著者
下山 憲治
出版者
福島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995 (Released:1995-04-01)

本研究では、雲仙普賢岳噴火災害・北海道南西沖地震災害における被災者救済措置の一部を実態調査し、分析を行った。今年度は、前記災害の際の義援金配分をめぐる法的関係および被災者にたいする救援・生活再建対策について分析した。その結果、義援金をめぐる法律関係は公私にわたる多数の団体がかかわるためその法関係が複雑であるとともに、紛争を解決するための手続が非常に未整備であること、また、被災者の救援・生活再建については、ごく一部の分析にととめざるをえなかったが、被災者の権利保障の観点から今後の検討が必要であり、それに伴う法整備が不可欠になっていることが明確となった。カリフォルニア州の被災者救援・支援法制について資料の収集を実施したが、同州および米国においても法的観点からの分析・検討がきわめて少なく、議会資料や裁判例および各種報告書等を収集せざるをえず、いまだ中途の段階であり、さらに今後も収集・分析を要する。
著者
中島 貴子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999 (Released:1999-04-01)

行政機関における化学物質の人体毒性評価に関する日本と米国の決定的な差異をもたらしている最大の理由は、両国におけるレギュラトリ・サイエンスの在り方の相違によるものである、という前年度の研究成果を踏まえ、今年度は、「レギュラトリ・サイエンス」という概念の発展経緯について日米比較を行った。その結果、以下の結論および仮説を得た。(1)欧米でレギュラトリ・サイエンスという概念の普及にもっとも貢献したのは、科学論者であり、法学者であるシェーラ・ジュサノフ(ハーバード大学教授)である。彼女は1990年、リサーチ・サイエンスとの相対比較によってレギュラトリ・サイエンスを定義した。その視点はすぐれて社会学的。(2)一方、日本ではジャサノフとは全く独立に、内山充(元東北大学教授、薬剤師研修センター理事)が1970年という早い時期からからレギュラトリ・サイエンスの概念を打ち出していた。その内容は、レギュラトリ・サイエンスには従来の科学とは全く異なる目的・方法が必要とされる点を明示するもので、自然科学的かつ創造的。(3)しかしながら、レギュラトリ・サイエンスの規模、レベルにおいて、日本はアメリカよりもはるかに劣っているといわざるを得ない。その理由は、第一に、日本では内山の意図するレギュラトリ・サイエンスの真意や価値が、本来、レギュラトリ・サイエンチストを輩出すべき大学や、自らレギュラトリ・サイエンチストたるべき国立系研究機関で十分な理解を得られなかったこと。第二に、内山の影響力を医薬品行政にとどめ、他の関連行政には伝播させないような、省庁間の壁が厚かったことが考えられる。(4)したがって、今後、日本で健全なレギュラトリ・サイエンスを育むためには、レギュラトリ・サイエンスに関する内山の先駆的な主張に、大学、国立系研究機関ならびに関係省庁が真摯に耳を傾ける必要がある。
著者
内ヶ崎 西作
出版者
日本大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997 (Released:1997-04-01)

【実験方法】昨年度のウサギを用いた動物実験でサンプリングしておいた脳を含む諸臓器について病理組織標本を作成し、法医病理学的に検討を加えた。更に、「逆さ吊り」という体位が死を引き起こすメカニズムについて、昨年度のデータ・考察と共に総合的に検討した。【結果】諸臓器には特に致死的変化は認められず、また脳に関しても著明な脳浮腫や脳充血などの所見はみられなかった。【考察】昨年度の病態生理学及び肉眼解剖学を主体とした研究によって、「逆さ吊り」の体位は腹腔内臓器が横隔膜を通して胸腔を圧迫し、呼吸運動特に胸郭を広げる吸気運動が阻害されて、次第に呼吸筋が疲労して呼吸が浅くなり、最終的には窒息を起して死をきたすとの考察が得られた。本年度の研究はそこに法医病理学な調査を加えたものであるが、特に致死的な所見、及び、著明な脳浮腫や脳充血などはみられなかった。以上のことから、今回の「逆さ吊り」の実験系により死亡したウサギの死因としては、他の内因的な死因や脳充血などは否定され、やはり窒息であることが解明された。つまり、日本国内をはじめ世界の法医学者の間でもあまり認識されていなかった体位関連性窒息(postural asphyxia)が「逆さ吊り」でも実際に起りうるということがこの研究により証明されたのである。実際の法医実務上で「逆さ吊り」を経験することは希であるが、現に裁判などで問題となっている事例もみられる。この研究は、今後このような事例を経験した場合に有用な資料となるであろう。今後は他の体位と体位関連性窒息、或いは、乳幼児突然死症候群と体位関連性窒息などについての解明が待たれるところである。
著者
吉武 久美子
出版者
長崎純心大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994 (Released:1994-04-01)

