著者
可部 繁三郎
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.47-62, 2013-06-30 (Released:2017-09-12)

低水準かつ短期間での劇的な低下という東アジアの出生力の特徴は台湾にも当てはまり,2010年には台湾の合計特殊出生率(TFR)は0.895と史上例をみないほどの低水準に落ち込んだ。低水準と急低下という傾向は,台湾全体のみならず,県・大都市ベースでも見出される。McDonald(2009)は東アジアの低出生力の背景として,経済的なリスク回避志向を強める子育て世代にとって,子育て関連の社会経済制度が優しくないことを挙げる。本稿は,子育て世代の経済面におけるリスク回避志向というMcDonald(2009)の視点に基づき,子育て支援環境の整備が出生率に対する規定要因になりうるのかどうかについて,地域単位のデータに基づいた分析を試みた。対象期間は台湾において急激な出生率の低下傾向が見られる1990年から2010年である。子育て支援環境の整備策のうち,保育所利用率の効果は認められなかった。子育て世代は,経済的なリスクは子ども世代にも続きかねないと考えるため,子どもへの教育投資熱が高まる結果,私立保育所による高額な幼児教育サービスの利用が増え,それが家計の圧迫につながると考えられる。一方,低費用だが,親の幼児教育期待に余りそぐえないというイメージの強い公立保育所については,保育サービスにおける公立比率が高まれば出生率に正の影響を与えるという結果が得られた。これは,低費用で,且つ,市場原理に過度に依存しないといった公立本来の特徴を生かした保育サービスが提供されれば,有用な子育て支援になりうることを示唆している。また,出産や育児関連の休業制度の効果も認められた。こうした制度が浸透すれば,特に働く女性にとって,出産や子育てに伴う就業継続リスクの低減が期待されることを示している。