著者
大栗 行昭
出版者
宇都宮大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究の課題は,明治維新期に小作料がどのような経緯,方法で決定されたのかを考察し,そのような地代を収取する地主的土地所有はどう範疇規定されるべきかを展望することであった.研究代表者は,全国の町村が作成した『大正十年小作慣行調査』のうち,埼玉県と新潟県蒲原地方のものを閲覧・収集し,次のような理解を得るに至った.明治前期の小作料には,幕藩体制下の小作料をそのまま継承したものと,明治8,9年の地租改正実施の際に改定されたものとがある.埼玉では後者が多く,蒲原では両者相半ばした(明治21年の地価改定時に改定した村もあった).蒲原では,旧藩時代の小作料は収穫米の6割ないし2/3(領主1/3,地主1/3)であった.地租改正時に改定された場合についてみると,埼玉県では台帳上の収穫米高から2〜3割を控除して改定されたものが多く,蒲原では台帳上の収穫米高から1割5分〜4割(3割ないし3割3分が多い)を控除して改定された.明治初年の小作料は,幕藩体制下のそれの重みを継承し,「押付反米」と称された反収の6〜8割(中心は7割)に及ぶ高率現物小作料であった.ちなみに,地租改正「地方官心得」の地価検査例第2則における小作料率68%は,当時の慣行的な小作料水準ではないという見解があるが,本研究は「小作料率68%」が当時の実態に近いものであったと認識する.地主的土地所有の性格を規定するに当たっては,このような高率現物小作料が村落共同体的な強制力の存在のもとで決定され,維持されていた(小作料滞納に対しては,村内での小作禁止,戸長の説諭などの手法がとられた)ことに注意を払う必要があろう.
著者
栗木 哲
出版者
統計数理研究所
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

今年度本研究では、以下のことを行った。(1)多次元の未知母数を持つ連続な確率分布において、階層的な仮説の族を考え、対応する尤度比検定統計量の帰無仮説の下での同時分布の漸近展開を与えた。その結果以下の結果を得た。・各階層の尤度比検定統計量は、帰無仮説の下で0(1/n)まで独立に分布する。・各階層の尤度比検定統計量は、独立にバ-トレット補正が可能である。すなわち、各階層の尤度比検定統計量にそれぞれある定数を掛けると、同時分布は0(1/n)の範囲で独立なカイ2乗分布となる。研究の後にこれらの結果は既にBickel & Ghosh (1990,Ann.Statist.)が得ていたことが判明したが、本研究のとったアプローチはBickel & Ghoshとは異なるものであり、計算技法の開発などの点で新たに得た知見も多い。本結果は、現在投稿中である。(2)連続な多変数指数分布族における単純帰無仮説に対する尤度比検定統計量の特性関数の任意の次数までの漸近展開公式を得た。得られた公式は、集合の分割(set partition)を用いて表現されている。展開公式の形自体は、上でも述べたBickel & Ghosh論文が示しているが、その具体的な形(各係数の値)はBickel & Ghosh論文の方法では与えることができない。本研究では、指数分布族という特殊な場合ではあるが、特性関数の表現を陽に与えることに成功した。また、研究の過程で、一般化エルミート多項式、多変数ラグランジュ反転公式に関して、いくつかの知見を得ることができた。本結果も、現在投稿中である。
著者
花里 孝幸
出版者
国立環境研究所
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

魚の放出する化学物質(カイロモン)のミジンコに及ぼす影響を調べた.ミジンコは魚の存在下で成熟サイズを小さくすることが知られており,これはミジンコにとって捕食される前に子供を生むチャンスを増すことになり,利益をもたらすものと考えられている.本研究ではサイズの異なる二種のダフニア[カブトミジンコ(体長0.6〜2.0mm),マギレミジンコ(体長0.4〜1.3mm)]を魚(ブルーギル)のカイロモンにさらし,生活史特性の変化を観察した.大型のカブトミジンコは成熟サイズを低下させなかったが産む仔虫サイズを低下させた.小さな仔虫の生産は次世代の個体群の成熟サイズの低下をきたす.一方,小型のマギレミジンコは成熟サイズを小さくしたが,仔虫サイズは低下させなかった.