著者
川上 和人 江田 真毅
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.7-23, 2018 (Released:2018-05-11)
参考文献数
158

鳥類の起源を巡る論争は,シソチョウArchaeopteryxの発見以来長期にわたって続けられてきている.鳥類は現生動物ではワニ目に最も近縁であることは古くから認められてきていたが,その直接の祖先としては翼竜類やワニ目,槽歯類,鳥盤類恐竜,獣脚類恐竜など様々な分類群が提案されてきている.獣脚類恐竜は叉骨,掌骨や肩,後肢の骨学的特徴,気嚢など鳥と多くの特徴を共有しており,鳥類に最も近縁と考えられてきている.最近では羽毛恐竜の発見や化石に含まれるアミノ酸配列の分子生物学的な系統解析の結果,発生学的に証明された指骨の相同性,などの証拠もそろい,鳥類の起源は獣脚類のコエルロサウルス類のマニラプトル類に起源を持つと考えることについて一定の合意に至っている.一般に恐竜は白亜紀末に絶滅したと言われてきているが,鳥類は系統学的には恐竜の一部であり,古生物学の世界では恐竜は絶滅していないという考え方が主流となってきている.このため最近では,鳥類は鳥類型恐竜,鳥類以外の従来の恐竜は非鳥類型恐竜と呼ばれる. 羽毛恐竜の発見は,最近の古生物学の中でも特に注目されている話題の一つである.マニラプトル類を含むコエルロサウルス類では,正羽を持つ無飛翔性羽毛恐竜が多数発見されており,鳥類との系統関係を補強する証拠の一つとなっている.また,フィラメント状の原羽毛は鳥類の直接の祖先とは異なる系統の鳥盤類恐竜からも見つかっており,最近では多くの恐竜が羽毛を持っていた可能性が指摘されている.また,オルニトミモサウルス類のオルニトミムスOrnithomimus edmontonicusは無飛翔性だが翼を持っていたことが示されている.二足歩行,気嚢,叉骨,羽毛,翼などは飛行と強い関係のある現生鳥類の特徴だが,これらは祖先的な無飛翔性の恐竜が飛翔と無関係に獲得していた前適応的な形質であると言える.これに対して,竜骨突起が発達した胸骨や尾端骨で形成された尾,歯のない嘴などは,鳥類が飛翔性とともに獲得してきた特徴である. 鳥類と恐竜の関係が明らかになることで,現生鳥類の研究から得られた成果が恐竜研究に活用され,また恐竜研究による成果が現生鳥類の理解に貢献してきた.今後,鳥類学と恐竜学が協働することにより,両者の研究がさらに発展することが期待される.
著者
岩見 恭子 小林 さやか 柴田 康行 山崎 剛史 尾崎 清明
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.63-69, 2015 (Released:2015-04-28)
参考文献数
19

福島第一原子力発電所の事故によって放出された放射性物質による鳥類の巣の汚染状況を把握するため,2011年に繁殖したツバメの巣を日本全国から採集し,巣材に含まれる放射性セシウム(Cs-134およびCs137)を測定した.全国21都道府県から集められた197巣のうち182巣について測定した結果,1都12県の巣から福島第一原子力発電所由来の放射性セシウムが検出された.福島県内のすべての巣から放射性セシウムが検出され,Cs-134とCs-137の合計の濃度が最も高いものでは90,000 Bq/kgで低いものでは33 Bq/kgであった.巣の放射性セシウム濃度は土壌中の放射性セシウム濃度が高い地域ほど高かったが,地域内で巣のセシウム濃度にはばらつきがみられた.
著者
青山 怜史 須藤 翼 柿崎 洸佑 三上 修
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.11-18, 2017
被引用文献数
1