子どもにおける、皆と同じでという自己の同調性の大きさや、自己と違う相手を認めるという異質性の受容力の少なさなど、現在の少子の問題について、本年度は主に、家庭という場面を取り上げて検討を行った。対象は保育所、幼稚園に通っている3才から5才の子どもとその親であった。方法は質問紙調査と対面調査を用いた。まず、「自分と違う」相手の気持ちを推し量るという共感性の発達について、少子時代の現代、兄弟の有無や親の関わり方によって違いがあるかを検討した。一人っ子、年下の兄弟のいない末っ子、年下の兄弟のいる子などで共感性の高さに違いはなかった。しかし、親が子供に絵本の読み聞かせや会話を通してコミュニケーションをしている場合には、自分の感情とは異なる他人の感情の類推という共感性能力が高かった。次に、他者と同じでありたいという同調行動について調べたところ、すでに、3才から5才の子どもたちにすでにその同調行動が生じていることがわかった。特に、実際に他者(保育所では他の幼児)が存在して行動する場合に同じ行動をとろうとするだけでなく、実際に他者がいなくても、「お友達は……していたよ」という口頭での情報を与えられるのみで、子どもは自分の行動を他者と同じ方向へ変えることが大変多く見られることから、低年齢の幼児における同調性の強さがわかった。さらに、親の影響の中でも、現代の少子家庭は、祖父母等、親に代わる人間の存在も少ないため、父親の育児参加の影響力は大きく、父親が育児に参加してないと認知する母親は、育児に対する認知もネガティブであり、それが、さらに少子の社会心理的発達に影響を及ぼすことが示唆された。
著者
高橋 晋一
出版者
弘前大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993 (Released:1993-04-01)

函館の華僑社会は現在32世帯からなっているが、国内の他の華僑社会に比べると規模が小さい。華僑は多くの場合、移住地においてチャイナタウンを形成し、そこに集住する傾向にあるが(例えば横浜や長崎)、函館の場合、華僑はチャイナタウンを形成せず、市内全域に分散して居住している。これは華僑の人数が少なかったこと、函館華僑のほとんどが行商を主な業とする福建省福清県の出身者であったことなどによるものであろう。現在、函館華僑が出身地である中国本土からもたらした伝統的な文化は大きく変化している-すなわち日本化の一途をたどっている。現在、函館華僑社会において行われている主な中国の伝統行事としては、4月の清明節、関帝の誕生祭(6月)、8月の中元節がある。清明節および中元節には、中国人墓地に集まって祖先供養の儀礼を行い、その後みんなで会食をする。これらの行事は華僑一世を中心に行われており、二世・三世といった若い世代の人は関心が薄く、参加率はあまり高くない。また儀礼は僧侶を呼んで仏教式に行うなど、儀礼内容の日本化が著しい。かろうじて紙銭を焼く風習、参拝方法などに中国方式をとどめている。このように伝統文化を失いつつある函館華僑社会では、「中国人」としてのエスニック・アイデンティティは特に若い世代で急激に薄れている。一世の人達は、中国語を話し、大陸に里返りするなど、中国とのつながりを失っていないが、二世、三世になると大きく価値観が違う。例えば一世は、華僑同志結婚するのが望ましいと考えているが、二世、三世ではそのような意識は低い。伝統行事も次第に形式化しつつある。このような世代間のギャップを超えて自分達の文化を改めて見直し、継承・創造していく道を見いだすことが、今後の函館華僑社会の大きな課題となっていくるものと思われる。
著者
坂元 章
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997 (Released:1997-04-01)

