著者
北啓 一朗
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.177-183, 2007-03-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
12

Evidence based medicine(EBM)は疫学的データ(エビデンス)を重視する医療である.現在,心身相関の考えを支持するエビデンスが多く報告されている.また,EBMには対話を促進し認知の変容を促すという特徴があり,心身医療の実践にとって有用である.Narrative based medicine(NBM)では,患者の主観的世界が重視される.患者の主観的健康感の重要性は,疾病予後に強く相関するという観点から疫学的データも支持している.また,NBMは「心身相関」などの心身医学の考えも『それもまたひとつの物語』とみなす,相対主義的な広い世界観である.心身医療は心身症という「体でしか語れない人々」の語られざる語りを聴く医療であり,その実践にはNBMの多様なものを認め合う世界観が有用である.EBM,NBMの実践は,日常の心身医療をより豊かなものにする.総合診療の現場は心身症も含めたさまざまな患者が訪れることから,EBM,NBMを意識した心身医療を実践するに適したフィールドと思われる.今後,心身医学と総合診療医学との交流が望まれる.