著者
二通 諭
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.40, no.10, pp.1365, 2012-10-10

「あなたはADHD系」,「彼はアスペ系」といったように,友人同士の他愛もない性質分類にも発達障害カテゴリーが用いられるようになってきた.そのような視座から,往年の映画の登場人物をみるならどのような解釈が成り立つだろうか.発達障害を有する人物は,映画の主人公になりやすい特異なキャラクターを有しているが,その頂点に立つ人物といえば,やはり「男はつらいよ」シリーズの寅さんこと車寅次郎(渥美清)である. 本人が語る自己像も「生まれついてのバカ」なら,おいちゃんの寅さん像も「生まれつきのバカ」であり,幼少期から発達や行動上の問題を有していたものと思われる.
著者
林 明人 大越 教夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.847-851, 2004-09-10

はじめに パーキンソン病の治療は薬物療法が中心であるが,現在使用されている抗パーキンソン病薬では病気の進行を抑えることはできない.罹病期間が長期になると,運動障害,特に歩行障害が強くなる場合が多く,リハビリテーションの果たす役割が重要と考えられる. 近年,パーキンソン病の歩行障害に対して音リズムを取り入れた音楽療法などのリハビリテーションに関わる研究がなされ,その有用性が注目されている1,2).また,音リズム刺激による機序として,パーキンソン病で障害される内的なリズム形成に対して,外的なリズムである音リズムにより刺激することで歩行リズムの形成が安定化する可能性が推察されている3,4).また,メトロノームのような,より明確な音リズム刺激のほうが,行進曲などの音楽よりも効果があることも報告されている2).しかし,これまでの報告は音リズムに歩行訓練を合わせた課題だけの結果のみであり,音リズム刺激のみの効果について調べた報告はない.したがって,パーキンソン病に対する音リズム刺激のみの効果を検討することはその機序を考察するうえでも試みられるべきと考えられる. 本研究では,歩行障害を有するパーキンソン病患者に対して,歩行訓練を行わないで,音リズム刺激のみによる効果の有無を調べ,その有用性を検討することを目的とした.また,パーキンソン病患者はしばしば抑うつなどの精神症状を伴うことがあり,歩行障害だけではなく,抑うつに対する効果についても検討を加えた.
著者
山田 晃司 橋本 竜作 幅寺 慎也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.677-681, 2020-07-10

要旨 【はじめに】皮質下性失語に伴う構音の障害は自発話で顕著に出現し,生活場面で意思疎通制限を生じる.今回,軽度の皮質下性失語症例に,伝えたい内容の要点となる単語を事前に書き出し,その後に発話する「メモ発話」という代償手法を導入し,その効果を検討した.【対象】71歳,右利き,男性.軽度の皮質下性失語を認め,音の歪みを中核とする構音の障害であった.【方法と結果】4コマ漫画の説明課題を用い,2条件(自発話とメモ発話)の実質語数と音の誤り,聴覚的印象評価について比較した.その結果,自発話に比べ,メモ発話で実質語の数が増え,音の誤りも有意に減少した.さらに聴覚的印象評価もメモ発話で有意に発話の違和感が少なかった.【結論】自発話に比して音読で構音が改善し,かつ自発書字がある程度可能な症例には「メモ発話」を導入することで,利用場面は限られるものの,コミュニケーションを改善できる可能性がある.
著者
上田 敏
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.73-77, 2022-01-10

この連載は本誌が50周年を迎えたのを契機に,本誌の過去半世紀にわたる足跡を振り返ってみようとするものである.その目的は,単なる回顧ではなく,本誌をある種の「鏡」として,それに映った日本と世界のリハビリテーションの「歩み」を振り返り,そのなかで「これから」の進むべき道を探ろうとする「古きを訪ねて新しきを知る」ことである.本誌の読者の中には,本誌発刊の頃には「まだ生まれてさえいなかった」という方も少なくないと思われるので,できるだけ時代背景も感じとれるように述べていきたい.
著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.82, 2009-01-10

