著者
古木 圭子
出版者
京都学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

平成14〜16年度にわたり、主にニューヨークとロサンゼルス、およびミネソタ州ミネアポリスにおけるアジア系アメリカ演劇集団の調査を行い、合衆国におけるアジア系アメリカ演劇の受容と今後の発展性について考察を試みた。それぞれの地域において、アジア系アメリカ演劇集団は一定のコミュニティを築き、アジア系アメリカ文化を流布する芸術媒体として注目されている。しかし、地域コミュニティとの連携性にも関わらず、観客の多くはアジア系であり、非アジア系の観客が極めて少ない。また、今後もアジア系以外の観客に、アジア系演劇が広く受容される可能性が薄いこと、ブロードウェイを含むメジャーなアメリカ演劇界でのアジア系アメリカ演劇作品の上演はきわめて困難な状態にあることが、実際の劇場調査と演劇関係者との対談から明らかになった。ニューヨークやロサンゼルス、サンフランシスコを主な拠点とする西海岸では、アジア系アメリカ演劇は、アジア系のコミュニティによってサポートされているが、その恵まれた状況が、逆説的に、これらの集団がアジア系コミュニティの外に出ることを阻んでいると言える。しかし、アジア系の層が比較的薄いミネアポリスのTheater Muは、その幅広い活動によって、アジア系コミュニティの外側と交流を持つことに少なからず成功しているようである。新たな課題は、日系アメリカ演劇と日本国内の劇団および演劇関係者との交流を基盤としたアメリカ演劇の拡大である。ここ数年、日本国内ではWakako Yamauchi、Philip Kan Gotanda、Rick Shiomiを初めとする日系アメリカ/カナダ人劇作家の作品が次々と上演され、彼らの講演を中心とした意欲的なシンポジウムも東京、大阪で開催され、日本国内におけるアジア系(日系)アメリカ演劇の発展の可能性をうかがわせた。今後この分野における研究を進める予定である。