二種のミジンコの異なった反応は,無脊椎捕食者に対する仔虫の食われ易さの違いを反映した適応の結果と考えられる。また,フサカ幼虫の行動に及ぼす魚のカイロモンの影響の解析も行った.湖沼や海洋で多くの動物プランクトンが日周鉛直移動を行うことが知られている.昼は捕食者である魚を避けて暗い深層部に降り,夜暗くなってから餌の多い表層に上がるのである.最近になって,この鉛直移動がカイロモンによって誘導されることがわかってきた.本研究では,魚のいない池に生息し日周鉛直移動を行っていないフサカ幼虫と,魚(ブルーギル)の多い湖に生息し日周鉛直移動を行っているフカサ幼虫を用い,実験条件下でフサカの行動に及ぼすブルーギルのカイロモンの影響を調べた.湖のフサカでは魚のカイロモンによって日周鉛直移動が誘導されたが,池のフサカではそれがなかった.フサカの個体群によってカイロモンに対する反応が異なることが明らかになった.この違いには遺伝的な違いが反映したものと考えられる。
著者
石崎 博志
出版者
琉球大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本年度の研究は、朝鮮語・漢語・ヨーロッパ言語など外国語資料による琉球語研究がこれまで如何なる形で行われてきたのかを振り返り、それらを批判的に検討を加えることによって外国資料が示す琉球語の音韻体系が如何なるものであったかを明らかにすることを目標とした。現在、その存在が知られる琉球語を記述した外国語資料には、朝鮮語(ハングル)による資料、漢語(漢字)による資料、ヨーロッパ言語(ローマ字)による資料の三つのタイプがあるが、これら一次資料とこれらを使った琉球語研究に関する先行研究を広範に網羅し、「外国語による琉球語研究資料」および「琉球における官話」文献目録」(『日本東洋文化論集』第7号2001)と題してその成果をまとめた。ここでは、これまでの琉球語研究史を扱った文献目録から除外されてきた外国語資料による琉球語資料とその研究論文を新出資料も交えて盛り込んだ目録である。「漢語資料による琉球語と官話研究について」(『日本東洋文化論集』第7号2001)は、外国語、ことに漢語による琉球語研究の歴史及び琉球で学ばれた漢語の研究史を振り返るとともに、これまでの研究の特徴や問題点を指摘し、そこに新たな知見を加えたものである。中国資料に関しては、「琉球館譯語」と陳侃『使琉球録』所載の「夷語」成立時期の先後関係について、「琉球館譯語」が最も早期の琉球語資料であるとの説を批判的に検討し、さらに「日本館譯語」と陳侃「夷語」との関係について論じた。そして、琉球官話と呼ばれる一群の琉球における漢語資料についてはこれまでの「官話」の基礎方言に関する議論を展開しながら、中国における官話研究の状況と併せて論じた。
著者
高橋 達也
出版者
長崎大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1993年から1997年まで、マーシャル諸島甲状腺研究(The Marshall Islands Nationwide Thyroid Disease Study)によって、現地で医学的・疫学調査が行われた。具体的には、甲状腺疾患に対する臨床理学的検査、超音波検査、穿刺吸引細胞診、癌が疑われる症例に対する外科手術、及び外科手術標本に対する病理組織学的検討が実施された。また、甲状腺機能検査として、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、甲状腺ホルモン(T3、T4)、及び抗甲状腺自己抗体が測定された。さらに、随時尿のヨード排泄量も測定された。今回、その研究の結果を踏まえて放射線による甲状腺癌発生とヨード欠乏について検討した。ヨード欠乏は、甲状腺結節のリスクであることは広く知られている。そこで、尿中のヨード濃度を研究調査に参加した364人の成人と、69人の子供の随時尿について測定した。また、代表的な食物についてヨード含有量を測定した。マジェロ在住の309人では、正常だったのは25%で、他はすべてヨード欠乏状態だった。特に、3人(1%)は、重度の欠乏状態だった。この中での、甲状腺結節発生頻度を見るとヨード欠乏群は女性で、正常群の3倍の発生率だった。しかし、男性ではこの傾向はなかった。外洋に孤立するリキエップ環礁での成人55人では、正常はわずか5人(9%)で残り90%以上は、ヨード欠乏であった。このうち7人(13%)は、重度欠乏であった。甲状腺結節の発生は、女性では1.2倍であった。本研究によって、今までは予想もされていなかったほど高頻度(30%以上)の中等度-重度ヨード欠乏が認められた。この、マーシャル諸島での食生活上の問題の原因は、不明である。しかし、放射線被曝による甲状腺結節発生を修飾している可能性が大きく、今後の継続した研究が必要である。
