著者
加藤 邦夫 上原 孝雄 中村 和男 吉岡 松太郎
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
日本建築学会論文報告集 (ISSN:03871185)
巻号頁・発行日
no.289, pp.119-129, 1980-03-30
被引用文献数
12

以上の解析結果よりえられた知見を述べ, まとめとする。(1) 群集対向流動のすれ違い性状 対向流動の特徴は, 対向する群集のすれ違いに伴い, 各歩行者が対向者との接触を避けるように同方向者同士寄り合い, 帯状のグループとなって交互に層を形づくる現象である。このような群集の層化現象が円滑な流動を可能にするとみられる。グループの形成状況は, はじめ先頭者に同方向者が追従する形で楔状を呈することが多いが, 次第に引き伸ばされ層状に近づく。すれ違いのはげしい部分, および小さいグループ程層化の傾向が強い。(2) 群集中における歩行者間の相対位置 異方向者との間の相対位置の分布は, 半径が約2mの円状となる。密度が高くなると側方は接近して楕円状となるが, 進行方向には衝突を回避するよう常に2m位の間隔を保つ。同方向間では, 密度が上ると前者に追従しやすいように前方を縮め, またその密度条件下で自己の領域をなるべく確保しうるように同方向者が互い違いに並ぶ形になり, 相対位置の分布は円形に近づく。(3) 層化グループ占有領域 密度状態, および両方向流の構成比によって, グループの大きさに差ができるが, すれ違いのはげしい部分において方向別に層化された各グループの占有領域の幅員は, 一般に1〜1.5m程度のものが多く, これは同方向者が寄り合って1人ないし数人幅の層となり, すれ違い歩行するのに都合のよい幅員と考えられる。(4) 流動密度と流速, および流率の関係 今回観測された流動密度は, すれ違い時に一時的, 局所的に3.5人/m^2に達することもあったが, 全領域にわたって高い密度状態はえられず, 両方向含めて平均0.9人/m^2以下で自由歩行程度のものであった。この状況では構成比, およびその混り具合にかかわらず, 全域についての流動密度と流速, および流率との対応関係は, 一方向流動の場合と大きな相異は見られず, 両方向流動はかなり円滑に流れており, 層化現象が能率のよいすれ違いを可能にしていると考えることもできる。(5) 層化現象の指標 層化の現象を客観的に示す指標として, 異方向者混入度(エントロピ), および同方向者の位置と方向の分散度(エントロピ)は, 低密度状態, および両方向群集の勢力差が大きい場合を除けば, 層化をある程度表現しうるものと思われるが, さらにより高い密度状態で確かめる必要がある。(6) 群集間の干渉による進路決定特性 群集対向流動状況においては, 2次元空間上でその各部分における歩行者の進路方向は, その群集の本来の目的地方向を基本として, 前方の対向者の高密度部分, および対向者の領域とみられる部分と衝突することのないように回避し, 直前に同方向者がいればそれに追従する方向へ修正されることが明かになった。これらの性質によって, 層の形成や同方向者の層の結合現象などの解釈が可能となる。また, 進路決定にとって直前の対向者の影響が大きいことも明かとなったが, その作用形態に対する一定の傾向を把握するには至らなかった。