ハシボソガラス<i>Corvus corone</i>がクルミ(オニグルミ<i>Juglans mandshurica</i>の種子)を高い位置から投下して割って食べていることはよく知られている.ハシボソガラスが効率よくクルミを割るためには,どのくらいの重さのクルミをどれくらいの高さから何回落とすかが重要となる.そこで本研究では,ハシボソガラスのクルミ割り行動の基礎情報としてクルミの性質について理解することを目的とし,以下の3つを明らかにする実験を行った.(1)クルミはどの程度の高さから何回落とすことで割れるのか.(2)クルミの重さによって割れやすさに違いはあるのか.(3)クルミの外見の大きさ(殻の直径)およびクルミ(殻+子葉)の重さと,内部の子葉の重さに関係はあるのか.さらに簡易的に(4)ハシボソガラスは,重いクルミを選択するのかについても実験を行った.その結果,(1)落とす高さが高いほどクルミは割れやすい,(2)重さによって割れる確率に違いは見られないが,重いクルミは殻が欠けて割れ,軽いクルミは縫合線で割れる傾向がある,(3)重いあるいは大きなクルミほど可食部も重い,(4)ハシボソガラスは重いあるいは大きなクルミを選択的に持っていく,ことが明らかになった.
著者
田中 康平 Darla K. Zelenitsky François Therrien 小林 快次
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.25-40, 2018 (Released:2018-05-11)
参考文献数
160

主竜類(ワニ類,翼竜類,そして鳥類を含む恐竜類など)は,非常に多様で成功した陸上脊椎動物である.絶滅種(例,非鳥類型恐竜類)及び現生種(ワニ類及び鳥類)の営巣方法や営巣行動を理解することは,主竜類の進化や多様性を検討する上で重要である.しかしながら,恐竜類の営巣方法や営巣行動は,多くの場合,化石記録から直接観察できないため,かれらの営巣様式(巣の構造,抱卵行動,孵化日数など)は,卵・巣・胚化石から得られる特徴(クラッチサイズ,卵重,卵殻間隙率,胚の形態的特徴など)を用いて推定・復元される.非鳥類型恐竜類の巣や営巣行動は多様だったと考えられ,恐竜類を含め主竜類におけるこれらの形質の進化が議論できる.
著者
仁平 義明
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.21-35, 1995-04-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
21
被引用文献数
5 8

1) ハシボソガラスが自動車をクルミ割りに利用する行動について長期的な観察を行なった2) 信号待ちで停車した自動車の車輪の前にクルミを置き,車がひいたクルミを摂食する事例が頻繁に観察された.このことは,車利用行動が偶然なものではなく意図的な行動であることを疑問の余地がな示していた3) 自動車利用によるクルミ割り行動は,多くの変数(クルミの調達法,クルミの特性,クルミのセッティング方法,時刻,場所,他の個体の存在,待ち行動打ち切りの臨界時間,置き直し行動,食行動)から構成されるバリエーションの多い行動であることが確認された4) 自動車利用行動は,上空から投下する方法では割れないクルミを処理するたあの新たな手段として生まれたものであると考えられた
著者
Audrey STERNALSKI 松井 晋 Jean-Marc BONZOM 笠原 里恵 Karine BEAUGELIN-SEILLER 上田 恵介 渡辺 守 Christelle ADAM-GUILLERMIN
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.161-168, 2015 (Released:2015-12-13)
参考文献数
23
被引用文献数
1

福島第一原発事故から1年が経過した2012年に福島県内で採集したスズメ目鳥類3種(ヤマガラ,スズメ,カワラヒワ)の成鳥と,シジュウカラの未孵化卵および巣材で測定した放射性セシウム(134Cs および137Cs)濃度から,内部および外部被曝線量率と,それらの合計被曝線量率を推定した.外部被曝線量率が合計被曝線量率に寄与する程度は,生息地の微細環境(例:地表,空中および樹上,巣内)の汚染の程度と,生活史段階(成鳥もしくは卵の各段階)に応じた各微細環境での活動時間の影響を受け変化した.すなわち,シジュウカラの未孵化卵の外部被曝線量率は内部被曝線量率よりも高く,主に巣材の汚染に由来していた.シジュウカラの主な巣材は多量の放射性核種を保持することが知られているコケ類で,外部被曝線量と内部被曝線量率の差は1,000倍以上に及んでいた.さらにシジュウカラの未孵化卵で推定された合計被曝線量率は,野外で測定した空間線量率をはるかに上回っていた.これらの結果は,野生動物に対する放射線被曝の影響を評価するためには,詳細な線量分析を実施することと共に,慎重に対象種の生活史を考慮することで,個体に対する生物学的影響のより適切な評価に繋がるだろう.
著者
江田 真毅 樋口 広芳
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.263-272, 2012 (Released:2012-11-07)
参考文献数
41
被引用文献数
3 3

