著者
印南 敏秀
出版者
愛知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

柳哲雄が10年ほど前から、「里山」という人と山の関わり方を参考に「里海」という新たな概念を提唱している。おもには沿岸海域を中心とする「里海」を「人手が加わることによって、生産性と生物多様性が高くなった海」と定義している(柳哲雄『瀬戸内海-里海学入門』瀬戸内海環境保全協会、2005など)。本研究では、瀬戸内海の沿岸海域でのフィールドワークから「里海」を「多様な文化が複合した文化多様性の海」と定義したい。(1)里海は漁民にとって海産資源が豊富で漁業や海苔養殖などが盛んだった。(2)里海は農民にとって海藻や海草が農地の肥料として大量に利用されていた。(3)里海は海辺の人にとっても海水浴や遊びの場として深く関わっていた。(4)里海は漁民文化と農民文化が交差して重なり、複合した文化多様性の海だった。高度成長期以降の開発などによって、漁業資源が減少し、生活文化との関わりも急速に失われつつある。里海は、人と沿岸海域のこれまでの長い歴史に学びながら、新たな関係を実現するための概念として重要である。