著者
西山 忠男 西 右京 原田 和輝 大藤 弘明 福庭 巧祐
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

九州西端に位置する白亜紀沈み込み帯の長崎変成岩西彼杵ユニット(85-60 Ma: Miyazaki et al., 2017)の雪浦蛇紋岩メランジェから,泥質片岩基質中にマイクロダイヤモンド集合体を発見した.西彼杵ユニットは緑簾石青色片岩相に属し,結晶片岩類(泥質砂質片岩を主とし,少量の塩基性片岩を伴う)に少量の蛇紋岩ならびに蛇紋岩―塩基性岩複合岩体を伴う.後者は蛇紋岩メランジュの性格を有する.蛇紋岩メランジュはアクチノ閃石片岩の基質中に種々の大きさと岩質の構造岩塊を含む(Nishiyama et al., 2017a).構造岩塊の変成度は1.5 GPa, 450 C(含石英ヒスイ輝石岩:Shigeno et al., 2011)から1.8 GPa, 650 Cまで(ザクロ石‐緑簾石-バロワ閃石岩:ザクロ石中に単斜輝石,フェンジャイトの包有物を含む)幅広い温度圧力条件を示す.雪浦メランジュは西彼杵ユニットの最西端に位置し,西彼杵ユニットとその西方の大瀬戸花崗閃緑岩(100 Ma)を境する呼子の瀬戸断層沿いに発達する.また大瀬戸花崗閃緑岩は第三紀堆積岩類(松島層群・西彼杵層群)に不整合に覆われ,西彼杵ユニットに接触変成作用を与えていない(服部ほか,1993). われわれはこれまで雪浦メランジュからいくつかの産状のマイクロダイヤモンドを報告してきた.それらは,クロミタイト中の包有物,石英-炭酸塩岩中のシュードタキライト様脈中のもの,そして泥質片岩の強く変形した黄鉄鉱中の包有物などである(Nishiyama et al., 2017b).今回われわれは,新たに泥質片岩の基質中にマイクロダイヤモンド集合体を発見した.それらはフェンジャイトと緑泥石の粒間に常に炭酸塩鉱物を伴って産する.炭酸塩鉱物はドロマイト,マグネサイト,方解石でこの順に頻度が高い.マイクロダイヤモンド集合体は径10-50 ミクロンで,Siに富む鉱物(同定不可)の基質中に多数のマイクロダイヤモンド結晶が集合している.個々のマイクロダイヤモンド結晶は自形ないし半自形結晶で,径0.3-0.6 ミクロン程度である.同定はSEM-EDS,ラマン分光法,ならびに透過電顕による電子線回折法によって行った.マイクロダイヤモンドを含む泥質片岩は蛇紋岩メランジュ中の構造岩塊で,石墨+緑泥石+フェンジャイト+アルバイト+石英+黄鉄鉱+チタナイト仮像(アナテーズ+石英+炭酸塩鉱物)からなり,石墨のラマンスペクトルからその形成温度は450 C程度と見積もられる.緑簾石もローソン石も含まない.この泥質片岩は,ドロマイト層が片理(S1)に平行に発達し,片理とともに非対称に褶曲(F2)しているという特徴がある.またドロマイト脈がこれらの構造を切って発達している.蛇紋岩メランジュ以外の場所に発達する泥質片岩にはドロマイトもマイクロダイヤモンドも見られないが,鉱物組合せはザクロ石と緑簾石が加わることを除けば同じである.この発見は,泥質片岩の基質中に産するマイクロダイヤモンドの世界最初の報告である.また島弧-海溝系の沈み込み帯からの最初のマイクロダイヤモンドの発見でもあり,冷たい沈み込み帯においては付加体がダイヤモンドの安定領域まで沈み込んでいることを示唆している.このマイクロダイヤモンドは世界最低温の形成条件(450 C)を示すことでも注目される.この低温条件こそが,西彼杵ユニットの上昇過程において,泥質片岩の基質中でマイクロダイヤモンドが石墨に転移せずに保存される要因であったと考えられる.地球物理学的には,大陸衝突帯のみならず,島弧-海溝系の沈み込み帯においてもダイヤモンド安定領域に達する超高圧変成作用が実現されている点を示した点が特記される.服部仁・井上英二・松井和典,1993,地域地質研究報告 神浦地域の地質,地質調査所.Miyazaki, et al., 2017, Terra Nova, 00:1-7. https://doi.org/10.1111/ter.12322Nishiyama et al., 2017a, JMPS, 112, 197-216.Nishiyama et al., 2017b, JpGU Ann. Meeting AbstractShigeno et al., 2012, Eur. Mineral, 24, 289-311.