アホウドリPhoebastria albatrusは北太平洋西部の2つの島嶼域で繁殖する危急種の海鳥である.2006~2007年度の繁殖期の個体数は約2,360羽で,約80%の個体が伊豆諸島の鳥島で,残りの約20%が尖閣諸島の南小島と北小島で繁殖する.本種は暗黙のうちに1つの保全・管理ユニットとみなされており,国際的な保護管理プロジェクトでもその集団構造には関心が払われてこなかった.しかし,これまでの研究から,約1,000年前のアホウドリに遺伝的に大きく離れた2つの集団があったことが明らかになった.19世紀後半以降の繁殖地での乱獲によって個体数と繁殖地数が大きく減少した一方,2つの集団の子孫はそれぞれ主に鳥島と尖閣諸島で繁殖していることが示唆された.現在鳥島では両集団に由来する個体が同所的に繁殖しているものの,鳥島で両集団が交雑しているのかはよくわかっていない.鳥島と尖閣諸島に生息する個体群はミトコンドリアDNAのハプロタイプ頻度が明らかに異なっていることから,それぞれの個体群は異なる管理の単位(MU)とみなしうる.尖閣諸島から鳥島への分散傾向は繁殖地での過狩猟によって強まった可能性も考えられるため,それぞれのMUの独自性の保持を念頭に置いた保護・管理が望まれる.アホウドリの2つのクレード間の遺伝的距離はアホウドリ科の姉妹種間より大きく,また断片的ながら鳥島と尖閣諸島に由来する個体では形態上・生態上の違いが指摘されている.今後,尖閣諸島と鳥島で繁殖する個体の生態や行動の詳細な比較観察と遺伝的解析から,この種の分類を再検討する必要がある.
著者
鎌田 直樹 遠藤 沙綾香 杉田 昭栄
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.84-90, 2012 (Released:2012-04-27)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

ハシブトガラスCorvus macrorhynchosとハシボソガラスC. coroneの最大咬合力と最大咬合圧について圧力測定フィルムを用いて測定し,体重や顎筋質量との関係を調べた.ハシブトガラスの顎筋質量,最大咬合力および最大咬合圧はハシボソガラスのそれに比べ有意に大きく,これらの値が体重に正の相関をすることが明らかになった.また,閉口筋質量1単位あたりの最大咬合力はハシブトガラスよりもハシボソガラスの方が大きいことがわかった.
著者
松岡 茂
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.19-28, 1994-07-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
12
被引用文献数
1

地上で採食しているヒヨドリに人間が接近して行って,ヒヨドリの群れが飛び立ったときの,人間とヒヨドリの群れとの距離(飛び立ち距離:FLD)と群れサイズ(SIZE)との関係を野外で調査した.ヒヨドリの群れサイズが大きくなるにつれ,飛び立ち距離が大きくなった.回帰式は,FLD=6.9×ln(SIZE)+26.1であった.ヒヨドリの群れサイズの増加に伴い,群れの広がり(RD)も増加した.回帰式は,RD=1.3×ln(SIZE)-1.1であった.しかし,飛び立ち距離の増加は,群れの広がりの増加だけでは説明できなかった.1羽のヒヨドリの飛び立ち距離の分布をもとに,もっとも神経質な個体の飛び立ち距離が群れの飛び立ち距離を決定するという仮定で,シミュレーションを行なったところ,回帰式SFLD=3.6×ln(SIZE)+28.2を得た.これは,実際のヒヨドリの飛び立ち距離の回帰式の傾きとは有意に異なっていた.実際の群れの飛び立ち距離とシミュレーションの結果との違いを神経質な個体の行動から考察を行なった,その結果,神経質な個体は,単独あるいは小数羽の群れに出現する頻度が低いという予想を得た.
著者
亘 悠哉
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.263-272, 2019-10-25 (Released:2019-11-13)
参考文献数
40

