著者
千葉 夕佳
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.75-90, 2020-04-23 (Released:2020-05-16)
参考文献数
51
被引用文献数
2 2

小笠原諸島に生息するノスリの1亜種であるオガサワラノスリButeo buteo toyoshimaiは,極めて個体数が少なく,絶滅危惧種に指定されている.近年,オガサワラノスリは外来クマネズミRattus rattusに餌を依存している.このため,在来生物相の保全を目的とした外来ネズミ駆除は,オガサワラノスリに餌不足をもたらすかもしれない.本研究は,外来ネズミ駆除後の代替餌資源となりうる在来海鳥類を取り上げ,被食海鳥の種類,繁殖ステージ,捕食方法を明らかにすることを目的とした.父島列島の南島において,海鳥の被食痕を探索し,オガサワラノスリによる海鳥捕食行動を観察した.発見した86の食痕のうち,66がオナガミズナギドリPuffinus pacificus,16がアナドリBulweria bulweriiで,両種が全体の95.3%を占めた.オナガミズナギドリ成鳥の被食痕は4–6月,アナドリ成鳥は6,7月,アナドリ幼鳥は9,10月,オナガミズナギドリ幼鳥は9–1月に発見され,産卵から抱雛期の両種の成鳥と,ある程度成長した巣内雛が捕食されることが明らかになった.カツオドリSula leucogasterは,通常の捕食対象とは考えにくかった.オガサワラノスリは,海鳥の営巣地上を飛翔もしくは歩いて探餌し,発見したアナドリを岩陰から脚で引き出した.オガサワラノスリは,オナガミズナギドリを自身の巣から遠い場所で捕えても巣までの運搬が困難であるかもしれず,アナドリは営巣開始時期が遅いために巣内雛の餌資源になりにくいかもしれない.海鳥類がネズミ駆除後の代替餌として十分機能するには,オナガミズナギドリとアナドリの営巣地の拡大と,両種の不在を補う繁殖期の異なる小型海鳥の増殖が必要である.