著者
原田 馨
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.46, no.7, pp.422-427, 1998-07-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
12

ベンゼンの環状構造を提出したA.ケクレは才能豊かな努力家であり, 実験家というよりは理論家であった。ベンゼンの構造がどのような過程を経て生まれたかということは必ずしも明かではない。ケクレはベンゼンの環状構造を夢の話と結びつけたので, 彼の構造論の理解には夢の分析が必要となる。本稿では当時の化学理論にケクレが新しく加えた学問的貢献, 芳香族化合物の化学が当時の化学工業とタイミングよく相補的に発展したケクレの幸運と栄光について述べる。また蛇の夢の話について触れると共に, ケクレと同じように有機化学構造論を築こうとした不幸な若き化学者A.S.クーパーについて一言する。