著者
下山 憲治
出版者
福島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、雲仙普賢岳噴火災害・北海道南西沖地震災害における被災者救済措置の一部を実態調査し、分析を行った。今年度は、前記災害の際の義援金配分をめぐる法的関係および被災者にたいする救援・生活再建対策について分析した。その結果、義援金をめぐる法律関係は公私にわたる多数の団体がかかわるためその法関係が複雑であるとともに、紛争を解決するための手続が非常に未整備であること、また、被災者の救援・生活再建については、ごく一部の分析にととめざるをえなかったが、被災者の権利保障の観点から今後の検討が必要であり、それに伴う法整備が不可欠になっていることが明確となった。カリフォルニア州の被災者救援・支援法制について資料の収集を実施したが、同州および米国においても法的観点からの分析・検討がきわめて少なく、議会資料や裁判例および各種報告書等を収集せざるをえず、いまだ中途の段階であり、さらに今後も収集・分析を要する。
著者
澤辺 智雄
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本年度に得られた成果は以下の通りである。I.ウニ・アワビ消化管由来アルギン酸分解菌の種構成と分解特異性エゾバフンウニ消化管から分離したアルギン酸分解菌はその一般性状からVibrio属と同定されたものが大半を占めていたが、代表株についてDNA-DNA相同性を測定した結果、少なくとも2菌種以上が混在していることが明らかとなった。一方、エゾアワビ消化管から分離したアルギン酸分解菌は非運動性のVibrio属類似細菌が主体をなしていた。これらの菌群は16SrDNA塩基配列による分子系統解析およびアルギン酸分解性Vibrio属標準株とのDNA-DNA相同性を測定した結果、Vivrio属の新種であることが明らかとなった。また、ウニ消化管由来アルギン酸分解菌のアルギン酸分解特異性はアルギン酸を構成するpolyMおよびpolyGいずれのホモポリマーとも分解する菌株が30%以上を占めているのに対し、アワビ分離株ではpolyGブロックに対する分解性の強い菌株が30-70%占めていた。ウニ自体はアルギン酸分解酵素を分泌しないことから、消化管内細菌がアルギン酸分解の大部分を担っていると考えられた。一方、アワビはpolyM特異的な分解酵素を分泌することから、アワビ消化酵素で分解されにくい部分を分解する消化管内細菌が定住していることが示唆された。II.アルギン酸分解酵素の特性ウニ由来アルギン酸分解菌代表株Ud10株は基質特異性を示さないNaCl要求性の強い酵素を誘導的に産生していた。一方、アワビ由来アルギン酸分解菌A431株はpolyG特異的分解酵素以外にも、基質特異性の異なる6種類以上の酵素を産生しており、その中でpolyMに強い特異性を示す分解活性画分およびpolyGに強い特異性を示す分解活性画分の部分精製物について酵素化学的性状を調べた。それぞれの画分の至適反応温度は40℃および30℃と異なっていたが、至適反応温度(pH7.5)および塩類の要求性(100mM NaCl)は同様の性質を示した。
著者
山中 伸弥
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

NAT1は翻訳開始因子の一つであるeIF4Gと相同性を有する蛋白質で、新しい癌抑制遺伝子の候補である。我々は以前、RNAエディティング酵素であるAPOBEC1をトランスジェニックマウスの肝臓で過剰発現させると肝細胞癌を誘導することを報告したが、その肝臓で異常にエディティングされているmRNAとしてNAT1(novel APOBEC1 target #1)を同定した。NAT1のmRNAのエディティングは複数の停止コドンを生み出し、結果としてNAT1蛋白質をほぼ完全に消失させた。eIF4Gは他の翻訳開始因子であるeIF4AやeIF4Eと結合し、それらの機能を統合しているが、NAT1はeIF4Aに結合するがeIF4Eには結合しないことがわかった。またNAT1を過剰発現させると蛋白質合成を抑制した。