著者
大栗 行昭
出版者
宇都宮大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994 (Released:1994-04-01)

本研究の課題は,明治維新期に小作料がどのような経緯,方法で決定されたのかを考察し,そのような地代を収取する地主的土地所有はどう範疇規定されるべきかを展望することであった.研究代表者は,全国の町村が作成した『大正十年小作慣行調査』のうち,埼玉県と新潟県蒲原地方のものを閲覧・収集し,次のような理解を得るに至った.明治前期の小作料には,幕藩体制下の小作料をそのまま継承したものと,明治8,9年の地租改正実施の際に改定されたものとがある.埼玉では後者が多く,蒲原では両者相半ばした(明治21年の地価改定時に改定した村もあった).蒲原では,旧藩時代の小作料は収穫米の6割ないし2/3(領主1/3,地主1/3)であった.地租改正時に改定された場合についてみると,埼玉県では台帳上の収穫米高から2〜3割を控除して改定されたものが多く,蒲原では台帳上の収穫米高から1割5分〜4割(3割ないし3割3分が多い)を控除して改定された.明治初年の小作料は,幕藩体制下のそれの重みを継承し,「押付反米」と称された反収の6〜8割(中心は7割)に及ぶ高率現物小作料であった.ちなみに,地租改正「地方官心得」の地価検査例第2則における小作料率68%は,当時の慣行的な小作料水準ではないという見解があるが,本研究は「小作料率68%」が当時の実態に近いものであったと認識する.地主的土地所有の性格を規定するに当たっては,このような高率現物小作料が村落共同体的な強制力の存在のもとで決定され,維持されていた(小作料滞納に対しては,村内での小作禁止,戸長の説諭などの手法がとられた)ことに注意を払う必要があろう.
著者
下山 憲治
出版者
福島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995 (Released:1995-04-01)

本研究では、雲仙普賢岳噴火災害・北海道南西沖地震災害における被災者救済措置の一部を実態調査し、分析を行った。今年度は、前記災害の際の義援金配分をめぐる法的関係および被災者にたいする救援・生活再建対策について分析した。その結果、義援金をめぐる法律関係は公私にわたる多数の団体がかかわるためその法関係が複雑であるとともに、紛争を解決するための手続が非常に未整備であること、また、被災者の救援・生活再建については、ごく一部の分析にととめざるをえなかったが、被災者の権利保障の観点から今後の検討が必要であり、それに伴う法整備が不可欠になっていることが明確となった。カリフォルニア州の被災者救援・支援法制について資料の収集を実施したが、同州および米国においても法的観点からの分析・検討がきわめて少なく、議会資料や裁判例および各種報告書等を収集せざるをえず、いまだ中途の段階であり、さらに今後も収集・分析を要する。
著者
宗原 弘幸
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993 (Released:1993-04-01)

行動観察、受精生理および遺伝学的手法により、本課題を遂行した。その結果、ヨコスジカジカは産卵後に雄が卵に放精する、非交尾種であることが判明した。しかし、精子の運動活性は海水中よりも体液と等張でNa^+存在下で最も高く、特に卵巣腔液中では極めて長期間活動する。媒精、受精は産卵時に放出される卵巣腔液中であることから、非交尾カジカはすでに交尾への準備が進んでいることが示唆された。また、卵巣腔液中で受精可能な点は体内配偶子会合型の交尾種と相違した。その要因は卵巣腔液中のCa^<++>濃度の違いで、カジカ類では交尾習性の進化の際に、卵巣腔液中のCa^<++>濃度を下げる生理的メカニズムの変化があったことが示唆された。卵巣腔液の役割として精子の貯留や活性保持の他に、ケムシカジカでは交尾の際の精子受け渡しの媒介となることが水槽内観察より明らかになった。本種の交尾行動は、一連の求愛儀式を経た後、雌の生殖口から管が出され、さらにそこからゼリー状卵巣腔液が放出され、そのゼリーの向かって放精されるというもので、精子が絡みついてゼリーの一部が再び雌の卵巣内に収納されることで交尾が完了する。ペニスがないカジカも交尾をするという、本行動観察結果は、カジカ科魚類にはかなり交尾をする種がいることを示唆した。交尾行動は繁殖生態の上で、父性のあいまいさをもたらす。特に雄が卵を守るニジカジカの場合、重要な問題である。そこでDNAフィンガープリントで、保護雄と卵の父性およびいつ交尾した雄が有利かを調べた。その結果、繁殖期の終期では雄と卵には父性がないこと、および最初に交尾した雄は多くの子を残せることが分かった。本研究結果は、卵の保護は雄にとって直接的な利益が無いことが示され、卵保護の進化に父性の信頼性は必ずしも平行しないこと場合があることが分かった。最後に、配偶子会合型、交尾種の地理的出現を調査する準備段階として、アラスカ産のカジカ類の繁殖期を把握する目的で、キナイ半島リサレクション湾の仔稚魚サンプルを調べ、春季に10種のカジカ科魚類が出現することが分かった。
著者
中島 貴子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999 (Released:1999-04-01)