近年世界各地で外来種の根絶事例が報告され始め,根絶が対策の目標の現実的な選択肢となってきた.このような先行事例で得られた知見を他の事業にフィードバックさせることができれば,外来種対策の全体の水準を上げることができるであろう.本総説では,根絶までの最終フェーズに到達している奄美大島のマングース対策の概要について紹介し,事業の過程で得られた知見について整理した.それらの知見に基づき,まず外来種対策を5つのフェーズに分割して外来種対策のロードマップの一般化を試みた.そして,フェーズごとに刻々と変化する外来種個体群の状況に応じて,対策の考え方や戦術を変化させる必要性を示した.次に,フェーズを突破するブレイクスルーを促進させる対策のガバナンスのあり方として,次々生じる問題の認識とそれに対応した対策が促進されるサイクルの重要性を示した.そして,この実現のためにも,関係者が主体的に参画する連携体制が必要であることを示した.最後に,外来種対策を進める際の実用的なチェックリストをフェーズごとに作成した.本総説で提示したロードマップとチェックリストが,各地で行われている外来種対策の考え方や方向性を検討する際のガイドラインとして活用されることが期待される.
著者
山口 恭弘 吉田 保志子
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-6, 2006 (Released:2007-07-06)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

近年, 農作業の省力化のために, 水稲の直播栽培が各地で行われているが, 播種期の鳥害が問題となっている. 入水前の田にモミを播く乾田直播ではキジバトStreptopelia orientalisが播種後に集団でモミを採餌するために, 地域によっては大きな被害を出している. そこで本研究では野外大網室内の実験水田において, 大麦を用いた代替餌場を設置することにより, キジバトの水稲への被害を軽減できるかどうかを実験した. 実験は代替餌設置区と非設置区とを設け, キジバトの導入時期は前期 (播種直後から出芽揃い) と後期 (出芽揃い以降に前期と同じ期間) に分けた, 代替餌の有無と導入時期の組み合わせの2×2の4処理を1セットとし, 2000年5月1日から9月12日にかけて5セット繰り返した. 苗立ち数を処理区とキジバトが入れないようにしたエクスクロージャーとの間で比較したところ, 前期では代替餌設置区で有意差がなく, 代替餌非設置区で有意に少なかった. 一方, 後期の苗立ち数は代替餌のあるなしに関わらず, エクスクロージャーとの間に有意差はなく, 出芽揃い以降には被害が生じないことが示された. これらのことより被害の時期は播種から出芽揃いの時期であること, 代替餌の設置により被害が軽減されることが明らかとなった.
著者
中村 眞樹子 竹中 万紀子
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.243-249, 2015 (Released:2015-12-13)
参考文献数
20
被引用文献数
1

数年~10年以上にわたり詳細で慎重な継続観察ができ,かつ長年変化しない特徴を明確に識別できた場合に限り,ハシボソガラスでは標識にたよらない身体的特徴などによる個体識別法は有効であることが示唆された.この方法による個体識別が正しいとすると,札幌で繁殖するハシボソガラスの中には一時的な1夫2妻が形成されることがあり,これらのトリオ形成は,必ず第1♀が数年間続けて繁殖に失敗したあとに起こった.第2♀の由来は,2例で近隣のテリトリーから移動してきた若い♀であり,1例の♀の由来は不明であった.2例で第1♀が消失または死亡してから第2♀が「本妻に昇格」した.これらのつがい関係で興味深いのは第1♀の繁殖力が低下または消失してもつがい関係を一定期間維持し続けることである.本調査の観察は,テリトリー内につがい以外の個体が許容されても必ずしもヘルパーではないこと示すものである.
著者
屋地 康平 松木 吏弓 北村 亘 畔柳 俊幸 足立 和郞
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.45-51, 2013 (Released:2013-05-28)
参考文献数
23