そこで、NAT1は、eIF4Aへの結合をeIF4Gと競合する結果、蛋白質合成をを抑制するというモデルを提唱した。今回、我々は遺伝子ノックアウトによりNAT1の生体内での機能を検討した。NAT1+/-マウスは外観や生殖能力は正常で、1年以上経過しても腫瘍の多発は認められなかった。一方、NAT1-/-マウス胚は原腸形成期に致死であった。NAT1-/-ES細胞は正常の形態を示し、予想に反して蛋白質合成や増殖速度も正常であった。一方、NAT1-/-ES細胞はフィーダー細胞除去やレチノイン酸刺激による分化が抑制されていた。さらに、NAT1-/-ES細胞ではレチノイン酸により変化する遺伝子発現の大部分が抑制されていた。またレチノイン酸応答配列からの転写も抑制されていた。これらの実験結は、NAT1は全般的な蛋白質合成の抑制因子ではなく、初期発生や細胞分化に関与する特定遺伝子の発現制御因子であることを示唆した。
著者
菅原 正義
出版者
長岡工業高等専門学校
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

動物の消化管に常在している細菌は、宿主に有害・有益な代謝を行い宿主の健康に大きな影響を及ぼすことが知られている。本研究では、脂質代謝や発ガンへの影響が示唆されている二次胆汁酸を一次胆汁酸から生成させる腸内細菌由来の酵素7α-デヒドロキシラーゼに関する知見の収集とその代謝制御を目的として研究を行った。これまで本酵素生産菌としてEubacterium sp. strain VPI 12708などが知られ、比較的菌数の低い強い酵素活性を有する菌が主として生産していると考えられてきた。我々は、これまで胆汁酸分析に一般に用いられてきたTLC、HPLC、GPCより感度が高いELISA法を用いて本酵素生産菌の探索を行った結果、総菌数の1〜10パーセント程度の多くの菌株が低い本酵素生産能を有することを確認した。その中でもEubactrium spと考えられる比較的酵素生産能の高い数菌株を用いて酵素精製を試みたが、継代培養を繰り返すにしたがって生産性が低下し精製することができなかった。本酵素活性の食品成分による制御を目的として酒粕粉末をラットに投与した結果、胆汁酸排泄量が有意に増加、二次胆汁酸の排泄が減少した。また、コレステロール吸収に重要なコール酸及びデオキシコール酸の排出が増加した。さらにパスタに難消化性澱粉素材である湿熱処理ハイアミロースコーンスターチを添加してヒトヘ投与した結果、胆汁酸排泄の増加とコール酸とケノデオキシコール酸の増加、デオキシコール酸とリトコール酸の減少を示し、食品成分によって胆汁酸排泄と7α-デヒドロキシル化を制御できることがわかった。
著者
松本 直樹
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

寄生虫症のうち蠕虫感染症では多くの場合、寄生虫抗原に特異的なIgE抗体価の上昇とともに寄生虫抗原とは反応しないいわゆる非特異的IgE抗体の上昇が認めらる。これらの現象は、主としてTh2タイプのヘルパーT細胞が産生するIL-4に依存していることが示されているが、蠕虫感染においてどのような機構でTh2タイプのT細胞が選択的に活性化を受けるのかについては明らかになっていない。そこで本研究では腸管に寄生するNippostrongylus brasiliensis(Nb)に感染したマウスをモデルとして宿主T細胞によって認識される寄生虫抗原の性状解析を行った。Nb感染マウスより得た腸間膜リンパ節細胞をNb成虫可溶性抗原(NbSA)または分泌排泄抗原(NbES)とともに培養すると抗原濃度依存的にIL-4さらにはIgEの産生が観察された。この時、IgEの産生はCD4T細胞によって産生されたIL-4に依存していた。NbSA,NbESをMonoQ陰イオン交換クロマトグラフィーにより展開すると両者においてほぼ同一の位置に4つのピークとしてIL-4産生誘導活性が検出された。さらに各ピークをゲル濾過法により分画を行った結果、IL-4産生誘導活性はいずれも分子量17,000から30,000の位置に回収されたことから、NbSA,NbES中にともに存在する同一の抗原分子(群)をT細胞が認識し、IL-4を産生することが示唆された。この時、MonoQによる展開で低塩濃度に溶出された2つのIL-4産生誘導活性ピークについてはそれに平行したIgE産生誘導活性が認められたが、高塩濃度に溶出されるIL-4産生誘導活性についてはIgE産生誘導能は低く、IL-4の産生のみがIgE産生を規定しているわけではないことが示唆された。現在、IL-4産生誘導活性,IgE産生誘導活性を持つ抗原について精製を進めており、今後、その構造ならびに局在部位を解析することによりTh2タイプT細胞の特異的活性化の機構解明の手がかりとしたい。