行政機関における化学物質の人体毒性評価に関する日本と米国の決定的な差異をもたらしている最大の理由は、両国におけるレギュラトリ・サイエンスの在り方の相違によるものである、という前年度の研究成果を踏まえ、今年度は、「レギュラトリ・サイエンス」という概念の発展経緯について日米比較を行った。その結果、以下の結論および仮説を得た。(1)欧米でレギュラトリ・サイエンスという概念の普及にもっとも貢献したのは、科学論者であり、法学者であるシェーラ・ジュサノフ(ハーバード大学教授)である。彼女は1990年、リサーチ・サイエンスとの相対比較によってレギュラトリ・サイエンスを定義した。その視点はすぐれて社会学的。(2)一方、日本ではジャサノフとは全く独立に、内山充(元東北大学教授、薬剤師研修センター理事)が1970年という早い時期からからレギュラトリ・サイエンスの概念を打ち出していた。その内容は、レギュラトリ・サイエンスには従来の科学とは全く異なる目的・方法が必要とされる点を明示するもので、自然科学的かつ創造的。(3)しかしながら、レギュラトリ・サイエンスの規模、レベルにおいて、日本はアメリカよりもはるかに劣っているといわざるを得ない。その理由は、第一に、日本では内山の意図するレギュラトリ・サイエンスの真意や価値が、本来、レギュラトリ・サイエンチストを輩出すべき大学や、自らレギュラトリ・サイエンチストたるべき国立系研究機関で十分な理解を得られなかったこと。第二に、内山の影響力を医薬品行政にとどめ、他の関連行政には伝播させないような、省庁間の壁が厚かったことが考えられる。(4)したがって、今後、日本で健全なレギュラトリ・サイエンスを育むためには、レギュラトリ・サイエンスに関する内山の先駆的な主張に、大学、国立系研究機関ならびに関係省庁が真摯に耳を傾ける必要がある。
著者
内ヶ崎 西作
出版者
日本大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997 (Released:1997-04-01)

【実験方法】昨年度のウサギを用いた動物実験でサンプリングしておいた脳を含む諸臓器について病理組織標本を作成し、法医病理学的に検討を加えた。更に、「逆さ吊り」という体位が死を引き起こすメカニズムについて、昨年度のデータ・考察と共に総合的に検討した。【結果】諸臓器には特に致死的変化は認められず、また脳に関しても著明な脳浮腫や脳充血などの所見はみられなかった。【考察】昨年度の病態生理学及び肉眼解剖学を主体とした研究によって、「逆さ吊り」の体位は腹腔内臓器が横隔膜を通して胸腔を圧迫し、呼吸運動特に胸郭を広げる吸気運動が阻害されて、次第に呼吸筋が疲労して呼吸が浅くなり、最終的には窒息を起して死をきたすとの考察が得られた。本年度の研究はそこに法医病理学な調査を加えたものであるが、特に致死的な所見、及び、著明な脳浮腫や脳充血などはみられなかった。以上のことから、今回の「逆さ吊り」の実験系により死亡したウサギの死因としては、他の内因的な死因や脳充血などは否定され、やはり窒息であることが解明された。つまり、日本国内をはじめ世界の法医学者の間でもあまり認識されていなかった体位関連性窒息(postural asphyxia)が「逆さ吊り」でも実際に起りうるということがこの研究により証明されたのである。実際の法医実務上で「逆さ吊り」を経験することは希であるが、現に裁判などで問題となっている事例もみられる。この研究は、今後このような事例を経験した場合に有用な資料となるであろう。今後は他の体位と体位関連性窒息、或いは、乳幼児突然死症候群と体位関連性窒息などについての解明が待たれるところである。
著者
吉武 久美子
出版者
長崎純心大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994 (Released:1994-04-01)

