著者
北原敦著
出版者
岩波書店
巻号頁・発行日
2002
著者
北原 敦
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

近代シチリアの社会と文化を考えるにあたって、まずシチリアの大土地所有地帯の社会のあり方ということを問題に取り上げた。シチリアにおいては大土所有制が何世紀にもわたって持続しており、この事実からシチリアを変化のない動かざる社会だとするイメージが行き渡り、近代社会のなかでの遅れた地域ないし周縁の地域として位置付けられることが多い。しかし、大土地所有制の存続からただちにこのような判断を下すことはできないのであって、大土地所有の持続の意味とその性格の変化を歴史的に検討することが必要なのであり、そうした検討を通じて近代シチリアの社会と文化の具体的な理解がはじめて可能となるのである。こうした観点に基づいて、研究全体としては19世紀末のシチリア・ファッシの運動を具体的な手がかりとして課題の解明に努めた。また近代シチリアの社会と文化を考えるにあたっては、マフィア現象をどう捉えたらいいかという問題がある。シチリアの一部の政治家および知識人の間に、マフィアを犯罪組織としてよりは、シリチアのサブカルチャーとして意味づけようとする動きが根強く存在し、それがシチリア主義といわれるものと結びついて、シチリアの社会と文化の特殊性を強調する立場が生じており、そうした立場からシチリアについての一定のイメージが意図的に生み出されていることの分析も試みた。