著者
半田 滋男
出版者
和光大学表現学部
雑誌
表現学部紀要 = The bulletin of the Faculty of Representational Studies (ISSN:13463470)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.120-130, 2013-03-11

1970年代から90年代にかけての公立美術館建設ブームは、視覚芸術受容者層の数的増加を促し、展覧会ブームをもたらした。現在国内に存在する美術館の80パーセント以上は70年代以降に建設され、新規に開館している。主に自治体による美術館新説ラッシュが愛好家層を増やし、視覚芸術の裾野を広げる役割を負ってきた。2000年代に至り、美術館はじめ公的文化施設をめぐる環境は激変した。行財政改革の下で公的施設の独立行政法人化、また地方では地方自治法第244条の2改正による指定管理者制度が導入され、文化に投下される公的予算が漸減している。予算を封じられた地方美術館の多くは四半世紀を経ずして早くも陳腐化、衰退への道をたどりつつある。一方その裏面では新たに「越後妻有アートトリエンナーレ」(2000-)、また瀬戸内海、横浜や愛知でのトリエンナーレに代表されるアート・イベントが隆盛を極める。日本の現代美術の主要な舞台は、こと公的(パブリック)な性格をもつものとしては、これらイベント型の野外展に移行したかのようである。現代の視覚芸術という溶質にとって場という溶媒が入れ替わったとすればそれは看過できない。これは一時的な現象なのか、その隆盛の原因はいまだ言及され難い。本論はその現象の意味について、美術館活動の推移に着目し比較しながら考察するものである。