子どもにおける、皆と同じでという自己の同調性の大きさや、自己と違う相手を認めるという異質性の受容力の少なさなど、現在の少子の問題について、本年度は主に、家庭という場面を取り上げて検討を行った。対象は保育所、幼稚園に通っている3才から5才の子どもとその親であった。方法は質問紙調査と対面調査を用いた。まず、「自分と違う」相手の気持ちを推し量るという共感性の発達について、少子時代の現代、兄弟の有無や親の関わり方によって違いがあるかを検討した。一人っ子、年下の兄弟のいない末っ子、年下の兄弟のいる子などで共感性の高さに違いはなかった。しかし、親が子供に絵本の読み聞かせや会話を通してコミュニケーションをしている場合には、自分の感情とは異なる他人の感情の類推という共感性能力が高かった。次に、他者と同じでありたいという同調行動について調べたところ、すでに、3才から5才の子どもたちにすでにその同調行動が生じていることがわかった。特に、実際に他者(保育所では他の幼児)が存在して行動する場合に同じ行動をとろうとするだけでなく、実際に他者がいなくても、「お友達は……していたよ」という口頭での情報を与えられるのみで、子どもは自分の行動を他者と同じ方向へ変えることが大変多く見られることから、低年齢の幼児における同調性の強さがわかった。さらに、親の影響の中でも、現代の少子家庭は、祖父母等、親に代わる人間の存在も少ないため、父親の育児参加の影響力は大きく、父親が育児に参加してないと認知する母親は、育児に対する認知もネガティブであり、それが、さらに少子の社会心理的発達に影響を及ぼすことが示唆された。
著者
高橋 晋一
出版者
弘前大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993 (Released:1993-04-01)

函館の華僑社会は現在32世帯からなっているが、国内の他の華僑社会に比べると規模が小さい。華僑は多くの場合、移住地においてチャイナタウンを形成し、そこに集住する傾向にあるが(例えば横浜や長崎)、函館の場合、華僑はチャイナタウンを形成せず、市内全域に分散して居住している。これは華僑の人数が少なかったこと、函館華僑のほとんどが行商を主な業とする福建省福清県の出身者であったことなどによるものであろう。現在、函館華僑が出身地である中国本土からもたらした伝統的な文化は大きく変化している-すなわち日本化の一途をたどっている。現在、函館華僑社会において行われている主な中国の伝統行事としては、4月の清明節、関帝の誕生祭(6月)、8月の中元節がある。清明節および中元節には、中国人墓地に集まって祖先供養の儀礼を行い、その後みんなで会食をする。これらの行事は華僑一世を中心に行われており、二世・三世といった若い世代の人は関心が薄く、参加率はあまり高くない。また儀礼は僧侶を呼んで仏教式に行うなど、儀礼内容の日本化が著しい。かろうじて紙銭を焼く風習、参拝方法などに中国方式をとどめている。このように伝統文化を失いつつある函館華僑社会では、「中国人」としてのエスニック・アイデンティティは特に若い世代で急激に薄れている。一世の人達は、中国語を話し、大陸に里返りするなど、中国とのつながりを失っていないが、二世、三世になると大きく価値観が違う。例えば一世は、華僑同志結婚するのが望ましいと考えているが、二世、三世ではそのような意識は低い。伝統行事も次第に形式化しつつある。このような世代間のギャップを超えて自分達の文化を改めて見直し、継承・創造していく道を見いだすことが、今後の函館華僑社会の大きな課題となっていくるものと思われる。
著者
矢野 潤
出版者
山口大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993 (Released:1993-04-01)