紀元前423年に上演されたアリストパネスの喜劇『雲』(田中美知太郎訳,筑摩書房)はソクラテスを批判した作品として有名であるが,そこに登場するソクラテスは精神障害に関わりの深い人物として描かれている. 『雲』は,ある年老いた父親が息子をソクラテスに弟子入れさせようとする話である.しかし,ソクラテスへの弟子入りをめぐる父親とのやり取りのなかで息子は,ソクラテスのことを「悪いダイモンに憑かれている」とか「蒼白い顔をして,履物もはかないでいる連中」と,明らかに病的な人物として蔑視している.実際,その直後に登場するソクラテスは,一人釣りかごのなかで天空のことを思案しているという奇人なのだが,ソクラテスの感化を受けた父親は,息子から次のような批判をされる状態に陥っている.「お父さん,いったいどうしたんです,こりゃ正気の沙汰じゃありませんよ」,「あんな,いかれた連中の言うことを真にうけるなんて,気違い沙汰もひどすぎますよ」,「親父は気が違っている.裁判所へ訴え出て,精神異常の確認をしてもらおうか,それとも棺桶屋に親父の気が変になっていることを話しておく方が,いいか知らん」.
著者
野口 佑太 伊藤 卓也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.69-71, 2019-01-10

はじめに 現在の診療報酬において,退院支援の1つとして退院前訪問指導がある.2018年の診療報酬では退院前訪問指導料は,入院期間が1月を超えると見込まれる患者の円滑な退院のため,患家を訪問し,当該患者またはその家族などに対して,退院後の在宅での療養上の指導を行った場合に,当該入院中1回(入院後早期に退院前訪問指導の必要があると認められる場合は,2回)に限り算定する1)と明記されており,580点の診療報酬が算定可能である.また,最近ではケアマネジャーなどの介護保険サービスにかかわる職員も同行し,意見交換を行う機会も増加している. 退院前訪問指導の際,住環境の状況を記録するための用紙として家屋環境チェックリスト2)や住環境整備のための記録用紙3)などが存在し,活用されている.そのほかに住環境を記録することを目的にデジタルカメラを使用して写真撮影を行うことがあるが,訪問する職員の意向により撮影箇所が限られることや,経験が浅いと撮影に多くの時間を要することが課題として挙げられる.今回,Virtual Reality(VR)の活用として,退院前訪問指導の際に全天球カメラを使用した動画撮影を行い,主体会病院(以下,当院)の職員と動画の共有を行ったため,取り組みと共有結果について報告する.
著者
小向 佳奈子 藤本 修平 近藤 国嗣 大高 洋平
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.819-824, 2016-09-10

要旨 【目的】リハビリテーション分野において,経験に基づく臨床思考はよく用いられる.しかし,臨床思考が経験によってどのように変化するかについての検討はない.本研究では,装具を選定する際の理学療法士の臨床思考を明らかにし,経験年数による相違について検討した.【対象と方法】質的調査と量的調査を混合して行うミクストメソッドを用いた.まず,構造化面接により,装具選定の際にどのような視点や評価指標を参考にしているかについて,理学療法士22名を対象に調査した.その結果より,主要な視点と用いる評価についての質問紙を作成した.次に,作成した質問紙を用いて量的調査を理学療法士40名に実施した.解析は,視点ごとに選択している評価の割合を集計し,経験年数による相違を検討した.また,視点と評価の関連を視覚的に検討するため,コレスポンデンス分析を実施した.【結果】質的調査から,視点として装具の必要性,角度設定など6項目が,評価として可動域,筋緊張など14項目が抽出された.量的調査の結果,装具の必要性における予後の評価や,角度設定における麻痺側の支持性の評価について,経験年数によって相違があった.コレスポンデンス分析の結果,経験年数4年目以上のほうが3年目以下よりも,評価と視点が集約する項目が明確であった.【結語】理学療法士は多様な視点や評価から装具を選定しており,それらは経験年数によって相違があることが示唆された.
著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.1164, 2015-12-10