著者
大河原 恭祐
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

(1)エライオソーム比の個体群間変異とアリ群集との関連本年度は個体群間でエライオソーム比が異なる要因を調べるため、カタクリ種子を運搬するアリについて野外観察を行い、特に代表的な4調査地点(定山渓、生振、浦臼、音威子府)間で比較を行った。約100個のカタクリ種子を20個ずつ分割して林床に配置し、誘引されたアリの種類、個体数とその運搬行動を観察した。エライオソーム比の高い定山渓、音威子府個体群ではシワクシケアリとトビロケアリが主要散布アリで、運ばれた種子の全てはこの2種によるものであった。またエライオソーム比が低かった生振、浦臼個体群ではその2種に加え、アメイロアリ、アズマオオズアリが種子に集まった。しかしアメイロアリはエライオソームを食害するのみで種子を運搬しなかった。さらにこれら4種のコロニーを実験室内で飼育し、カタクリ種子を与えて、その処理行動を観察したところアズマオオズアリは種子を運んだ後、巣内でその60%近くを胚珠まで食害していた。これらの観察からカタクリのエライオソーム比は散布者となるアリの種類とその種子に対する行動によって大きく影響を受けていることが示唆された。(2)カタクリの種子散布成功率と動物群集構造の効果昨年度からの継続調査として既にアリや土壌節足動物相調査、種子運搬率などが調査してある金沢市近郊の犀川上流部の河内谷カタクリ個体群において、開花個体35個体について実生の定着成功率を調査した。その結果、1個体当たりの定着成功率は70-90%で、同様の調査を行った北海道定山渓個体群よりも高かった。これは昆虫類などの散布妨害者が少なかったことと土壌動物密度が希薄でアリにとってエライオソームの食料としての価値が高く、運搬頻度が上がったためであると考えられる。
著者
宮川 昌久
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

多数の口腔扁平上皮癌組織と、同一患者の正常組織を用いて以下の実験を行った。1)第10番染色体上にマップされている多数のマイクロサテライト領域のうち、特にヘテロ接合性を示す確率の高い17ヵ所をPCR-microsatellite assay法により調べた。その結果、第10番染色体全体ではmicrosatellite instabilityは42.4%、loss of heterozygosityは72.7%と高率に検出され、口腔癌発生に第10番染色体異常が関与していることが示唆された。また、共通欠失領域として長腕上のD10S202領域(34.6%)とD10S217領域(28.6%)を同定した。さらに、PCR-SSCP-sequence法を用いてPTEN遺伝子を解析したところexon-1の上流に共通したmutationを検出した。mRNAの発現に対する修飾が行われている可能性が示唆された。2)第12番染色体上にマップされている多数のマイクロサテライト領域のうち、特にヘテロ接合性を示す確率の高い24ヵ所をPCR-microsatellite assay法により調べた。現在までのところ、第10番染色体全体ではmicrosatellite instabilityは26.2%、loss of heterozygosityは38.4%とあまり高い変異は検出されず、また、現在までのところ、共通欠失領域は同定できなかった。今後第12番染色体についてさらに詳細に検討を加えていく。
著者
宗原 弘幸
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