導電性高分子であるアニリン誘導体高分子,ポリ(N-メチルアニリン)(PNMA)およびポリ(o-フェニレンジアミン)(PoPD),をそれぞれ対応するモノマーを電解重合することにより作製した.PNMAおよびPoPDとも安定な膜として電極基板上に得られた.これらの重合膜を被覆した電極を用いて溶存する有機化合物のサイクリックボルタンモグラムを測定したところ,ビタミンCやいくつかのキノン類のサイクリックボルタンモグラムの酸化・還元ピーク電位は電極反応が起こりやすい方向に移行し,重合膜の電極触媒作用が観測された.PNMA膜の電極触媒作用の電極過程や速度論的パラメタを調べるため,PNMA膜を回転円板電極(RDE)上に被覆してRDEボルタンメトリを行った.PNMA膜の膜厚,溶存種の濃度などを変えてRDEボルタンモグラムを測定し,AlberyとHillmanの理論をもとに解析した.その結果,(1)溶存する有機化合物は主にPNMA膜中のレドックス活性サイトにより酸化・還元されること,(2)その電荷移動の速度定数は6.4×10^3Ms^<-1>であったこと,(3)電極触媒反応の全電極反応速度定数は0.015cm s^<-1>であったこと,などが明かとなった.他方,PoPD膜についても同等の検討を行った結果,(1)〜(3)とほぼ同様の結果が得られた.したがってこうした電極触媒作用を高めるには,重合膜のレドックス活性の増加を図ることが重要であるという知見が得られた.PoPDは他の多くの導電性分子と異なり,いくつかの有機溶媒に溶解した.そこでこのことを利用してPoPDの分子構造が決定できた.得られた分子構造と導電性や電極触媒活性の関連についても有為な結果が得られた.
著者
坂元 章
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997 (Released:1997-04-01)

本研究では、2つの実験によって、攻撃型テレビゲームでの遊びがその後の攻撃行動に影響するか、などの問題を検討した。実験1では、女子大学生52名を5つの条件の1つに割り当てた。それらの条件は、被験者が現実的なゲーム(ヴァーチュアコップ)で遊ぶ条件、非現実的なゲーム(スペースインベーダ)で遊ぶ条件、現実的なゲームの進行をただ見る条件、非現実的なゲームの進行を見る条件、中性的な映像を見る対照条件であった。被験者には、ゲームや映像に接触した後で、サクラに対して電気ショックを与える機会が与えられ、そこで被験者がどれだけの電気ショックを与えたかが攻撃行動の測度となった。また、被験者の血圧や心拍を、ゲームや映像に接触する前後で測定した。実験2では、実験1の手続きを変更し、その知見の妥当化と拡張を行った。実験2では、現実的なゲームとして、エリア51をパァーチャガンとともに使用し、格闘ゲーム(鉄拳2)で遊ぶ条件を加え、更に、攻撃行動の指標としてサクラに対して雑音を聞かせる行動を測定した。ゲームの進行を見る条件は設置しなかった。被験者は、41名の女子大学生であった。これらの実験の結果、次のことが明らかになった。(a) テレビゲーム遊びは攻撃行動を促しうること。ただし、(b) テレビゲーム遊びの影響は、ゲームの種類によって大きく異なっていること(例えば、バーチュアガンを用いたエリア51では影響が検出されたが、バーチャルコップでは検出されず、スペースインベーダーについては、2つの実験で結果は一貫しなかった)。(c) テレビゲーム遊びが攻撃行動を促す影響は、その相互作用性のために生じている可能性があること。(d) テレビゲーム遊びの影響は、それが運動による生理的喚起を引き起こすからではないこと。
著者
染岡 慎一
出版者
安田女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994 (Released:1994-04-01)

大学の付属学校等を除いて、従来、小学校が直接インターネットに接続された事例は皆無であった。本研究では、実際に小学校をインターネットに接続し、接続を維持し、さらに教育の場で活用する一連の研究を行った。本研究により、日本で最初の小学校ドメインとして広島市立鈴張小学校がUUCPによってインターネットに直接接続された。本研究により、以下の点が明らかになった。1)UUCPにより、小学校をインターネットドメインとして直接接続することは可能であるが、特に、公の機関がインターネット接続のために回線を利用するという概念がもともと無いため、電話回線等の外部との通信回線の確保が困難であった。また、現段階では、既存のワークステーションを利用したUUCP接続が最も接続が安定した。2)インターネットに公立小学校が直接接続する事例は日本において初めての試みであったが、地域ネットワークプロジェクトを介することにより、教育・研究目的の接続は可能であり、小学校の教諭が直接手続きを行った。3)UUCP接続後、1日の電子メールの出入りは平均20通であった。主な通信先は国内ドメイン40%、海外ドメイン35%、メーリングリスト18%、パソコン通信局7%等であった。4)カナダKingston and District小学校と、電子メールを利用した「クリスマスのすごし方」について
著者
渡辺 智恵美
出版者
(財)元興寺文化財研究所
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993 (Released:1993-04-01)

