも災害管理の問題では、ほとんど存在しない。