- 著者
-
及川 幸彦
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.000283, 2018 (Released:2018-06-27)
1. 新学習指導要領の基盤としてESD 2017年3月末に,2018年度から順次施行される幼稚園及び小・中学校の新学習指導要領等が公示された。この新たな学習指導要領等の策定過程において発表された中央教育審議会の答申では,「持続可能な開発のための教育(ESD)は次期学習指導要領改訂の全体において基盤となる理念である」と述べている。そして,この答申に基づき策定された新たな小・中学校学習指導要領において,今回初めて創設された理念を謳う前文と全体の内容に係る総則の中に,「持続可能な社会の創り手」の育成が掲げられた。さらに,各教科・領域においても,関連する内容が盛り込まれている。 新学習指導要領は,ESDの理念とこれまでの実践も踏まえて検討されたものであり,今回の改訂は,「持続可能な社会の創り手」を育成するESDが,新学習指導要領全体において基盤となる理念として組み込まれたものと理解できる。また,ESDが重視する学習内容や方法は,新学習指導要領に示された「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善の方向性にも資するものであり,さらに,地域や外部機関,あるいは世界と連携して学際的かつ体系的に学びを構築するESDは,「カリキュラム・マネジメント」の具体的な実践強化にもつながるものである。したがって,ESDを推進することは,新学習指導要領の改訂の趣旨に沿うものであり,各教科・領域のみならず教育課程全体で取り組むべきものである。2. 持続可能な開発目標(SDGs)を達成するESD 2015年9月の国連総会で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され,その中で「持続可能な開発目標(SDGs)」が掲げられた。SDGsは,発展途上国のみならず,先進国も取り組む2016年から2030年までの国際的な目標で,持続可能な世界を実現するための17の目標(Goal)と169のターゲットから構成されている。このSDGsにおいて,「教育」は目標4に位置付けられ,「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を保証し,生涯学習の機会を促進する」とされており,さらに,ESDは,ターゲット4.7に「持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能の習得に向けて取り組む」こととされている。しかし,教育及びESDは,目標4(4.7)にとどまるものではなく,「持続可能な社会の創り手の育成」を通じて,SDGsの17の目標すべての達成に貢献するものと考えられる。すなわち,ESDをより一層推進することが,SDGsの達成に直接・間接につながるものである。3. ESDの更なる推進のためのジオパークの活用 ジオパークは,2015年にユネスコの正式事業(ユネスコ世界ジオパーク)と承認されたこともあり,今後,教育分野での活用が期待されている。特に,ユネスコが主管するESDやユネスコスクール等の取組と連携して,ジオパークが有する稀有な地質や自然,文化や防災等の特性を生かした教育資源を提供してESDを展開するような「拠点」としての機能を果たすことが求められている。 近年,ユネスコスクール等を中心に,学校教育と世界遺産やユネスコエコパークといった他のユネスコ活動とが連携し,その理念や活動を,ESDの様々な学習に取り入れている例が増えてきている。この枠組みは,ユネスコの理念の実現とともに,ESDの推進においても重要である。また,ジオパークは,ユネスコスクールやエコパークと同様に国際的な「ネットワーク」であり,個別の地域に根差しながらも他のジオパークとの交流によりグローバルな視野で学びを共有する仕組みづくりが可能となる。このように,ジオパークを活用した教育活動は,ESDの推進にとって有効なアプローチであるとともに,それを基本理念とする新学習指導要領の趣旨を実現することにも寄与するものである。