行動観察、受精生理および遺伝学的手法により、本課題を遂行した。その結果、ヨコスジカジカは産卵後に雄が卵に放精する、非交尾種であることが判明した。しかし、精子の運動活性は海水中よりも体液と等張でNa^+存在下で最も高く、特に卵巣腔液中では極めて長期間活動する。媒精、受精は産卵時に放出される卵巣腔液中であることから、非交尾カジカはすでに交尾への準備が進んでいることが示唆された。また、卵巣腔液中で受精可能な点は体内配偶子会合型の交尾種と相違した。その要因は卵巣腔液中のCa^<++>濃度の違いで、カジカ類では交尾習性の進化の際に、卵巣腔液中のCa^<++>濃度を下げる生理的メカニズムの変化があったことが示唆された。卵巣腔液の役割として精子の貯留や活性保持の他に、ケムシカジカでは交尾の際の精子受け渡しの媒介となることが水槽内観察より明らかになった。本種の交尾行動は、一連の求愛儀式を経た後、雌の生殖口から管が出され、さらにそこからゼリー状卵巣腔液が放出され、そのゼリーの向かって放精されるというもので、精子が絡みついてゼリーの一部が再び雌の卵巣内に収納されることで交尾が完了する。ペニスがないカジカも交尾をするという、本行動観察結果は、カジカ科魚類にはかなり交尾をする種がいることを示唆した。交尾行動は繁殖生態の上で、父性のあいまいさをもたらす。特に雄が卵を守るニジカジカの場合、重要な問題である。そこでDNAフィンガープリントで、保護雄と卵の父性およびいつ交尾した雄が有利かを調べた。その結果、繁殖期の終期では雄と卵には父性がないこと、および最初に交尾した雄は多くの子を残せることが分かった。本研究結果は、卵の保護は雄にとって直接的な利益が無いことが示され、卵保護の進化に父性の信頼性は必ずしも平行しないこと場合があることが分かった。最後に、配偶子会合型、交尾種の地理的出現を調査する準備段階として、アラスカ産のカジカ類の繁殖期を把握する目的で、キナイ半島リサレクション湾の仔稚魚サンプルを調べ、春季に10種のカジカ科魚類が出現することが分かった。
著者
中島 貴子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

行政機関における化学物質の人体毒性評価に関する日本と米国の決定的な差異をもたらしている最大の理由は、両国におけるレギュラトリ・サイエンスの在り方の相違によるものである、という前年度の研究成果を踏まえ、今年度は、「レギュラトリ・サイエンス」という概念の発展経緯について日米比較を行った。その結果、以下の結論および仮説を得た。(1)欧米でレギュラトリ・サイエンスという概念の普及にもっとも貢献したのは、科学論者であり、法学者であるシェーラ・ジュサノフ(ハーバード大学教授)である。彼女は1990年、リサーチ・サイエンスとの相対比較によってレギュラトリ・サイエンスを定義した。その視点はすぐれて社会学的。(2)一方、日本ではジャサノフとは全く独立に、内山充(元東北大学教授、薬剤師研修センター理事)が1970年という早い時期からからレギュラトリ・サイエンスの概念を打ち出していた。その内容は、レギュラトリ・サイエンスには従来の科学とは全く異なる目的・方法が必要とされる点を明示するもので、自然科学的かつ創造的。(3)しかしながら、レギュラトリ・サイエンスの規模、レベルにおいて、日本はアメリカよりもはるかに劣っているといわざるを得ない。その理由は、第一に、日本では内山の意図するレギュラトリ・サイエンスの真意や価値が、本来、レギュラトリ・サイエンチストを輩出すべき大学や、自らレギュラトリ・サイエンチストたるべき国立系研究機関で十分な理解を得られなかったこと。第二に、内山の影響力を医薬品行政にとどめ、他の関連行政には伝播させないような、省庁間の壁が厚かったことが考えられる。(4)したがって、今後、日本で健全なレギュラトリ・サイエンスを育むためには、レギュラトリ・サイエンスに関する内山の先駆的な主張に、大学、国立系研究機関ならびに関係省庁が真摯に耳を傾ける必要がある。
著者
徳丸 亜木
出版者
鹿児島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本科研においては、鹿児島県薩摩半島の森殿信仰、山口県豊浦郡豊浦町のモリサマ信仰、沖縄県宮古島の御嶽信仰を調査対象として、各信仰対象に纏わる伝承がいかなる経緯で形作られ、或いは、古い伝承から別の形へと再構成されてゆくかを捉える事を目的として、平成九年度、ならびに十年度にかけて調査、研究を継続した。伝承の再構成過程を最も明確になし得たのは、山口県下のモリサマ信仰であり、そこで、伝承者と民間宗教者との相互作用的なコミュニケーションに基づく伝承再構成過程の特質として以下の諸点を明らかに成し得た。一、 民間宗教者の「森神」祭祀への関与は、「森神」を死霊の祭り場とする祭祀者側の意織に基づいて行われる。