本研究では過去に収集した耳環のデータに基づき復原製作すると共に、配合比を変えた金・銀合金の標準サンプルを製作し(Au:Ag=97:3 W%〜 15:85 W%迄9種類)、実際の遺物との色調の比較検討を試みた。平成3年度の奨励研究において自然科学的手法を用いた耳環の製作技法の解明を通して古墳時代の鍍金技法の考察を試みたが、今回さらに調査を進めた結果、(1)金、銀以外に錫、鉛、鉄を素材とした耳環の存在が指摘されていたが、銅製や鋳造による青銅製の耳環が存在すること、(2)走査型電子顕微鏡およびX線マイクロアナライザーによる調査の結果、銅芯と表面層の間に中間層を持つものが多く、中間層に銀箔や銀板を使用したものが四国地方〜中部地方で確認でき、汎日本的に存在する可能性が窺える。(3)色調的には銀製品と思われるものの中に金の含有量の高い鍍金製品が存在すること、等を確認することができた(肉眼観察ではAu:Ag=50:50 W%位でほとんど銀製品に見える)。耳環の製作技法の解明および復原製作を通して鍛接や鑞付け、鍛金あるいは金・水銀アマルガムによる鍍金方法等、古墳時代の金工技術の一端を推定することができたが、中間層の銀板や中空耳環における地板の合わせ目の処理方法(中空耳環の場合、内面では合わせ目が確認できるが外面では全く確認できない)等、多くの疑問も残った。また器形的には単純であるが、その製作に当たっては専門的知識を多く必要とするものと推測され、土器等とは異なった流通経路(専門工人の存在)が考えられる。このことは先述の中間層を持つ耳環が汎日本的に存在かる可能性や住居址からの出土例が少ないことからも推測できる。今後は自然科学的調査と考古学的調査を総合的に行い、統計学的処理により全国的な集成を行うと共に製作技法や素材の差異により耳環に正確な呼称を与え、統一を図りたい。
著者
石田 敏彦
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999 (Released:1999-04-01)

1.分子レベルでの気泡モデルの改良本研究では単一気泡の内部を分子レベルで扱い,気泡界面の境界条件は従来の連続体の方程式であるKellerの方程式にしたがって決定するモデルを構築したが,気泡界面での水分子の蒸発と凝縮は組み入れられていなかった.また,以前のモデルで確認された気泡内部の衝撃波は,実際には界面での熱伝達により存在しないとも考えられた.今年度ではさらにモデルを改良して,界面での水の蒸発と凝縮,しいては熱伝達と質量流入を考慮し,境界条件も界面での蒸発と凝縮を考慮したYasuiの方程式に変更することで,最近報告された気泡内部における分子種の分布の変動や非平衡状態をシミュレートすることを可能にした.得られた結果では,気泡運動半径,気泡内部の温度,圧力の分布は他の研究者によるシミュレーション結果と一致したが,衝撃波らしき急激に変動する圧力分布が見られ,現在有力視されているソノルミネッセンス発生メカニズムの理論を裏づけるには到らなかった.今後,内部の水分子の解離や希ガス分子のイオン化を含め,より詳細に発生メカニズムの解析を行っていく予定である.2.発光の実験条件への依存性調査昨年度作成した実験装置により,単泡性ソノルミネッセンスから多泡性ソノルミネッセンスへの遷移を確認することができた.本研究では計上した熱電対による水温のモニター,及び計上したポータブルイオン・pH計によりpH値を予定していたが,既に実験で得られているpHの変化量が予定したポータブルイオン・pH計の分解能以下であることが判明し,購入および実験を断念した.しかし,ソノルミネッセンス発生の温度依存性,音圧条件と単泡性から多泡性ソノルミネッセンスへの遷移領域は現在も未知の部分があり,今後も多泡性および単泡性ソノルミネッセンスの差異の支配する要因を計測する手段を開発することを目指す.
著者
太田 出
出版者
神戸商科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000 (Released:2000-04-01)

