著者
北井 玄 原田 伸吾
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.2, 2010

【はじめに】<BR>CVAを発症し左片麻痺、高次脳機能障害を呈したA氏を担当する機会を得た。A氏の希望は、企業への復帰であった。A氏と労働組合と共に復職に向けて働きかけたところ企業側は難色を示した。復職の実現に向けて働きかけたプロセスを紹介し、その中から見えてきたPT・OTの役割について考察する。<BR>【事例紹介】<BR>40歳代男性。<BR>生活歴:発症前は営業職のマネージャー。現病歴:平成19年8月右被殻出血。平成20年2月通所リハ利用開始。週4回利用で要介護1。<BR>ADL:FIM 120/126移動:階段歩行・屋外歩行共に自立(短下肢装具使用)Brunnstrom stage:上肢_III_下肢_IV_手指_III_。感覚:中等度鈍麻 高次脳機能:左半側空間失認が認められる。<BR>【評価】<BR>A氏の不安:身体のこと(麻痺の回復・応用歩行・持久力)能力のこと(制服・運転)AMPS:Motor Skillsが1,41logits、Process Skillsが0,95logits。Time up & go test:平均15秒。更衣(制服)自立。自動車免許は更新できた。<BR>労働組合の依頼により評価結果を企業に提出した。その後、企業とA氏との話し合いが続いたが難航し、企業が解雇の意向を示したことで裁判となった。<BR>【介入の基本方針と介入経過】<BR>復職の為に、企業が難色を示す理由を明確化し、それに対する評価結果を数値化して復職が可能なことを企業に示すこと。また、企業が難色を示す理由に対して介入することとした。<BR>解雇理由は、会社がバリアフリー構造でない。体力上フルタイム勤務は困難ではないか。(身体機能面への理由)一人で業務を遂行できるのか。業務中フォローする人材と時間の不足。(作業遂行の質に関する理由)であった。<BR>介入結果は、Time up & go testが平均13秒。持久力として屋外歩行2kmコースを連続歩行可能(所要時間約50分)となった。また、AMPSではMotor Skillsが1,92logits、Process Skillsが1,18logitsとなった。<BR>これらを企業に提出した結果、裁判はA氏の要望が通る形で和解し、復職が決定。PT・OTの評価は裁判の資料として取り扱われた。<BR>復職後、労働組合の担当者は「PT・OTの作成した書類は、結論を先延ばししようとする企業に対して非常に効果的だった。おかげで話が前に進んだ」と語った。<BR>【考察】<BR>当初、復職に至らなかったことに関して、A氏同様、企業の不安も明確化し、双方に介入する必要性があったと考える。また今回の事例では、企業の雇用継続に関して不安な点として、身体機能面と作業遂行の質に関する面に分けられた。これは、就労にまつわる多くの事例に共通する不安と推測する。<BR>上記2点において、PT・OTが協働して企業側が示す不安を解消し得るデータとフォロー方法を提示することが重要であり、それがPT・OTの役割であると考える。