著者
牛川 憲司 板垣 英二 丸山 雅弘 半田 桂子 大塚 大輔 下山 達宏 関 博之 小澤 幸彦 山口 真哉 滝澤 誠 片平 宏 吉元 勝彦 石田 均
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.74-82, 2005
参考文献数
19
被引用文献数
3

症例は54歳, 男性。平成7年頃に糖尿病と診断されていたが放置していた。平成13年8月末より腰痛を認め, その数日後より右下肢に浮腫が出現した。さらに左下肢にも浮腫を認めるようになったため同年9月20日当科入院となった。身体所見では両下肢の圧痕性浮腫と両側の側腹部に表在静脈の怒張を認めた。胸部〜大腿部造影CTでは, 肝静脈流入部より中枢側ならびに腎門部より末梢側の下大静脈は正常に存在していたが, 肝静脈流入部から腎門部にいたるまでの下大静脈は欠損しており, 著明に拡張した奇静脈および半奇静脈が描出された。なお, 腎門部より末梢の下大静脈は第3腰椎レベルで下行大動脈の背側を横切り半奇静脈に連なっていた。さらに, 両側の大腿静脈, 外腸骨静脈, 総腸骨静脈および腎下部下大静脈, そしてそれに連なる半奇静脈の血管内腔には器質化した血栓が連続性に充満していた。また, 胸腹部MRAでは腹腔内に側副血行路と考えられる無数の静脈が描出された。以上より, 広範な深部静脈血栓症を伴った肝部から腎部におよぶ下大静脈欠損症と診断したが, 本例は側副血行路の著明な発達, 増生により両下肢の浮腫は保存的治療のみで自然に軽快した。下大静脈欠損症では, 血管の走行異常による血流うっ滞をきたす可能性があるにも関わらず実際に静脈血栓症を合併することは稀である。本例において広範な深部静脈血栓症を合併した原因としては, 高度の腰痛により食欲不振をきたし脱水傾向となったことから血液粘稠度が増加し, その状態で臥床状態が続いたこと, それに加えて合併する糖尿病による凝固亢進状態が関与した可能性が考えられた。
著者
牛川 憲司 板垣 英二 曽野 聖浩 関 博之 小澤 幸彦 山口 真哉 丸山 雅弘 滝澤 誠 片平 宏 吉元 勝彦 住石 歩 海野 みちる 石田 均
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.24-30, 2003-03-30

症例は40歳女性。平成12年12月30日より38℃台の発熱を認め,数日後には右前頚部に有痛性の腫瘤が出現した。近医で投薬を受けたが症状の改善がないため平成13年1月7日当科に入院。体温38.9℃,右前頚部に3×3cmの圧痛を伴う腫瘤を触知した。白血球増多,CRP高値,軽度の甲状腺機能亢進と,血中サイログロプリンの著増を認め,頚部CTでは甲状腺右葉に境界明瞭な低吸収域の腫瘤を認めた。腫瘤の穿刺では膿性の液体が採取され,細菌培養は陰性であったが好中球を多数認めたことから急性化膿性甲状腺炎と診断した。抗生物質の投与で症状は消失し,頚部腫瘤も縮小した。咽頭喉頭ファイバー,咽頭食道造影のいずれでも下咽頭梨状窩瘻は確認されなかった。本症のほとんどは小児期に初発し,しかも罹患側は発生学的理由から圧倒的に左側に多いことが特徴であるが,我々は中年期に初発し,かつ右側に発症した稀な一例を経験したので報告する。