著者
古田 貴志
出版者
鹿児島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

エスシタロプラム(商品名 : レクサプロ錠)は, 2011年7月に薬価基準収載され, うつ病に対して用いられる選択的セロトニン再取り込み阻害剤である. 添付文書の「用法・用量に関連する使用上の注意」として, 「肝機能障害患者, 高齢者, 遺伝的にCYP2C19の活性が欠損していることが判明している患者(Poor Metabolizer)では, 本剤の血中濃度が上昇し, QT延長等の副作用が発現しやすいおそれがあるため, 10mgを上限とすることが望ましい」との記載があるが, CYP2C19活性欠損患者が日本人で約20%と多く, 2012年6月に禁忌事項として, 「QT延長のある患者」が追記されたにも関わらず, 日本人においてCYP2C19活性欠損を含む因子と副作用のリスクについて考慮されていない. そこで, 本研究では, 日本人におけるエスシタロプラムのQT延長のリスクについて解析を行った.2013年度に鹿児島大学病院でレクサプロ錠を服用された患者は96名(入院25名, 外来71名)だった. そのうち, レクサプロ錠を10mg以上服用し, 肝機能などを元に減量の必要性を考慮すべき患者は28%(96名中27名)だった. また, そのうち心電図が検査されていたのは, 22%(27名中6名)だった. 一方, 心電図が検査されていた患者34名(入院20名, 外来14名)では, 82%(34名中28名)がレクサプロ錠の減量を考慮し10mg以下で服用されていた. 以上のことから, レクサプロ錠を減量する必要のある患者は多く, レクサプロ錠のQT延長のリスクが考慮されていないために, 心電図を検査されていないものと推測された.また心電図が検査されていた患者では, QTc間隔の平均は(Fridericia補正法, Bazett補正法で評価)は, 424/416msであり, 450以上が4名, 480以上が2名だった. QTc間隔が480以上の2名は, レクサプロ錠10mgで服用されており, QT延長のリスクとして, 女性・うっ血性心不全・高齢者(60歳以上)では一致したが, 低カリウム血症や添付文書で減量を考慮するように記載ある肝機能障害(Child-Pugh分類A)はみられず, 投与前の心電図を検査している1名は, レクサプロ錠追加後のQTc間隔増加はみられなかった. これらの症例は肝機能障害がなくレクサプロ錠の影響は少なかったものと思われるが, 今後は肝機能障害のある患者において, CYP2C19活性欠損の有無とエスシタロプラムの血中濃度を測定し, QT延長等の副作用のリスクを評価していく.