今年度は本研究課題に関わって8月3日〜19日まで中国北京、9月1日〜7日まで台湾台北で海外調査を行った.北京では、社会科学院歴史研究所に赴いて中国人研究者と交流を深めると同時に、第一歴史〓案館・国家図書館(旧北京図書館)・首都図書館で監獄・警察・裁判関係の史料を閲覧・複写した。また台北では、短期間であったが、中央研究院で同様の史料を閲覧・複写した。国内では、12月末に東京大学東洋文化研究所に赴き、広西省の模範(モデル)監獄など監獄関係史料を中心に閲覧・複写した。以上が本年度の史料調査の概要であるが、筆者の勤務先の変更もあって十分な時間を確保できず、当初の予定すべてを行うことはできなかった。今後の課題としたい。また今年度は昨年度に複写・蒐集した史料の読解・分析作業も同時に進めた。成果の一部は後掲の雑誌論文「「自新所」の誕生-清中期江南デルタの拘禁施設と地域秩序-」(『史学雑誌』111-4、2002)で公開する予定である。これは監獄に関わる調査の中で入手できた史料群に分析を加えることで、これまで全く未解明であった授産更正的な拘禁施設=自新所の実態を検討し、その誕生が刑罰制度や地域秩序の有り様と如何に関わっていたかを考察したものである。このほか監獄関係については興味深い史料を多数蒐集できている。今後さらに分析を進めていく予定である。犯罪現象については、京都大学人文科学研究所(明清班、班長岩井茂樹)において研究成果の一部を「清前中期江南デルタ社会と犯罪抑圧の変遷-労働力の流入、犯罪そして暴力装置-」と題して口頭発表した。これは犯罪抑圧の研究を江南デルタ開発の全体史の中に位置づけようと試みたものである。
著者
塚原 康子
出版者
東京芸術大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993 (Released:1993-04-01)

1.戦後の変化の前提となる戦前の軍楽隊と宮内省楽部の活動状況を調査した。(1)明治初年に創設された陸海軍の軍楽隊は、明治後期には独自の教育システムを作り上げ、大正・昭和期には管弦楽(明治末から導入)を通して東京音楽学校や当時の楽壇と関係を深めた。太平洋戦争末期に大幅な増員がなされたため、戦後には異例に多くの人材が軍から民間に転ずる結果となった。このうち海軍軍楽隊については、海軍歴史保存会編『海軍史』別巻「軍楽隊史」にまとめた。(2)明治7年から雅楽と西洋音楽を兼修した宮内省楽師は教育や管弦楽演奏などを通じて楽壇と交流し、大正・昭和期には楽家(世襲の雅楽専業家系)出身者にも西洋音楽に専心する者が現れた。2.戦後の音楽活動に関する聞き取り調査(海軍軍楽隊出身者4名、宮内省楽部出身者2名)を行った。(1)軍楽隊出身者は、戦争直後には進駐軍相手のバンド、最盛期にあった映画音楽の制作などに引く手あまたの時期があった。しかし、占領の解除、世相の鎮静化に伴ってこうした一時的な需要は急速に縮小し、その後は、オ-ケストラやジャズ・バンドで活動する者、音楽大学や初等中等学校の教員として活動する者(戦後の学校や民間での吹奏楽の普及に貢献した)、東京消防庁音楽隊・警視庁音楽隊・自衛隊の各音楽隊などに入隊した者、など音楽的適応力により分化した。(2)楽部定員は50名から25名に半減し、雅楽の演奏形態などに直接の影響が生じた。昭和21年には、昭和10年代に楽師となった当時20-30代の若い楽師のほとんどが楽部をやめ、民間での雅楽の指導・普及、オ-ケストラなどの西洋音楽楽壇へ転身した。この結果、戦死した人々と併せてこの世代の雅楽伝承者が欠落し、これまで楽家を中心に旧来の伝承形態を保ってきた雅楽界は、新しい事態を迎えることになった。今後、さらに聞き取り調査を重ね、その結果を来年度の『東京芸術大学紀要』に発表する予定である。
著者
森田 雅也
出版者
関西大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994 (Released:1994-04-01)

