著者
土屋 善和 千葉 眞智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

<b>1.研究の背景及び本研究の目的</b><br> 現在の日本は、高齢化率27.3%と、約4人に1人が高齢者という超高齢社会をむかえている。そうした時代の中、中学校の新学習指導要領解説家庭編(2017)には、「A家族・家庭生活(3)家族・家庭や地域との関わり」の中で、「高齢者との関わり方について理解すること」、また内容の取扱いでは「高齢者の身体の特徴について触れること」と明記された。つまり、現行学習導要領では高校段階の学習内容であった高齢者について学ぶことが、学習指導要領の改訂に伴い中学校段階にも位置づけられたことで、系統性を持たせてより深く学ぶ必要があることが読みとれる。<br> そこで、高齢社会に関する内容の深い学びを促すために、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた授業が望ましいと考えた。アクティブ・ラーニングは主体的・協働的・対話的な学びであるため、学習者にとって身近に感じることが困難である高齢者及び高齢社会について深く学ぶ上で、有効な手立てと考えられたからである。<br> 以上を踏まえ、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた高齢社会を題材とした授業を考案し実践した。そして、今後の家庭科における高齢社会の学習の充実に向けた、深い学びにつながる新たな授業提案が、本研究の目的である。<br><b>2.研究方法</b><br> 神奈川県内の私立中高一貫女子校に通う高校2年生を対象に、2時間構成の授業を行った。実施時期は、2018年2月中旬である。本実践では、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた学習として、「知識構成型ジグソー法」及び「KP法」を取り入れた。そして、授業の効果を把握するために、「高齢社会を生きる上で,私たちは何をすべきでしょうか」という問いに対する学習前後の生徒の記述を分析・考察した。<br><b>3.授業概要</b><br>(1)知識構成型ジグソー法(1時間目)<br> 高齢社会及び高齢者に対する基礎的な理解を促すために、知識構成型ジグソー法を取り入れた。メインの問いは「高齢者はどのような暮らしを望んでいるだろうか」と設定し、問いに迫るために4種類のエキスパート資料を用意した。なお、エキスパート資料のテーマは以下に示す。<br>・エキスパート資料A:日本の高齢化の動向…高齢化率など<br>・エキスパート資料B:高齢者の暮らし…高齢者の世帯構成など<br>・エキスパート資料C:高齢者の身体的特徴…バリアフリーなど<br>・エキスパート資料D:活躍する高齢者…高齢者インタビューなど<br>(2)KP法(1時間目)<br> メインの問いに対する答えについて生徒同士が協働で考えるために、KP法を取り入れた。KP法(紙芝居プレゼンテーション)は、グループの意見を端的に用紙にまとめ、紙芝居形式で発表をする手段であり、グループの思考整理のツールとしての機能を持つ。本実践ではメインの問いに対する答えをグループで考え、A4用紙4~6枚にまとめ、3分程度で発表をするという方法をとった。<br><b>4.結果および考察</b><br>(1)発表内容の分析<br> 発表内容をみると、それぞれのエキスパート資料に記載されている用語が用いられており、ジグソー学習で得た知識や意見を取り入れて考えている様子がみられた。それだけではなく、若者と高齢者の共生や地域とのつながりなどエキスパート資料を統合した考えも表出されていた。さらに、高齢社会を生きる上で必要なことや課題・問題に対する解決方法にまで思考を巡らしていたこともうかがえた。<br>(2)生徒の記述の分析<br> 学習後の記述における抽出語をみると、「関わる(関わり)」、「コミュニケーション」、「交流」といった語が学習前に比べて頻出しており、人(地域の人、家族、若者と高齢者)との関わりに着目した意見が挙げられるようになった。また、「地域」、「身近」、「近所」といった単語も頻出するようになり、生徒が自身の身の回りの生活にも目を向けるようになったことがうかがえる。生徒が学習内で得た知識や意見を取り入れ、新たな考えを創出しており、本実践で取り入れたアクティブ・ラーニングが、生徒の深い学びにつながったものと推察される。