本研究では、2つの実験によって、攻撃型テレビゲームでの遊びがその後の攻撃行動に影響するか、などの問題を検討した。実験1では、女子大学生52名を5つの条件の1つに割り当てた。それらの条件は、被験者が現実的なゲーム(ヴァーチュアコップ)で遊ぶ条件、非現実的なゲーム(スペースインベーダ)で遊ぶ条件、現実的なゲームの進行をただ見る条件、非現実的なゲームの進行を見る条件、中性的な映像を見る対照条件であった。被験者には、ゲームや映像に接触した後で、サクラに対して電気ショックを与える機会が与えられ、そこで被験者がどれだけの電気ショックを与えたかが攻撃行動の測度となった。また、被験者の血圧や心拍を、ゲームや映像に接触する前後で測定した。実験2では、実験1の手続きを変更し、その知見の妥当化と拡張を行った。実験2では、現実的なゲームとして、エリア51をパァーチャガンとともに使用し、格闘ゲーム(鉄拳2)で遊ぶ条件を加え、更に、攻撃行動の指標としてサクラに対して雑音を聞かせる行動を測定した。ゲームの進行を見る条件は設置しなかった。被験者は、41名の女子大学生であった。これらの実験の結果、次のことが明らかになった。(a) テレビゲーム遊びは攻撃行動を促しうること。ただし、(b) テレビゲーム遊びの影響は、ゲームの種類によって大きく異なっていること(例えば、バーチュアガンを用いたエリア51では影響が検出されたが、バーチャルコップでは検出されず、スペースインベーダーについては、2つの実験で結果は一貫しなかった)。(c) テレビゲーム遊びが攻撃行動を促す影響は、その相互作用性のために生じている可能性があること。(d) テレビゲーム遊びの影響は、それが運動による生理的喚起を引き起こすからではないこと。
著者
渡辺 智恵美
出版者
(財)元興寺文化財研究所
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993 (Released:1993-04-01)

本研究では過去に収集した耳環のデータに基づき復原製作すると共に、配合比を変えた金・銀合金の標準サンプルを製作し(Au:Ag=97:3 W%〜 15:85 W%迄9種類)、実際の遺物との色調の比較検討を試みた。平成3年度の奨励研究において自然科学的手法を用いた耳環の製作技法の解明を通して古墳時代の鍍金技法の考察を試みたが、今回さらに調査を進めた結果、(1)金、銀以外に錫、鉛、鉄を素材とした耳環の存在が指摘されていたが、銅製や鋳造による青銅製の耳環が存在すること、(2)走査型電子顕微鏡およびX線マイクロアナライザーによる調査の結果、銅芯と表面層の間に中間層を持つものが多く、中間層に銀箔や銀板を使用したものが四国地方〜中部地方で確認でき、汎日本的に存在する可能性が窺える。(3)色調的には銀製品と思われるものの中に金の含有量の高い鍍金製品が存在すること、等を確認することができた(肉眼観察ではAu:Ag=50:50 W%位でほとんど銀製品に見える)。耳環の製作技法の解明および復原製作を通して鍛接や鑞付け、鍛金あるいは金・水銀アマルガムによる鍍金方法等、古墳時代の金工技術の一端を推定することができたが、中間層の銀板や中空耳環における地板の合わせ目の処理方法(中空耳環の場合、内面では合わせ目が確認できるが外面では全く確認できない)等、多くの疑問も残った。また器形的には単純であるが、その製作に当たっては専門的知識を多く必要とするものと推測され、土器等とは異なった流通経路(専門工人の存在)が考えられる。このことは先述の中間層を持つ耳環が汎日本的に存在かる可能性や住居址からの出土例が少ないことからも推測できる。今後は自然科学的調査と考古学的調査を総合的に行い、統計学的処理により全国的な集成を行うと共に製作技法や素材の差異により耳環に正確な呼称を与え、統一を図りたい。
著者
桑名 正隆
出版者
慶應義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999 (Released:1999-04-01)

