- 著者
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古郡 靹子
- 出版者
- 日本人口学会
- 雑誌
- 人口学研究 (ISSN:03868311)
- 巻号頁・発行日
- vol.15, pp.45-55, 1992-05-30 (Released:2017-09-12)
本稿では,若年の勤労観,就業行動の変化の実態を把握し,それを人口問題の主要課題である出生率の低下現象との関係で分析・検討する。若年の就業行動の変化は,アルバイトの日常化,フリーター的労働者の出現,離転職(希望)者の増加などに特徴的に表われている。最近の若年層は従来の雇用形態やライフスタイルとは違った,より自分流の経済関与のあり方を選択してきている。離転職関数の時系列分析と横断面分析を行なった結果は,景気変動のような一時的な要因に加え,人口構造の変化や仕事の選択基準の変化が若年の就業行動を変えてきていることを示している。若年者は,労働時間の長い企業,仕事の多すぎる企業を敬遠するようになってきた。これは,生活水準の向上とそれにともなう社会観,人生観の変化を反映したものであろう。若年層の就業行動の変化は,その勤労観の変化と呼応したものである。物質的な欲望が充足され,生活が安定すると,個人の生活を犠牲にしてまで働こうとする者が少なくなってくる。各種の調査は,最近の若年者が仕事志向型から仕事と余暇の両立志向型に移ってきていること,いわゆる会社人間となって組織に縛られることを嫌う者が増えていることを明らかにしている。若年者の意識や就業行動の変化は,当然,結婚や出産の行動にも反映する。ベッカー流のモデルに従い,出生率の分析を行なってみると,女子の市場賃金に加えて,余暇・娯楽時間の動向が出生率を左右する要因になっている。物質的な経済原則のもとでは,若年の余暇・娯楽志向が強まり,その上に子供の養育に費用もかかりすぎるとなると,それが出生率に影響を与えるのも当然のことだろう。わが国では晩婚化が進み,出生率は低下の一途をたどってきた。しかし,出生率を上げることが望まれるならば,税制による優遇措置,児童手当の引き上げのような直接経済的な施策もさることながら,子供を育てる上での障害を取り除き,心にゆとりのある生活ができるような社会環境を整備することも大事だろう。それには,たとえば,労働時間の短縮,雇用形態の弾力化,育児休業制度,教育制度の改革,職場環境の整備などを行なう必要がある。