そこには土地の霊を祀るとする地霊祭祀の観念が接合しており、祭祀者は死霊祭祀の意識を枠組みとして、民間宗教者からの伝承への後次的な脚色を受容し、その由来伝承の再構成を行う。二、 多くの場合、「異人殺し」伝承が創出、あるいは付加される。集落の外部より寄り来る「異人」は、地域の歴史的コンテキストと対応のもとで落人と位置づけられ由来伝承が構成される傾向が強い。その場合、民間宗教者により、「森神」は落人が死んだ土地であると、地域の歴史的コンテキストに合致した解説がなされる。三、 祭祀者と落人の死霊との関係は、一つは、その先祖自体が、その「生きた時間」において落人の死に何らかの形で関わり、その家筋に連なる子孫に、死霊による崇りなどの発現が生じるという形で現れる。今一つは、死霊が宿る土地を屋敷地としている、あるいは所有している事を理由として、自己の帰属する家と「森神」との因果関係を意識する。四、 「森神」に対する死霊祭祀の場としての意識、および家筋や死霊が宿る祭地への居住や土地所有に基づく祭家への帰属意識が、その死霊の祭家に対する崇り発現の背景にある。旧来から「森神」が祭祀されていた事例の場合、家の生活史上生じた危機的状況の災因は、家に関わる死霊の存在に帰結され、家の盛衰と死霊祭祀との因果関係が因縁として意識される。この過程で、家の生活史上の様々な出来事がいわば、家の内包的なコンテキストとして、「森神」にまつわる伝承に取り込まれ再構成されてゆく。五、 また、家に危機的状況が生じた時点で、「森神」が民間宗教者によって新たに創出される場合もある。この場合も、その「森神」に対する民間宗教者の「解説」は、その家の構成員の信仰的な意識の枠組み、背景としての家の生活史上の事件(家の内包的コンテキスト)、地域の歴史的コンテキストを接合してゆく形で提示され、結果として死霊祭祀の由来伝承を持つ「森神」が創出される。六、 こうした「森神」伝承の再構成過程は、民間宗教者と祭家との間で、相互の信仰世界に影響する形で生じ、その相互作用の中で「森神」の伝承は活性化され、再構成される場合もある。七、 以上の様な伝承再構成過程を示す家の家族員には、家の生活史上の危機的状況を、信仰的な側面での解決に求める様な、特有のパーソナリティが認められる。そうした家では、宗教者の解釈を受けつつ、「森神」に対する意識を一定の枠組みの中で再構成してゆき、その帰結として日蓮系宗教者の祭祀を受容する。反対にその様なパーソナリティが希薄な家では、家の危機的状況が生じても、その原因は信仰的側面に帰結されず、「森神」伝承の再構成には結び付いて行かない。
著者
安達 太郎
出版者
広島女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究は日本語の行為要求表現について、小説などの書記資料だけでなく、録画資料を活用することによって終助詞の有無や音声にまで注意を向けた詳細な機能分析を行うことを目的とするものである。研究期間中、命令・依頼のモダリティと意志のモダリティについての分析を行い、後者は論文として公刊した。意志のモダリティの主要な形式はシヨウ(動詞の意志形)とスル(動詞の基本形)である。シヨウは基本的には聞き手への伝達を意図しない典型的な意志を表し、独話で発話される。一方、スルはその行為の実行を聞き手に表明することを意図する点で典型的な意志ではない。シヨウは聞き手とのさまざまな関係(恩恵の直接的、間接的な付与)によって対話においても使われるように機能の拡張が起こる。特に、ケンカをしている二人にむけて発話される「ケンカもうやめようよ」のような行為の提案の機能を持つ文は興味深い。通常の意志の文では終助詞ヨを文末に付加することはできない。(「明日は早いから、寝ようよ」は意志の文とは解釈できない)が、このタイプでは可能になる。音調的にもこの行為の提案のシヨウは急激な上昇が起きてから下降する点で、勧誘の文に近い。これらから、純粋な意志の表出の形式であるシヨウが、話し手の行為に聞き手の参加を求める勧誘の文に連続していく様相を把握することができた。なお、この研究よって構築されたデータベースを用いて、疑問文の反語解釈、感嘆文などの行為要求以外のモダリティ表現の分析にも着手しており、成果の一部は拙著『日本語疑問文における判断の諸相』(くろしお出版)にも含まれている。
著者
内ヶ崎 西作
出版者
日本大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