全身性硬化症(強皮症)患者ではトポイソメラーゼI(トポI)やRNAポリメラーゼI/IIIなど生命活動に必須な酵素に対する自己抗体が産生される。これら自己抗体は強皮症の発症を誘導しないことから、その産生は強皮症の病態に関連する付随的な現象と理解されている。これまでの研究成果から、抗トポI抗体産生は正常のT細胞レパトワに存在するトポIを認識する自己反応性CD4^+T細胞の活性化により誘導されることが明らかにされている。これらトポI反応性CD4^+T細胞は生理的な環境では発現されない抗原ペプチド(crypticペプチド)を認識することから、強皮症患者のいずれかの部位でトポIのcrypticペプチドが発現されている可能性が高い。そこで、申請者はトポI由来のcrypticペプチドの発現部位として、強皮症の病態の中心である線維芽細胞を想定した。その点を検証するため、強皮症患者の病変/健常皮膚または健常人皮膚より採取した線維芽細胞におけるトポIの過剰発現や分子修飾の可能性について検討し、以下の結果が得られた。1.強皮症病変部位の線維芽細胞におけるトポIのmRNA発現量は、強皮症患者の健常皮膚や健常人皮膚の線維芽細胞に比べて2-8倍上昇していた。2.免疫ブロット法による検討では、強皮症、健常人線維芽細胞でトポIの蛋白分子量に差はなかった。3.免疫沈降法による解析の結果、強皮症病変部位の線維芽細胞ではトポI分子が複数の蛋白と複合体を形成していることが明らかとなった。これらのトポI結合蛋白のうち少なくとも2つは強皮症患者健常皮膚や健常人皮膚の線維芽細胞ではトポIとともに免疫沈降されなかった。以上の成績より、強皮症病変部位の線維芽細胞ではトポIの発現が亢進し、他の蛋白(転写因子など)と結合することで過剰な細胞間マトリックスの産生や自己抗体産生にかかわっている可能性が示された。
著者
稲垣 照美
出版者
茨城大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999 (Released:1999-04-01)

本研究は、日本の豊かな自然環境の象徴の一つであり、幻想的な光で古くから日本人の心を魅了している昆虫"ホタル"を取り上げ、その発光現象中に人に対してどのような癒し効果が含まれているのかについて実験的な検討を行ったものである。まず、平成11年度には、ホタルの発光現象を計測・解析する光計測処理システムを新たに構築し、関東エリアにおいてフィールド計測を開始した。平成12年度には、四国エリアにも広げてフィールド計測を継続しつつ、統計解析や画像処理などの工学的技法を応用してホタルの発光現象を解析・評価し、人の精神に安らぎを与える効果があると言われている1/fゆらぎを始めとする様々なゆらぎ現象について考察を進めた。また、各地で開催されているホタル鑑賞会などにおいても、感性工学に基づいた意見サンプルを充分に採取し、ホタルの発光現象が人の精神に及ぼす影響を評価した。その結果、ホタルの発光輝度変動・発光間隔変動・輝度差変動には、人の網膜が反応することの出来る中低周波数域において1/fゆらぎが存在することを初めて明らかにすることができた。これには、十分な癒し効果が期待できるものと考えられ、ホタルを活用したヒーリング機器や福祉機器への応用が十分に期待できることが予想された。また、ホタルの発光パターンが有する癒し効果については、感性工学的な立場からもその有効性を統計学的に確認することができた。したがって、本研究から得られた知見は、今後、ホタルを利用したヒーリング機器や福祉機器の開発を展開研究して行く上での基礎と成り得るものである。なお、一連の研究成果は、日本機械学会へ研究報告したばかりではなく、NHKテレビ・ラジオや日本工業新聞などのメディアなどにおいても報道された。
著者
川名 敬
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999 (Released:1999-04-01)

