著者
博田 節夫
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.163, 1985-03-10

リハビリテーション医学が紹介されて以来,リハビリテーションは治療法の一つであるとの誤解が医療スタッフの間にさえも存在する.わが国においては,リハビリテーションは機能訓練を意味するとの考えが支配的で,機能障害を治す手段として期待されて来た.ここでいう機能障害はimpairmentおよびdisabilityであるが,治療医学的立場からimpairmentのみを指していることも多く,第2次世界大戦以前の機能再建という考え方に逆行するものである.一方,作業療法および理学療法の専門書にリハビリテーチブ・アプローチという治療法が見られる.これはdisabilityに対するアプローチを意味している.このリハビリテーチブ・アプローチはdisabilityに注目するあまり治療法放棄につながるとの非難であり,これは警鐘として受け入れるとしても,リハビリテーションが作業療法あるいは理学療法の中の一治療手段であるという妄想にまで発展するに至っては,リハビリテーションという言葉に対しても嫌悪の念を抱かざるをえない. リハビリテーション医学の治療対象は,主として運動機能障害とそれによりもたらされる能力障害である.運動機能障害は神経系および末梢運動器系の異常を反映し,その治療手段として運動療法があり,能力障害に対しては広義のADL訓練がある.ADL訓練は能力障害に対する直接的アプローチであり,治療効果の判定は比較的容易といえる.運動療法は筋・腱,骨・関節に対しては直接的な治療手段であるが,神経系に対しては末梢運動器系を介した間接的治療法であるため,治療効果の判定は困難を窮める.そのため,中枢神経疾患においては適応を考慮することなく,有効性の不明な治療法を狂信する者が増加しつつある.