著者
友成 晶子 山内 祐一
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.163-170, 2015-02-01

症例は,内気で気が弱く孤立傾向のある病前性格をもつ独居男性.社交不安障害(SAD)から職場不適応になり自宅閉居となった.休職が長期化し治療介入方法の選択に苦慮したが,認知行動療法が功を奏し,徐々に不安,緊張に改善傾向が認められるようになった.しかし東日本大震災が発生.患者は外出困難が再現し,食料がなく飢餓状態になっても家族が安否不明であっても「ひきこもり」を続けた.震災2カ月後にようやく実家へ出向き,津波の惨状を目の当たりにした.患者は自己の「ひきこもり」に対して絶望感から焦燥感へと心的変化があったと語り,復興ボランティアへの志願,職場復帰プログラムへの参加など自ら積極的に行動した.身体症状もほぼ改善され,震災10カ月後に職場復帰するに至った(休職2年3カ月).その後就労継続し再発はない.過去,「ひきこもり」治療の具体的な報告はほとんどみられない.職場復帰に成功した症例を経験したので報告する.