子宮頚癌の発生に深く関与しているヒトパピローマウイルス(HPV)は、性行為感染により腟粘膜や子宮腟部の粘膜上皮に感染する。このHPV感染を防御することで、子宮頚癌の発生を制御する試みが既に諸外国で始まっている。しかし、子宮頚癌に関連するHPVは10種類以上(16、18など)あり、それらの抗原性はHPV型によって異なっているため、どの型のHPVにも有効なワクチンを開発することが大きな課題となっている。本研究ではHPVの粒子を形成する蛋白質のうち、L2蛋白質に注目し、その一部にどのHPV型にもほぼ共通でかつHPV粒子の表面に露出している領域があることを見出した。HPV16型のこの領域と同じアミノ酸を持つ合成ペプチドをL2ワクチンとして、BALB/cマウスでのワクチン実験を行った。HPVは性器感染することを考慮し、粘膜免疫を誘導できるように経鼻接種により16L2ペプチドを投与した。マウスの血清中、腟洗浄液中にHPV6、16、18型に対する特異抗体が誘導された。腟洗浄液中には主としてIgA抗体が誘導された。HPVはマウスには感染しないため、ワクチンの効果判定には、培養細胞でのHPV感染系を用いた。マウス血清中、腟洗浄液中のいずれにも、HPV6、16型の感染を阻害できる中和抗体が含まれていた。L2ペプチドワクチンの経鼻接種は、性器粘膜面に複数のHPV感染を阻害できる抗体を誘導できることが示された。一方、MHCクラスIIのハプロタイプが異なる系統であるC57BL10マウスで同様のワクチン実験を行ったが、特異抗体が誘導されなかった。16L2ペプチドをC57BL10マウスのMHCクラスII分子に結合できるように改変したところ、BALB/cマウスと同様の中和抗体誘導が示された。このペプチドワクチンはMHCハプロタイプに応じた改変が可能であることが示された。
著者
多賀谷 光男
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993 (Released:1993-04-01)

分泌系蛋白質の細胞内輸送は角オルガネラをつなぐ小胞によって媒介されている。N-エチルマレイミド感受性因子(NSF)は、最初ゴルジ体内小胞輸送に関与する因子として発見、精製されたが、後に小胞体からゴルジ体への輸送やエンドソームの融合にも関与することが明らかにされ、小胞輸送の中心的役割を担う蛋白質であると考えられている。NSFはSNAPと呼ばれる膜表在性蛋白質と膜内在性のSNAPレセプターとの複合体を形成して膜に結合している。私たちは今年度の研究によって、NSFがシナプス小胞にも存在することを生化学的、形態学的に明らかにし、この蛋白質が神経伝達物質のエキソサトーシスにも関与している可能性を示唆した。また、ヒト脳NSFのクローニングに成功し、アミノ酸の推定一次構造においてチャイニーズハムスター卵巣細胞のNSFと97%もの相同性があることがわかった。更に、各臓器におけるmRNAの発現量を調べたところ、NSFは脳において最も多く発現していることが明らかとなった。これらの知見および肝臓からゴルジ体が比較的きれいに精製できることを考慮して、NSF複合体をラット脳および肝臓より精製することを試みた。まず最初に、NSFのシナプス小胞への結合様式について調べた。ゴルジ体のNSFはATP・Mg^<2+>の添加によって膜より遊離してくるが、シナプス小胞に結合したNSFはこの条件では膜から遊離せず、可溶化にはコール酸やデオキシコール酸のようなイオン性の界面活性剤が必要であった。現在、可溶化したNSF複合体の精製を進めている。ラット肝臓のNSFは非イオン界面活性剤であるTriton X-100で可溶化された。このNSFは20Sの沈降計数を持つことから複合体として存在することは確実であり、現在この複合体の精製も進めている。
著者
中川 敦子
出版者
金沢医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995 (Released:1995-04-01)

被験者は外来通院の分裂病患者10名。各患者の症状評価は精神科医2名によって行われた。課題は、プライム、ターゲットともに視野中央に提示する語彙判断であった。実験計画;プライム条件(反対、遠隔連想、無関連、中立)×SOA(67msec,750msec)の被験者内2要因実験。反対、遠隔連想という意味関係は、意味ネットワーク上のターゲットとの意味距離がより近い、より遠いことをそれぞれ示した。刺激:各試行はプライムとターゲットの平仮名表記の文字列ペアより成った。1つの刺激リストは,YES反応用の4つの異なった意味的関係を含む24ペア、およびNO反応用の非単語(単語の1文字を入れ替えて作られた)を含む24ペアによって構成された。4つの刺激リストを設け,1つの刺激リスト内で同じターゲットが繰りかえされることはなかった。例えば,リスト1で反対語条件(さむい-あつい)のターゲットは,リスト2では遠隔連想条件(あせ-あつい),リスト3では無関係条件(ゆずる-あつい),リスト4では中立条件(くうはく-あつい)であった。手続き;各被験者に、練習の後,4ブロックをとおして4つの刺激リストが与えられた。各試行では、視野中央に注視点そしてプライム60msecの提示後、ISI(SOA条件によって7msecまたは690msec)の後、ターゲットが示された。被験者は、実験中は視野スクリーンの中心を凝視し、ターゲットが有意味な文字列(単語)であるか否か(非単語)の判断をボタン押しによってできるだけ早くかつ正確に行なうよう求められた。結果;分析は単語に対する正反対時間およびエラー率について行ない、反応の促進および抑制効果は,各プライム条件での反応時間が中立条件(くうはく)での反応時間よりも早いか遅いかによって決定された。外来通院の予後良好な分裂病患者の意味プライミングパタンは、コントロール群のパタンと同様であった。各症状と意味プライミングパタンの関係について検討したが、明らかな結果は得られなかった。
著者
小林 雅之
出版者
日本歯科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998 (Released:1998-04-01)

