著者
古橋 英枝
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.85-85, 2018-03-01 (Released:2018-03-01)

今月号の特集タイトルは「Institutional Researchと大学」です。10年ほど前から日本でもInstitutional Research(大学の中にある様々な情報を活用し,教育・研究等の大学の業務の改善や意思決定の支援情報のデザイン・収集・分析・評価・活用・提供などの中核を担う)の必要性が叫ばれ,米国の事例紹介から日本での導入事例紹介まで幅広く文献が存在しています。本特集では,改めてIRとは何か,日本におけるIRの組織・人材育成等制度面の整備状況,そして具体的に何を目的としてどのような情報収集を行っているのか取り上げることで,日本におけるIRの現状を概観することを目的としています。東京工業大学の森雅生氏には,日本でのIR導入経緯から各国の動向,教学IRと研究IRという2大フレームについて,分かりやすく整理して解説いただきました。国立情報学研究所の船守美穂氏には,より具体的な日本におけるIR登場の文脈,及び現在学内でIRがどのように扱われているか等について包括的に解説いただいただけでなく,最後に大学図書館との関わりの可能性について考察いただきました。このような背景を前提に,神戸大学の高田英一氏には,国立大学を中心とした実際のIR人材についての調査結果を元に,人材育成の現状と今後の課題に関して考察いただきました。さらに,東京学芸大学の岩田康之氏にはIRの考え方から派生した教員養成IRについて,「HATOプロジェクト」を事例に具体的な取り組み内容をご紹介いただき,最後に岐阜大学の利光哲哉氏には,岐阜大学で開発したIRシステムである「戦略的統合データベース」について,開発に至る経緯やシステム仕様について詳細にご紹介いただきました。IRのためのデータ収集対象には垣根がなく,IRの取り組みは,大学をはじめとするすべての高等教育機関の関係者に関わる話題であり,今後の課題だと考えています。本特集が,こういった関係者のみなさまにとって,IRの基礎知識を改めて身につける機会になると共に,今後のIRへの関わり方について,なにかしらのヒントになれば幸いです。(会誌編集担当委員:古橋英枝(主査),田口忠祐,南山泰之)
著者
古橋 英枝
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.573, 2018-12-01 (Released:2018-12-01)

今月号の特集タイトルは「人工知能(AI)について」です。近年「機械学習」や「ディープラーニング」といった言葉を耳にすることが多くなり,自動運転技術や囲碁の対局等が大きなニュースになるなど,人工知能の技術が日々進化し,生活レベルでも身近なものになりつつあります。そこで,人工知能技術が学術情報流通においてどのように関わっているのか/関わってくるのか,また今後インフォプロが人工知能とどう関わり,付き合っていくべきかなどについて,身近にある人工知能技術や実際の活用事例などを踏まえながら必要な知識を分かりやすく提供することを,本特集の目的としました。国立情報学研究所の相澤彰子氏には,学術論文を中心とする学術情報の検索システムにおける人工知能の活用を事例として,人工知能の背景にある解析技術について,現状と課題を概観していただきました。骨董通り法律事務所の出井甫氏には,内閣府が今年公表した第5期科学技術基本計画において提唱されているSociety 5.0の話題を交えつつ,著作権法を中心に,人工知能によって生成されたものに関する知的財産権の現状と課題について,考察していただきました。京都大学の西田豊明氏には,人工知能における,倫理,法,社会の分野を総称したELSI(Ethical, Legal and Social Issues)と呼ばれる観点での取り組みについて,セキュリティやプライバシー等,慎重な検討が必要な点から利活用に向けた動きまで,詳細に執筆いただきました。そして,このような人工知能をめぐる歴史的な背景や技術発展,著作権やELSI等,利活用が進む現在において念頭に置かなければならない観点を前提に,人工知能を利用したサービスについて2本ご執筆いただきました。朝日新聞社メディアラボの田森秀明氏,人見雄太氏,田口雄哉氏には,ラボにおける人工知能研究の取り組みとその成果について,近畿大学アカデミックシアターの寺本大修氏と株式会社エイド・ディーシーシーのスガオタカヒコ氏には,本のマッチングサービスの開発に至る経緯から仕組みやサービス開始後の反響等についてご紹介いただきました。相澤氏のまとめを一部引用させていただくと,人工知能の活用目的は「研究そのものを代替することではなく,AI技術の助けを借りて,より有望な知識の候補を,より素早く見つけ出して,ユーザに提示することである。」とあります。本特集をご覧になった読者が,今後「人工知能」と対面していく中で,どのような観点を持ち,どのような姿勢で考えていけばよいのか,少しでもヒントになれば幸いです。(会誌編集担当委員:古橋英枝(主査),稲垣理美,炭山宜也,長屋俊,松本侑子,南山泰之)
著者
古橋 英枝
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.513-513, 2017-10-01 (Released:2017-10-01)

今月号の特集タイトルは「情報リテラシー教育のいま」です。日本国内における情報活用能力の教育の必要性に関する議論は,1985年6月の臨時教育審議会第一次答申に始まった,と言われています。1998年から1999年にかけて中学校の技術家庭科において「情報とコンピュータ」が必修になり,高等学校に教科「情報」が新設されました。情報教育における「情報活用能力」は「情報リテラシー」と同義として扱われるようになり,小・中・高等学校図書館(以下,学校図書館)では「調べ学習」や「探究的学習」において一定の役割を果たしてきました。また,大学図書館においても1996年に学術審議会が「大学図書館における電子図書館的機能の充実・強化について(建議)」を公表し,この中で情報リテラシー教育への支援と教育体制の整備が挙げられています。本特集では,学校図書館における情報リテラシー教育と,大学図書館で実施されている情報リテラシー教育について制度と実際の取り組みについて概観し,相互の連携における課題を明らかにするとともに,初等・中等・高等教育機関全体での情報リテラシー教育のデザインの可能性について論じることを目的としています。総論では,鶴見大学の河西由美子氏に米国における情報リテラシー概念の発展から日本の情報教育との関連,学校教育及び学校図書館における課題を中心に論じていただきました。関西大学の黒上晴夫氏には,学校教育における思考スキルの育成に一定の役割を果たしているシンキングツールについて,具体的な思考の過程を解説いただきながら,詳細にご紹介いただきました。この思考スキル・情報リテラシーを,実際の教育現場においてどのように育んでいるのか,初等教育(小学校)については学校図書館の司書教諭のご経験もある,関西大学の塩谷京子氏に,中等教育(中・高)については工学院大学附属中学・高等学校の司書教諭である有山裕美子氏に,高等教育(大学)については大学における情報リテラシー授業の授業設計のご経験のある日本大学の小野永貴氏に,それぞれ実践例を交えつつ,課題や展望について論じていただきました。本特集が,各教育課程の現場に関わるみなさまにとって,また,学校図書館・大学図書館のみならず,生涯学習を支える地域の公共図書館で勤務されるみなさまにとっても,日々受け取る多くの情報をいかに判断し,正しく活用し,他者とのコミュニケーションにつなげ,新たな視点を得ることで成長していくのか,という人類の基本的な行動について,改めて考える機会になれば幸いです。(会誌編集担当委員:古橋英枝(主査),小山信弥,中村美里,久松薫子)