著者
小松 俊文 北村 健治
出版者
日本古生物学会
雑誌
化石 (ISSN:00229202)
巻号頁・発行日
no.72, pp.48-50, 2002-09-20

「あった〜, アンモナイトだ〜」子供達の声が急峻なアルプスの斜面に木霊する.「戸台の化石」学習会も昨年で46回目を重ねた.「南アルプス戸台」.年配のアルピニストにとっては馴染みの地名である.標高1000m.原生林と高山植物, 静かな谷合に響く渓流の調は谷間の孤島を思わせる.しかし, 「戸台」を知る者は, なにもアルピニストばかりではない.動物, 植物, 昆虫学者や地質学者, 特に化石愛好家にとっては馴染み深い地名である.この地域には, 一億年以上昔の白亜紀の地層(戸台層)があり, 中生代を代表する二枚貝化石の"三角貝"やアンモナイトの産地がある(佐藤, 1919;江原, 1931;前田ほか, 1965;北村ほか, 1979;田代ほか1983, 1986;小畠, 1987;図1-3).戸台の"三角貝"の研究は古く, 信州の鉱物や化石の採集家として有名な保科(五無齋)百助が明治30年ごろに"三角貝"化石を初めて採集し, 明治32(1899)年に脇水鉄五郎が, この標本を日本で2番目の"三角貝"化石の産出記録として地質学雑誌に報告した(脇水, 1899).その後, 北村健治(現明星高校教諭)によって, 多くのアンモナイトや二枚貝, ウニ, ウミユリ, サンゴなどの化石が発見され, 最近では南アルプスの化石産地として良く知られるようになった(北村, 1966, 1978, 1987, 1992).