著者
松村 美代 南部 裕之 安藤 彰
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

培養ブタ虹彩上皮細胞に1μMのprostamideとPGF2αを含む緩衝液を還流して連続的に作用させ、蛍光顕微鏡アクアコスモスを用いてカルシウムイメージングを行った。同一視野の中で反応する細胞をカウントして細胞内カルシウムの上昇度を計測したところ、ほとんど全ての細胞で反応が見られなかった。同様に隅角線維柱帯、毛様体の組織培養から得られた隅角線維柱帯細胞、毛様体上皮細胞におけるカルシウムイメージングを行ったが陽性反応は見られなかった。このことから1μMのprostamideとPGF2αではブタ培養虹彩上皮細胞、隅角線維柱帯細胞、毛様体上皮細胞において細胞内情報伝達のトリガーである細胞内カルシウム濃度を上昇させるような生理活性がない可能性が示唆された。同様の実験を当院眼科で緑内障に対する線維柱帯切除術を行う際に同意を得た患者から得られた線維柱帯細胞を用いて行い、ブタとヒトの種差の有無を検討した。結果はブタ線維柱帯細胞と同じく1μMのprostamideとPGF2αを作用させたところほとんど全ての細胞で反応が見られなかった。これらの結果から当該実験系ではブタ線維柱帯細胞とヒト線維柱帯細胞では種による差がないものと考えられた。同様に培養ヒト隅角線維柱帯細胞における各種プロスタグランジン誘導体に対する細胞内カルシウムの上昇は見られず、ブタおよびヒト隅角線維柱帯細胞に対してプロスタグランジンは少なくとも細胞内カルシウム濃度の上昇を引き金とした細胞内シグナル伝達を引き起こさない可能性が示された。今回の実験で用いた培養細胞はブタ、ヒトともに初代培養系であったため継代を重ねると細胞分裂の限界が訪れた。このように老化に陥った線維柱帯細胞について老化のマーカーであるテロメアの短縮とガラクトシダーゼ活性の変化を検討したところ培養線維柱帯細胞も細胞老化の特徴を示し、アクアポリン1などの遺伝子発現も変化することが明らかになった。この線維柱帯細胞の細胞老化の現象についてはBritish Journal of Ophthalmology誌に公表した。