- 著者
-
原田 利男
- 出版者
- 独立行政法人国立高等專門学校機構
- 雑誌
- 奨励研究
- 巻号頁・発行日
- 2008
1. 研究目的我が国の稲作における水の供給には農業用水路が用いられる場合が多い。稲作において、水管理(中干し、間断潅水など)が重要なポイントであるので、用水路に堰を入れ稲田へ取水するが、空梅雨の夏季には閉鎖性水域になりやすく、水質悪化の原因となる植物プランクトンが大量発生する。数年前から取り組んできた省ェネ型酸素供給装置は、水深の浅い所(0.5m)でも機械的拡散が生じない流動特性を備えている理由で、用水路の表層水を取水する稲作に適用し、水環境改善について検討する。2. 実験方法宇部市平原(かつては稲作地域であった)で実験を行なった。小高い所に設けられた、灌漑用貯水池から放流される用水路が、東西南北四方に交叉した処から西へ約5m行った場所を選定した。北方が源流であり、東西南方面へ水を供給している。西側を試験区、東側を対照区として表層水の分析を行なった。用水路(幅約1m、水深0.5m)に装置(消費電力80W,水流動65L/min.)を設置し、装置から約20m離れた川底から装置へ水を吸引循環した。流速は0.2cm/sec.であった。3. 実験結果および考察(1). 溶存酸素濃度(DO):試験区は対照区と明確な差が出た。日中には、過飽和(試験区は19.9mg/L以上、対照区は12~14mg/L)になるが、朝方には、対照区では0mg/Lを示し、試験区では、日没から3mg/L以上で推移した。(2). ろ過速度:GFBろ紙で試験区の採水1Lを速やかにろ過できたが、対照区では約0.5Lで目詰まりを起こした。粒度分布の結果、目詰まりの原因として1μm以下の微細粒子の存在が考えられた。(3). 藻類の発現:表層水のクロロフィルaや濁度の値は試験区の方が良好であった。また、試験区では、溶存炭素濃度、DO、pHの測定結果は、光合成が盛んに行なわれたことを示した。試験区の川底に約100mに渡りアオミドロがグリーンベルト状にへばり付き、藻内に多くの微生物が共生し、良好な水環境を形成した。