著者
杉本 貴樹 北出 貴嗣 野村 佳克
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.433-437, 2008-04-25 (Released:2008-05-14)
参考文献数
10
被引用文献数
2

下大静脈フィルター(IVCF)の肺血栓塞栓症(PTE)に対する予防効果とフィルターの合併症について検討した.過去 4 年間に静脈血栓塞栓症に対しIVCF留置を行った27例を対象とした.適応は,1;PTEを発症し再発により致死的となり得る例,2;深部静脈血栓症(DVT)の血栓浮遊例,3;DVTの原因病変に対する手術例,4;抗凝固・線溶療法不能な浮遊DVT例,とした.治療は,適応 1 の12例には,組織プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)によりPTEの改善を得た後,残存するDVTに対しIVCFを留置した.適応 2 の 6 例は,IVCF下に線溶療法,血栓摘除術を行った.適応 3 の 5 例は,IVCF下に原疾患(腹部腫瘍 3 例,多発骨折 2 例)の手術を行った.適応 4 の 4 例は,脳出血,悪性腫瘍例に対するIVCF留置であった.留置後の評価は胸・腹部X線,心・静脈エコー,CTにて定期的に行った.【結果】適応 1 の 2 例,適応 3 の 1 例で一時留置型IVCFに多量の血栓が認められた.フィルター転位のない 1 例では血栓溶解療法にて血栓が消失したが,転位のあった 2 例では血栓溶解がなく,手術的にIVCF摘出を行った.全体として平均追跡期間22カ月で,この 3 例を含めPTEの発症,再発を認めず,永久留置型IVCFではフィルターに起因する合併症を認めなかった.【結論】IVCFはPTE予防のため有用であった.一方,一時留置型はその柔軟性のため転位によりフィルター内血栓形成の原因となることもあり,注意深い観察を要する.