電力設備の塩害対策として広く用いられているシリコーンオイルコンパウンドの塗布部分には,鳥類が原因と見られる著しい剥離の進行が散見され,保守現場で問題となっている.適切な鳥害対策を施すためには,鳥類種の特定が必要であることから,本研究では,シリコーンオイルコンパウンドと思われる人工物質を内容したペリットを採取し,DNA分析による種の特定,およびIR分析による内容物同定を行った.その結果,ペリットの吐出主がハシブトガラスであること,およびペリット試料に含まれる人工物が,設備のシリコーンオイルコンパウンドと同一の成分であることを突き止め,シリコーンオイルコンパウンド塗布部分への被害が,ハシブトガラスによってもたらされたことを示す一例を突き止めた.また,カラスの行うシリコーン化合物の採食行動が,従来考えられていた人工物からの脂質摂取とは異なる目的でなされた行動である可能性を指摘した.
著者
中村 浩志
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.93-114, 2007-11-01 (Released:2007-11-17)
参考文献数
62
被引用文献数
8 12

このモノグラフは,日本に生息するライチョウLagopus mutus japonicusに関するこれまでの研究からわかっていることを整理し,今後の課題について検討を加えることを目的としたものである.日本に生息するライチョウの数は,20年以上前に実施された調査から3,000羽ほどであることを示し,分布の中心から外れた孤立山塊から絶滅が起きていることを示唆した.日本の高山帯には,ハイマツが広く存在するのが特徴であり,ライチョウの生息に重要であることを示唆した.ライチョウの食性に関する知見を整理し,今後は各山岳による餌内容の違い,また食性の量的な把握が必要たされることを指摘した.高山における年間を通しての生活の実態について,これまでの知見を整理し,まためた.春先の4月から秋の終わりの11月にかけてのライチョウの体重変化を示し,ライチョウの高山での生活との関連について論じた.ミトコンドリアDNAを用いた多型解析から,近隣の亜種との関係および大陸から日本に移り棲んで以降の日本における山岳による集団の隔離と分化に関する知見をまとめた.ライチョウを取り巻くさまざまな問題点について,最近の個体数の減少,ニホンジカ,ニホンザルといった低山の野生動物の高山帯への侵入と植生の破壊,オコジョや大形猛禽類といった古くからの捕食者の他に,最近では低山から高山に侵入したキツネ,テン,カラス類,チョウゲンボウといった捕食者の増加がライチョウを脅かしている可能性,地球温暖化問題等があることを指摘した.20年以上前のライチョウのなわばりの垂直分布から,温暖化の影響を検討し,年平均気温が3°C上昇した場合には,日本のライチョウが絶滅する可能性が高いことを指摘した.これまでの低地飼育の試みを評価し,野生個体群がまだある程度存在する今の段階から,人工飼育による増殖技術を確立し,増えた個体を山に放鳥する技術を確立しておくことの必要性を指摘した.
著者
川上 和人
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.237-262, 2019-10-25 (Released:2019-11-13)
参考文献数
149
被引用文献数
1