【被験者】日本歯科大学新潟歯学部附属病院小児歯科に来院した,年齢5歳3か月から11歳9か月の小児小児患者19名。【実験方法】治療椅子を中心とした時計式表示法の位置で12時に歯科医師,3時に歯科衛生士,7時半に母親を配置した。そして,歯科医師が「おくちをあいて」,母親が「いいこにしてね」,歯科衛生士が「がんばったね」と話しかけ,被験児の眼球運動を両眼眼球運動測定装置で測定した。分析の結果,三者が話しかけたとき,話しかけた人の顔を視線が走査した被験児(走査群)と,走査しなかった被験児(非走査群)とに二分することができた。そして,両者間に性格特性があるか検討するため,被験児の眼球運動の結果と高木・坂本幼児児童性格診断検査との関連を,林式数量化理論II類により比較検討した。【結果および考察】1.数量化II類の結果は,相関比が0.701,判別的中率が94.7%,判別的中点が-0.127であった。2.高木・坂本幼児児童性格診断検査の性格特性で,走査群と非走査群の判別に大きな影響を与えるアイテムは,自制力,顕示性,神経質そして学校への適応であった。走査群に判別できるカテゴリーは,自制力なし,顕示性なし,神経質傾向,学校へ適応で,非走査群に判別できるカテゴリーは,自制力あり,顕示性あり,神経質でない,学校へ不適応であった。3.性格特性で,アイテム間相互の偏相関係数が0.700以上の強い相関を示すアイテムは,顕示性と神経質,神経質と自主性,不安傾向と社会性,自制力と個人的安定性であった。以上より,走査群と非走査群の被験児間に性格特性があることがわかった。
著者
小島 郷子
出版者
高知大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998 (Released:1998-04-01)

学校教育における金銭教育の実態を把握するための、中学校・高等学校の教員を対象としたアンケート調査結果の分析をとおして、学校教育における金銭教育の今日的課題と家庭科教育の役割を明らかにするために研究を行った。その結果、中学校・高校の7割の教員が金銭教育の実践経験を持っており、中学校においては、道徳や特別活動での実践が多く、高校では家庭と社会での実践が多くみられた。さらに、実践経験がない教員の理由の分析からも、中学校教員は金銭教育を教科指導と捉えていないことがわかった。目標の分析からは、全体的に情意的な目標が重視される傾向がみられた。教育内容については、情意的な内容は家庭教育の役割で、認知的な内容は学校教育の課題であるとの認識を持っていた。金銭や金融への関心では、関連書物の購読状況は悪く、研究会や講演会などの研修の機会もほとんどなかった。このことは、教員の意識面の改革のみならず、講座や講演会、さらには研究会を増やすなどのハード面の改革も重要な課題である。自由記述による子どもの金銭感覚・金銭教育観については、物が豊富にある社会背景と親から金銭を自由に与えられ、金銭を得るための労働経験がないことが当然になっている生活環境の中で、望ましい金銭感覚を身につけることが困難な状況にあることが浮き彫りになった。高校生については、自由に個人の価値観を優先させ、その欲求を満たすためには手段を選ばない、自己中心的な消費行動があらわれていた。以上の結果から、学校教育における金銭教育の在り方を探るためには、まず、金銭教育を担う教育主体が、各主体ごとの役割を明確化することが必要である。本来家庭教育の役割である情意的領域の教育を学校教育が担っている現状を少しでも改善するために、家庭教育における情意的な教育の充実を保護者に対して働きかけることが必要である。そして、学校教育においては、金銭に関わる認知的な学習を実践しなければならない。金銭教育研究指定校における、金銭教育プロジェクト研究などにおいても教科指導の時間、特に家庭科と社会科の時間数を確保し、両教科で金銭に関わる認知的な学習を保証していかなければならない。2002年度からの新教育課程においては、小学校家庭科から「金銭の記録」が、中学校家庭科から「契約」の内容がそれぞれ削除されることになっている。現行と比較して、さらに認知的な学習の機会が減少することになる。今日のようなカード社会、キャッシュレス社会に必要な教育は金銭に関わる認知的学習であり、金銭を管理する能力の育成である。義務教育の早い時期から始め、発達段階に応じた系統的な教育を行うことが金銭教育の今日的課題であり、家庭科は一教科としてその役割を果たすためにも、家庭経済の中での金銭に関する教育を、金銭の機能や働きといった金銭知識、金銭管理能力という視点から見直し、認知的領域の学習を取り入れていかなければならない。
著者
竹村 一夫
出版者
樟蔭女子短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999 (Released:1999-04-01)

