著者
片岡 正喜 古賀 唯夫 村上 良知
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
日本建築学会論文報告集 (ISSN:03871185)
巻号頁・発行日
no.272, pp.105-114, 1978-10-30

1)現段階の車いす用住戸の空間構成は, 入居在身障者世帯の住生活が総合的にイメージされた結果もたらされたとは言い難く, 特に身障者を含む世帯という観点からの配慮を欠く。住戸の空間構成評価のために設けた6項目により各住戸を評価した結果は次の通りである。住戸型別では[DK^S型]・[DK^N型]・[LDK^S型]いずれにおいても, [(L)DK連続型]の方が[(L)DK独立型]より総合評点が高い。[連続型]が高いのは, (L)DKと隣接居室とが連続で, 居室間相互の分離例が多く, 洋室と(L)DKとの連続化も高いからである。最も多い[DK型]では, [DK^S型]の方が[DK^N型]に比して総合評点が高い。その理由は, 後者では洋室の通り抜けが生じやすいのに対し, 前者では第2居室のDKからの分離がよく, 居室間の分離もなされる例が多いためである。注目すべき点に, 2DKにおいて最も例数の多い[DK^N・洋^S・居^N]に評点が低く, 逆に評点の高い[2DK^S型]なかでも[DK^S・洋^S・居^N]は少数例であるという結果がある。これは今後の平面構成の改善方向を示唆するものである。2)各室の空間構成評価は主として車いす使用の視点から行っている。ここではその結果に住戸の空間構成の問題を関連付け言及する。各室については, 初期の模索期であることもあり, 車いすの特性や家具の想定の下に, 十分使用に耐える空間構成やディテールになっていない点を各所に露呈する。(L)DKの規模は, 特目促進会議の最低水準以下が約40%を占め, 3DKと2DK^Nとに多い。食卓・いすを配すると流し回りも車いす通行に不十分なものが目立つ。車いす使用者の生活行為が集中しやすいことから, (L)DKは, 居室との連続化だけでなく, それ自体で規模拡大を計り食事・団らんを可能にし, 次いで隣接居室も公室兼寝室としての条件の具備を計る必要がある。居室に関しては, [3DK]・[2LDK]で4.5帖以下の居室の例が増え, [2DK^S]・[LDK^S型]に南居室のない例が多いという問題が指摘できる。それら居空間の分離は, 2居室型では対応性を高めるため連続化も止むを得ないが, 3居室型の場合は, 現在むしろ少ない第2・第3居室の分離を計り, プライバシーある分離就寝の可能性を高めるべきである。全和室のたたみ床面を上げる例は3/4を占めるが, 床高の不統一が気になる。和室が車いす使用者にどのように使用されるかは今後考察を重ねていくことを要する。洋室の規模もまちまちでダブルベッドを置き車いすでアプローチできる例は15%に満たない。今後身障者用寝室として洋室のニードはより高まると考えられるが, その際の規模は夫婦がベッド就寝できるものとするべきで, 合せて収納のスペースと収め方にも配慮が望まれる。サニタリーは他の室にくらべて車いすへの配慮が高い。しかし狭いスペースに設備器具が様々に設置され, 複雑な動作を伴ない, 実際にはいろいろと困難を生じる室で詳細な評価が不可欠である。玄関・バルコニーは身障者の生活領域を拡大する外部への接点として重要であるが, 形式的には車いす出入り可能としているものの, 面積, 開口巾, 段差等細かい配慮にまで至らず, 実用的には問題が多く, 工夫の余地を残している。これに関係して車いす2方向避難の厳守も今後は徹底されるべきである。