【実験方法】昨年度のウサギを用いた動物実験でサンプリングしておいた脳を含む諸臓器について病理組織標本を作成し、法医病理学的に検討を加えた。更に、「逆さ吊り」という体位が死を引き起こすメカニズムについて、昨年度のデータ・考察と共に総合的に検討した。【結果】諸臓器には特に致死的変化は認められず、また脳に関しても著明な脳浮腫や脳充血などの所見はみられなかった。【考察】昨年度の病態生理学及び肉眼解剖学を主体とした研究によって、「逆さ吊り」の体位は腹腔内臓器が横隔膜を通して胸腔を圧迫し、呼吸運動特に胸郭を広げる吸気運動が阻害されて、次第に呼吸筋が疲労して呼吸が浅くなり、最終的には窒息を起して死をきたすとの考察が得られた。本年度の研究はそこに法医病理学な調査を加えたものであるが、特に致死的な所見、及び、著明な脳浮腫や脳充血などはみられなかった。以上のことから、今回の「逆さ吊り」の実験系により死亡したウサギの死因としては、他の内因的な死因や脳充血などは否定され、やはり窒息であることが解明された。つまり、日本国内をはじめ世界の法医学者の間でもあまり認識されていなかった体位関連性窒息(postural asphyxia)が「逆さ吊り」でも実際に起りうるということがこの研究により証明されたのである。実際の法医実務上で「逆さ吊り」を経験することは希であるが、現に裁判などで問題となっている事例もみられる。この研究は、今後このような事例を経験した場合に有用な資料となるであろう。今後は他の体位と体位関連性窒息、或いは、乳幼児突然死症候群と体位関連性窒息などについての解明が待たれるところである。
著者
石原 哲
出版者
岐阜大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

1.精子の活性度をATP量をもって測定する場合、ATPの抽出操作までと抽出操作中の損失が第一の課題となったが、以下の点が判明した。(1)射精後の時間経過による変動が大きかった。これは発現時間とその後の推移から考えて単にATP量の自然な減少のみではなく、射精後の精液の液化現象も関連していると思われ、追加検討が必要であると思われた。(2)希釈操作による影響は回収率から検討した結果、特に認められなかった。(3)抽出方法は化学的に行なう方法を用いたが、抽出時間などの影響は少なく、特に技術的な問題がなかった。(4)最終的にATP量をルシフェリン=ルシフェラーゼ系発光分析で定量する時点で、イオン強度が高い場合などでは発光が阻害されるため、検体を採取してから精漿などを除去する洗浄操作を加える必要性が示唆された。(5)(4)以外の点では最終的な定量法に特に問題はなかった。2.通常の凍結・解凍を行なった場合、ATPが大量に消費されるためか、活性は一割程度となった。緩衝液等の検討でこれを防止することを試みたが、満足な結果が得られなかった。ATP自身は凍結・解凍を行なっても良好に保存されることが確認された。このため、完全にATPを抽出して凍結保存できる方法のうち、臨床の現場で容易に実施できる方法を求めて継続検討中である。
著者
冨山 清升
出版者
茨城大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

メダカを用いて、近親交配実験を行った。その結果、野生メダカは、飼育条件下では、近親交配によって、集団の遺伝的多様性のみならず、個体の遺伝的多様性も急速に低下することがわかった。集団の遺伝的均質化がいったん失われると、外部から新たな個体を導入しても容易に回復しないことも明らかになった。また、個体内の遺伝的多様性が失われた個体は、繁殖能力が著しく低下することも判った。RAPDプライマー法を用いて、直接、野生動物種の遺伝的多様性の検出を行い、集団のサイズやその集団が置かれている環境状態と関連性を調査した。調査対象としては、メダカ、オナジマイマイ、ウスカワマイマイを用いた。RAPDプライマー法の結果を用いて、メダカの野生集団、飼育集団、近親交配集団のDNAの多形の程度を数値化した。その結果、多形の程度は野生集団が十分の大きく、近親交配集団では、ほとんど多形が検出されないことがわかった。また、RAPDプライマー多形の程度は近親交配の程度を反映していることが裏付けられた。さらに、DNA多形の失われている個体は、形態においても左右対称性がゆがんでいることがわかった。以上の事実から、RAPDプライマー法を用いることによって、野外集団の近親交配の程度=絶滅の可能性の高さを推定することができることが判り、さらに、形態的な特徴である程度の推定が可能でことも示唆された。