喫煙行動に関する資料・文献の収集および整理,データベース化について,前年度から継続して行った。収集した資料・文献の書名や出版年などをデータベース化し,一部については目次もデータ化した。目次については,今後もデータ化の作業を進め,内容の要約についてもデータ化の予定である。また,雑誌・マンガ雑誌からの画像データベースについて,画像の説明がキーワード程度では有用でないため,より詳しいコメントを付け加えた。テレビドラマ等の映像に関しては,編集にかなりの時間を要したため,データベース化は当初の予定通りにはいかず,分析には至らなかった。この点は,今後の課題である。これらの作業と平行して,大学生に対する聞き取り調査を実施した。その結果,単純に判断することは出来ないが,例えば,喫煙に関して,男性の場合は,直接的には友人の影響や周囲の大人,特に父親・兄の影響が大きかったといった回答がえられた。女性の場合も男性とそれほど異なるわけではないが,友人の影響が男性よりもより強く,喫煙について自分の意志で選択したことを強調するケースは,男性よりも多く見受けられた。メディアの影響については,特に意識されているわけではないが,映画やテレビドラマ等でタバコが小道具として有効に使われていることについて,多くの学生が理解しており,男性性の強調や自立した強い女性のシンボルとして使われていること,マンガのストーリー中に出てくるタバコ・喫煙行動については,特定のイメージの男女を登場させるときには必ず出てくるなど,一定のパターン化された使われ方がされていることについて,指摘した学生もいた。このように,喫煙イメージの形成および伝達に関して,親子や友人などの人間関係が大きな影響力をもっているだけではなく,特にステレオタイプ化されたイメージについては,メディアが一定の役割を果たしていることが指摘できる。
著者
國土 将平
出版者
鳥取大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998 (Released:1998-04-01)

本研究の目的は、エイズに関する知識テストに対して項目反応理論を適用し、それぞれのテスト項目の特性を明らかにし、エイズに関する知識テストの標準化を行うことである。対象は小6から高校3年生までの4048名であった。知識項目は、対象の発育発達段階、学習のレディネスを考慮して選択した、小6・中1年13項目、中2・3年27項目、高校生28項目である。これらの資料に基づいて、学年別に2母数の潜在特性モデルを用いて、対象者の能力スコア、調査項目の困難度、識別度のパラメータを推計した。また、調査項目のパラメータを利用して、スコア、困難度、識別度を等化し、全ての学年に共通した被験者の評価得点、項目パラメータを算出した。なお、学年は該当学年の4月を基準とした。学年別の能力スコアの分布により、小学生、中学1・2年生、中学3年生、高校1・2年生、高校3年生に分類され、それそれの時期に適切な学習が有効であることが推測された。日常生活における感染の項目について、プールやお風呂、トイレでの感染、飲食による感染に関する知識は、困難度-1、識別力1以上であり、小学生の時期に有効な知識項目、及び学習内容である。しかし、動物からの感染、献血による感染、歯科医などからの感染は困難度1以上、識別力も0.5を下回り、難しい項目であることが示唆された。これらの項目は継続的な学習並びに評価によって、その学習状態が確認できると推測される。「早く処置すると発症を遅らせることができる」、「母子感染することがある」,「HIVは熱に弱い」といった項目は、小学生では安定した特性値が得られず、論理的記述による知識は中学生以上になって学習・評価することが好ましいと示唆された。以上の様な解析を経て、小学生、中学1年生では10項目、中学2・3年生では25項目、高校生では26項目が標準化テストとして適切であると結論された。
著者
神波 雅之
出版者
鳥取大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996 (Released:1996-04-01)

