著者
古田 芳一
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.383-389, 2015 (Released:2015-12-03)
参考文献数
44
被引用文献数
1

ピロリ菌(Helicobacter pylori)はヒトの胃に感染し, 胃がん等の疾患の原因となる。そのゲノム配列は多様性が高く, 地域特異的に進化したことが知られている。日本人患者由来のピロリ菌のゲノムを解読し, 他地域由来のピロリ菌ゲノム配列と比較した結果, 遺伝子のレパートリーだけでなく, ゲノム構造や, エピゲノム修飾の一種であるDNAメチル化についても様々なメカニズムにより多様化していることが明らかとなった。ゲノム中の逆位は地域特異的に分布しており, ゲノム中の逆位とリンクして遺伝子重複が起きる現象を発見した。ゲノム中のDNAメチル化部位は, メチル化酵素遺伝子の有無だけでなく, メチル化認識配列を決定するドメイン配列が移動することによっても多様化することが示唆され, オーミクス解析により, 実際にドメイン配列の移動によってメチル化認識配列が多様化すること, さらにトランスクリプトームも多様化することを明らかにした。これらの多様なメカニズムにより, ピロリ菌の適応進化が起こることが示唆された。