イタリア・ルネサンス期の詩人ルドヴィコ・アリオスト(1474-1533)が1532年に完成版を発表した『狂えるオルランド』(脇功訳,名古屋大学出版会)は,中世騎士物語を代表する叙事詩とされているが,物語の後半第24歌から39歌には,東国の姫アンジェリカに失恋した後に勇者オルランドが発狂する様子が描かれている. たとえば,第29歌には,オルランドについて,「裸の姿になるまでに物狂いした」,「想いに囚われ,放心していた」,「いずこにか知らねど,思慮を失くして来た」,「方々さまよい歩いた」などの記述があるほか,次のような狂気を思わせる表現もみられる.「眼はほとんど額の中に落ち窪み,顔は干からび,髑髏さながら.その蓬髪はすさまじく,また惨めたらしく,髪茫々で,恐ろしく,また汚らし」,「食い物が欲しいときには,村々,家々荒らしてまわり,果物や,肉やら,パンを奪い取り,腹に詰め込み,人々に暴力振るい,殺めたり,怪我をさせたり,一つ所にじっとせず,絶えず前へと進みつづける」.
著者
田内 悠太 荻野 智之 森沢 知之 大松 重宏 坂本 利恵 和田 陽介 道免 和久
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.46, no.11, pp.1099-1105, 2018-11-10

要旨 【目的】介護支援専門員(ケアマネジャー,care manager;CM)を対象に,心不全疾患理解度とケアプラン状況を把握することを目的とした.【対象・方法】2016年9月時点での兵庫県丹波医療圏域内に登録してある60か所の事業所に在籍しているCM 152名に対し,郵送法にてアンケート調査を実施した.【結果】回収率は71.7%.CMの心不全の疾患理解度は高かった(72.0%)が,ケアプラン作成においては「運動・活動量」の症状を反映しておらず,心不全モデルケースに対して身体活動量を維持・向上させるための運動支援系サービスの選択は少なかった.医療情報の収集では医師からは直接的に得ていたが,コメディカルからは書面上で間接的に得ており,情報提供書の有効性が高かった.【結語】CMの心不全疾患理解度に比して運動支援系サービスの選択が少ない原因として,身体活動量を含めた運動療法の重要性の認識が低く,在宅心臓リハビリテーションを推進するうえでの課題になっていると考えられた.
著者
半沢 直美
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテ-ション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.419-423, 1999-05
被引用文献数
1
著者
加藤 貴志 岸本 周作 井野辺 純一 稲垣 敦
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.44, no.12, pp.1087-1095, 2016-12-10

要旨 【はじめに】脳損傷者の運転技能について神経心理学的検査(以下,検査)との関連が報告されているが,運転技能予測に有効な検査は確立されていない.今回筆者らは脳損傷者の運転技能と検査の関連を検討した研究を対象にメタ分析を実施し,運転技能予測に有効な検査と認知機能を検討した.【方法】MEDLINE,医学中央雑誌など8つのデータベースから脳損傷者に対し実車評価を実施しているなどの基準を満たした研究を抽出し,2つ以上の研究で用いられていた検査の標準化効果量・統合オッズ比を求めた.【結果】11,047文献から20文献が抽出された.このうち9検査にメタ分析を行った結果,Trail-Making Test(TMT)-A,コンパス,道路標識の効果量が高く,注意力や遂行機能など,複数の認知機能が運転技能予測に関与している可能性が示された.【考察】結果より運転技能予測に関連する認知機能について示唆が得られた.今後これらの知見をもとに,国内にて運転技能予測に有効な検査について検討を重ねていく必要がある.
著者
野口 佑太 小林 誠 中尾 由佳里 水谷 祐哉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.497-500, 2021-05-10