1.磁気共鳴映像法による脳循環評価健常者における無呼吸時の脳の信号変化をT_2^*強調画像(スピンエコー型エコープラナー法)により測定し、無呼吸時の信号強度上昇を確認した。信号強度上昇はhypercapniaによる脳血流量増加の効果が脳血液量増加、動脈血酸素飽和度低下の効果を上回り、oxygenation上昇がもたらされたためと考えられた。閉塞型睡眠時無呼吸症候群患者においても無呼吸時の脳の信号上昇を認めた。閉塞型睡眠時無呼吸症候群患者においては健常者に比して信号強度変化は有意に大きかった。無呼吸発作の頻発する患者では無呼吸と過呼吸の反復によりhypercapniaの効果が増強されているものと考えられた。本研究により無呼吸時の脳の信号変化が臨床用磁気共鳴映像装置により測定可能であることが明らかにされた。本研究の成果は学会において発表ならびに学術雑誌に投稿中である。2.磁気共鳴分光法による脳機能評価脳の器質的異常を有さない閉塞型睡眠時無呼吸症候群患者の脳プロトンスペクトルを測定し、ポリソムノグラフィーによる重症度(apnea index;AI)別および健常者との比較検討を行なった。中等症以上(AI≧20)の閉塞型睡眠時無呼吸症候群患者において大脳深部白質のN-acetylaspartate/choline比の有意な低下を認めた。本知見は通常の磁気共鳴映像法等の検査では全く異常を認めない閉塞型睡眠時無呼吸症候群患者においても脳代謝の変化を生じていることを示すものである。本研究により閉塞型睡眠時無呼吸症候群の中枢神経障害の評価法としての磁気共鳴分光法の可能性が明らかにされた。本研究の成果は学会および学術雑誌に発表した。
著者
赤羽根 有里子
出版者
岡崎女子短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996 (Released:1996-04-01)

本研究では、江戸期昔話絵本の書誌、並びに本文・絵柄の特徴を明らかにすることを目的とした。書誌的事項の調査は、各種書籍目録の記載事項の整理を行い、「桃太郎」四十三種・六十一作品、「花咲爺」十六種二十四作品について、原本の閲覧または原本の写真版によって記載事項の確認を行った。調査の結果、目録には赤本『枯木に花さかせ親仁』の版本に京大本とあるものが、複製本であること、黄表紙『古昔花咲勢祖父』の版本所蔵者として記載のあった東博では、そのような書名の作品を所蔵していないこと、また、目録に記載はないが黄表紙『桃太郎一代記』の版本に松浦資料博物館本があることなど、目録記載事項を修正すべき点があった。「花咲爺」の諸本については日本昔話学会で発表し、その内容を論文「江戸期昔話絵本『花咲爺』の諸本」にまとめた。「桃太郎」については作品数が多く、諸本の調査結果については順次明らかにする予定であるが、今年度は合巻『赤本再興桃太郎』の書誌・翻字と解説を発表した(黄表紙『桃太郎一代記』は平成9年6月刊行を予定)。本文・絵柄の検討は、特にまだ研究が進められていない合巻体裁絵本三作品『桃太郎』『桃太郎一代記』『昔噺桃太郎』について行った。その結果、出生の場面の描かれ方については、爺婆が桃を食べて若やぐことは三作品全てに共通するが、初期の赤本に見られた「婆が若やいで男児を出産するのは『昔噺桃太郎』のみで、他二作品は桃の中から生まれていることや、拾った桃の食べ方や保存場所など、作品ごとに相違が見られ、それらが作品の趣向になっていることが判明した。桃太郎像についても赤本では神格化した存在として描かれていたが、合巻では心情や性格を表すような詞書や会話が付加され、各作品ごとに桃太郎の人物造形が具象化されていることが明らかになった。