当該年度は、裁量労働制を経営学的に研究するための基礎づくりとして、文献研究と実証研究を行い、その実態把握及び労働の人間化研究の中での裁量労働制の位置づけの明確化に努めた。文献研究では、国内外の労働の人間化関連の文献のサーベイ及び裁量労働制導入企業の事例に関する文献、雑誌、新聞記事等を精力的に収集、分析した。実証研究では裁量労働制を導入している企業6社に対するインタビュー調査及びアンケート調査を承諾して下さった企業への質問票調査を行い、裁量労働制の実態について定性的データ、定量的データの蓄積を行った。その結果、裁量労働制は仕事を離れた生活の確立を容易にする可能性が高いこと、成果と評価が結びつきモチベーションが高まること等、労働の人間化の視点からもホワイトカラーの新しい働き方として有効であることが確認された。しかし、実際にその制度のもとで働く労働者の勤務状況は、裁量労働制導入以前と比べてそれほど変化していないこともインタビュー調査等から確認された。しかし、それは裁量労働制の制度そのものに起因するのか、導入後それほど時間が経過していないためなのかは今後の更なる検討を要するものである。なお、阪神大震災の影響で質問票締切を3月末日に設定せざるを得なかったため、現時点では論文の形にまとめられた成果はまだない。質問票が返送され次第、可及的速やかに論文の形にまとめ公表する予定である。
著者
宋 相載
出版者
広島工業大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994 (Released:1994-04-01)

本研究では、見込生産と受注生産の両生産形態の下で、市場の多様化なニーズに迅速にかつ経済的に対処することを狙いとし、製品の形状、寸法、製造方法などの類似性に基づくグループ生産と労働者の希望労働時間を重視したフレキシブル労働時間制の下で、生産と販売の両部門の裁量労働制を導入し、労働の成果を評価し応分の報酬を与えることによって、企業の収益増大と労働者への高い報酬を実現する最適なインセンティブ設計問題について定式化し理論解析を行なった。企業の高収益性と労働者の満足度を同時達成させるインセンティブ機構の設計に当り、本研究ではプリンシパル・エイジェンシー理論を用いて、生産能力増大に励む生産部門での努力と潜在的な市場需要の開拓をに励む販売部門での需要量拡大努力の相乗効果が生みだす生産実績を労働者の努力水準に応じて成果配分ルールを最適に決める。詳細には、生産現場における完全情報を有する各セル内の労働者は、生産準備のための段取りやセル内の運搬時間の短縮、残業時間の設定、希望労働時間の延長などによる生産可能時間の増大に権限と裁量性を与え、生産量増大のために励む。また、販売部門の労働者は、独自の類似製品を専門的な製品知識や顧客情報に基づいて製品需要品の拡大に励む。その結果としてもたらされる成果は、生産量増大のために投入した努力水準と不確実的な環境要素によって事前に決められた最適な成果配分ルールに従って、企業と生産・販売部門の両労働者の三者に配分される。これによって、多様な価値観をもった優秀な人材は生産システムと融合化され、長期間安定した職場を与えることができると共に、企業は状況変化にフレキシブルかつ経済的に適応しつつ適正利益を確保できる競争優位を占める人間主体のフレキシブルな生産システムの枠組が解明された。
著者
森田 雅也
出版者
関西大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999 (Released:1999-04-01)

企画業務型裁量労働制がどのように認識されているかを数量的に把握するために、従業員規模100人以上企業の人事部長1,673名を対象に「企画業務型裁量労働制に関するアンケート調査」を2001年3月に行った(有効回答率14.9%)。その結果、次のような点が明らかになった。(1)企画業務型裁量労働制導入を考えている企業は少ない(79.9%が「導入を考えていない」)。(2)導入を考えている企業は「成果主義の徹底」や「従業員の自律性を高める」ことを導入目的としている。(3)多数の企業(70.8%)が事業所単位で設ける労使委員会は「煩雑」だと考え、それが「必要である」と考えているのは3割程度しかない。(4)3割強の企業が労基法38条によらない「裁量労働的勤務」を既に導入したり、導入の検討を行ったりしている。また、文献サーベイや聞き取り調査の結果もあわせて検討した結果、企画業務型裁量労働制が「ゆとりと時短」を創出するという本来の趣旨に沿った成果をあげているとは現時点では言い難い。裁量労働制が、その対象者に自律的な働き方を提供する可能性はきわめて高いが、そのためには次のような条件が満たされる必要がある。(1)個人の多様な働き方を認める組織風土の形成、(2)公正な評価能力をもつ管理者の存在、(3)対象者の、自分の働き方(キャリア形成)に対する意識向上、(4)経営者による導入目的の明確化(成果主義徹底だけのための手段として用いない)。これらの点を鑑みると、裁量労働制、特に企画業務型裁量労働制が労使双方にとって有益な人事労務管理施策として定着するためには、経営者も雇用者もかなりの意識変革をすることが、特にエンプロイヤビリティーに対する意識を高めることが求められる。そして、それにはさらにある程度の時間が必要であろうと考えられる。
著者
桑名 正隆
出版者
慶應義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999 (Released:1999-04-01)