要旨 買い物に行くことのできない地域在住高齢者に対して,バーチャルリアリティ(virtual reality;VR)を活用して買い物の楽しみを支援した.その結果,対象者がお店に行くことなく,VRで店内の様子を視聴することができ,買いたいものを買うことができた.VR画像は,視聴者の頸部の動きに連動して画面が変化するため,自分自身が店舗内に居る感覚を得ることができた.しかし,VR画像の視聴中に商品に近づくことができないことが課題として挙げられた.VRを活用した買い物支援は,買い物弱者にとって,実際の店舗に行けない,または行かなくても商品を選ぶ楽しみを体験することができる可能性が示された.
著者
医学書院
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
1973
著者
長尾 恭史 小林 靖 大高 洋平 齊藤 輝海 大林 修文 大隅 縁里子 水谷 佳子 伊藤 洋平 田積 匡平 西嶋 久美子 森 俊明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.567-572, 2020-06-10

要旨 【背景】入院の原疾患が脳卒中以外による急性期重度摂食嚥下障害患者に対する,完全側臥位の導入による帰結の変化について検証した.【対象】入院前Eating Status Scale(ESS)4以上であったが,入院後Dysphagia Severity scale(DSS)2以下の嚥下障害を認め嚥下内視鏡を実施した,原疾患が脳卒中以外の58名.【方法】評価姿勢として,完全側臥位を選択肢の1つとして導入した2016年4〜9月の37名(男性28名,平均年齢81.3±12.9歳)を側臥位導入群,導入前の2015年4〜9月の21名(男性15名,平均年齢79.8±10.9歳)を未導入群とし,両群間で帰結を比較した.【結果】退院時ESS 3以上の患者は側臥位導入群18名(48.6%),未導入群は4名(19.0%)であった(p=0.026).院内肺炎合併数は側臥位導入群6名(16.2%),未導入群8名(38.1%)であった(p=0.061).また,側臥位導入群は退院時ESS 3以上に関連する独立した因子であった(オッズ比6.62,95%信頼区間1.24〜35.25,p=0.027).【結語】完全側臥位は急性期摂食嚥下障害の治療戦略として効果的である可能性が示唆された.
著者
長谷 公隆
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1167-1173, 2004-12-10

はじめに バイオフィードバック(biofeedback;以下BFと略)とは,通常では認識することが困難な生体内の生理現象を視覚や聴覚などで感知できる知覚信号に変換し,随意的には制御できない現象をその知覚信号に基づいてコントロールさせようとする行為である.筋電図バイオフィードバック(EMG-BF)療法は,筋収縮の程度を知覚信号に変換して患者に提示し,これを制御させることによって目的とするパフォーマンスの改善を図る治療法であり,Marinacciら1)が神経筋再教育に用いて以来,運動学習のための一手法としてリハビリテーション医療に広く応用されている.制御対象として選定された筋肉の収縮を,促通(facilitation)させるのか,弛緩(relaxation)させるのかによって大きく分類することができ,その適応は表1に示すように多岐にわたっている. 促通訓練は,筋力増強を必要とする病態に対して,筋肉の活動を量的に提示することによって施行される.しかし,痙性麻痺に対するEMG-BF療法は,麻痺筋の促通訓練に先立って,制御したい運動に拮抗する筋群の弛緩訓練が必要な場合がある.また,弛緩訓練には,過剰な筋収縮を抑制することで局所的な不随意運動を制御させようとする場合と,特定の筋収縮を制御することで,疼痛や全体としての運動パフォーマンスなど,筋張力が低下することとは直接関係のない事象の機能的改善を得ようとする場合に分けられる.これらの効果をリハビリテーション医療に適用するためには,EMG-BF療法の基本的技術を十分に理解したうえで,患者の特性や病態に応じた治療プログラムに基づいて実施する必要がある. 本稿では,EMG-BF療法を臨床に用いるために必要な基礎知識をまとめるとともに,その臨床効果について,無作為対照試験(randomized controlled trial;RCT)を中心にレビューする.