小笠原諸島は太平洋の北西部に位置する亜熱帯の海洋島である.小笠原の生態系は現在進行中の進化の過程を保存するとともに高い固有種率を示しており,2011年にユネスコの世界自然遺産に登録された.しかし,1830年から始まった近代の入植により,森林伐採や侵略的外来種の移入などが生じ,在来生物相は大きな影響を受けている.小笠原では2種の外来種を含む20種の陸鳥と21種の海鳥の繁殖が記録されている.このうち7種の固有種・亜種が絶滅し,5種の繁殖集団が諸島から消滅している.絶滅の原因は,主に生息地の消失,乱獲,侵略的外来種の影響と考えられるが,特に外来哺乳類の影響が大きいと考えられる.小笠原諸島にはこれまでに10種の外来哺乳類が野生化しているが,このうちヤギ,イエネコ,クマネズミ,ドブネズミ,ハツカネズミが現存し,その生態系への影響の大きさから駆除事業が行われている.ヤギは旺盛な植食者であり,移入先ではしばしば森林の草原化,裸地化を促し,土壌流出を生じさせる.小笠原諸島では特に聟島列島でその影響が大きい.また,ヤギが歩き回ることで海鳥の営巣が撹乱される.ヤギは過去に20島に移入されたが,父島以外の島では根絶されており,海鳥の分布拡大が見られる.鳥類の捕食者となるネコは8島に移入され,現在は有人島4島に生残する.父島では山域のネコの排除が進み,アカガシラカラスバトColumba janthina nitensが増加している.ネズミは小笠原諸島のほとんどの島に侵入しており,無人島では駆除事業が進められている.根絶に成功した島では鳥類相の回復も見られるが,再侵入や残存個体の増加が生じている島も多い.外来哺乳類の駆除後には,想定外の生態系の変化も見られている.ヤギ根絶後には抑制されていた外来植物の増加が生じている.ネコ排除後にはネズミが増加している可能性がある.ネズミの駆除後は,これを食物としていたノスリButeo buteo toyoshimaiの繁殖成功の低下が見られている.複数の外来種が定着している生態系では,特定の外来種を排除することは必ずしも在来生態系の回復につながらない.このような影響を緩和するためには,種間相互作用を把握し外来種排除が他種に及ぼす影響を予測しなければ,保全のための事業がかえって生態系保全上の障害になりかねない.このため,外来種駆除を行う場合は複数のシナリオを想定し,生態系変化モニタリングに基づいて次のシナリオを選択し順応的に対処を進めていく必要がある.
著者
岡久 雄二 岡久 佳奈 小田谷 嘉弥
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.307-315, 2019-10-25 (Released:2019-11-13)
参考文献数
39

ヤマシギScolopax rusticolaは日本国内では本州から南西諸島にかけての地域で越冬する夜行性の狩猟鳥である.生息状況に関する情報が乏しいことが個体群保護管理上の課題となっており,モニタリング手法開発が求められている.これまでに,環境省によりライトセンサスを用いた越冬期の生息状況確認手法がマニュアル化されているものの,ライトセンサスによって得られる在データのみを用いた分布や個体数推定手法は検討されていない.そこで,我々は冬期の佐渡島において夜間にライトセンサス法を行ない,ヤマシギの越冬分布を調査し,観察位置の在データをもとにMaximum Entropy Modelを用いてヤマシギの環境選択性と分布を推定した.モデルより,佐渡島の36.8(25.12–43.14)km2に79(54–92)個体が生息していると推定された.ヤマシギは水田面積が広く,気温の高い平野部に生息しており,既存の報告と異なり,耕作している水田が主な採餌環境となっていた.佐渡島ではトキNipponia nipponをシンボルとした環境保全型農業によって餌生物量が増加している事が知られるため,ヤマシギの採餌環境としても水田が高質化していることが示唆される.本研究で示したライトセンサスとMaximum Entropy Modelの組み合わせによって,全国のヤマシギの分布状況をモニタリングし,休猟区や鳥獣保護区の計画によってヤマシギの保護管理を行なうことが必要であろう.
著者
富田 直樹 仲村 昇 岩見 恭子 尾崎 清明
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.143-152, 2013 (Released:2013-11-21)
参考文献数
32

2011年10月から2012年3月までに日本全国14県17ヶ所において,渡り・越冬中のオオジュリンで,尾羽の形成不全(以下,尾羽異常とする)の個体が頻繁に観察された(5,541個体中767個体,13.8%).尾羽異常個体は,ほとんど幼鳥であった(97.3%).尾羽異常の形態は,以下の3型のいずれかに明確に分類された;虫食い状欠損型(45.9%,約1 mmの穴が数ヶ所開いている状態や,羽枝が途中で溶けたようになり,その先が欠損している状態),成長異常型(14.5%,伸長か不全の2種類で,正常羽と比較して,伸長で5.0±3.0 mm(平均±標準偏差)長く,不全で5.8±3.1 mm短かった),及びこれらが同時に観察される複合型(39.6%).虫食い状欠損型は尾羽中央3対に,成長異常型は中央2対に高頻度で観察された.その他ホオジロ科鳥類3種,ホオジロE. cioides(91個体中4個体,4.4%),カシラダカE. rustica(229個体中3個体,1.3%),及びアオジE. spodocephala(1,066個体中16個体,1.5%)でも同様の異常が少数例観察された.