全身性硬化症(強皮症)患者ではトポイソメラーゼI(トポI)やRNAポリメラーゼI/IIIなど生命活動に必須な酵素に対する自己抗体が産生される。これら自己抗体は強皮症の発症を誘導しないことから、その産生は強皮症の病態に関連する付随的な現象と理解されている。これまでの研究成果から、抗トポI抗体産生は正常のT細胞レパトワに存在するトポIを認識する自己反応性CD4^+T細胞の活性化により誘導されることが明らかにされている。これらトポI反応性CD4^+T細胞は生理的な環境では発現されない抗原ペプチド(crypticペプチド)を認識することから、強皮症患者のいずれかの部位でトポIのcrypticペプチドが発現されている可能性が高い。そこで、申請者はトポI由来のcrypticペプチドの発現部位として、強皮症の病態の中心である線維芽細胞を想定した。その点を検証するため、強皮症患者の病変/健常皮膚または健常人皮膚より採取した線維芽細胞におけるトポIの過剰発現や分子修飾の可能性について検討し、以下の結果が得られた。1.強皮症病変部位の線維芽細胞におけるトポIのmRNA発現量は、強皮症患者の健常皮膚や健常人皮膚の線維芽細胞に比べて2-8倍上昇していた。2.免疫ブロット法による検討では、強皮症、健常人線維芽細胞でトポIの蛋白分子量に差はなかった。3.免疫沈降法による解析の結果、強皮症病変部位の線維芽細胞ではトポI分子が複数の蛋白と複合体を形成していることが明らかとなった。これらのトポI結合蛋白のうち少なくとも2つは強皮症患者健常皮膚や健常人皮膚の線維芽細胞ではトポIとともに免疫沈降されなかった。以上の成績より、強皮症病変部位の線維芽細胞ではトポIの発現が亢進し、他の蛋白(転写因子など)と結合することで過剰な細胞間マトリックスの産生や自己抗体産生にかかわっている可能性が示された。
著者
稲垣 照美
出版者
茨城大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999 (Released:1999-04-01)

本研究は、日本の豊かな自然環境の象徴の一つであり、幻想的な光で古くから日本人の心を魅了している昆虫"ホタル"を取り上げ、その発光現象中に人に対してどのような癒し効果が含まれているのかについて実験的な検討を行ったものである。まず、平成11年度には、ホタルの発光現象を計測・解析する光計測処理システムを新たに構築し、関東エリアにおいてフィールド計測を開始した。平成12年度には、四国エリアにも広げてフィールド計測を継続しつつ、統計解析や画像処理などの工学的技法を応用してホタルの発光現象を解析・評価し、人の精神に安らぎを与える効果があると言われている1/fゆらぎを始めとする様々なゆらぎ現象について考察を進めた。また、各地で開催されているホタル鑑賞会などにおいても、感性工学に基づいた意見サンプルを充分に採取し、ホタルの発光現象が人の精神に及ぼす影響を評価した。その結果、ホタルの発光輝度変動・発光間隔変動・輝度差変動には、人の網膜が反応することの出来る中低周波数域において1/fゆらぎが存在することを初めて明らかにすることができた。これには、十分な癒し効果が期待できるものと考えられ、ホタルを活用したヒーリング機器や福祉機器への応用が十分に期待できることが予想された。また、ホタルの発光パターンが有する癒し効果については、感性工学的な立場からもその有効性を統計学的に確認することができた。したがって、本研究から得られた知見は、今後、ホタルを利用したヒーリング機器や福祉機器の開発を展開研究して行く上での基礎と成り得るものである。なお、一連の研究成果は、日本機械学会へ研究報告したばかりではなく、NHKテレビ・ラジオや日本工業新聞などのメディアなどにおいても報道された。