著者
吉原 晋太郎 清野 宏
出版者
日本鼻科学会
雑誌
日本鼻科学会会誌 (ISSN:09109153)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.635-642, 2019 (Released:2019-12-20)
参考文献数
33

広大な面積を有する気道粘膜や消化管粘膜は,微生物を含む無数の有益,および有害な抗原に継続的に曝露されている。多種多様な外来抗原に対して粘膜面では,上皮-間葉系細胞,免疫細胞,および共生微生物叢などから構成される粘膜マルチエコシステムが,互いにコミュニケーションを取りながら,調和のとれた生態系を形成し,「共生と排除」という相反する生体応答を巧みに誘導・制御していることが近年の研究から明らかとなってきている。鼻咽頭および腸管に位置する二次リンパ組織である粘膜関連リンパ組織(MALT)は,抗原特異的免疫応答の開始地点となる重要な構造であり,抗原特異的T細胞およびB細胞の誘導のために必要な管腔側からの抗原補足,処理および提示機能を備えている。抗原提示により活性化されたリンパ球は,各種遠隔粘膜面への選択的な移行のため粘膜指向性分子(CCR9やα4β7など)を獲得し,それぞれの粘膜面で抗原特異的分泌型IgA(SIgA)抗体産生などに携わる。つまり,経鼻および経口免疫により,全身免疫誘導とともに,呼吸器,消化器,生殖器などの粘膜部位での抗原特異的な免疫応答を誘導する。これらの基礎的知見を基盤とし,我々はカチオン化コレステリル基含有プルラン(cCHP)Nanogelを使用した新規経鼻ワクチンシステムを開発している。cCHP Nanogelに組み込まれたワクチン抗原は,嗅球を介した中枢神経への移行がなく,強力な抗原特異的粘膜および全身性免疫応答を誘導することを明らかにしてきた。cCHPベースのNanogelは,安全で効果的な経鼻ワクチンデリバリーシステムと考えられ,呼吸器感染症に対する次世代型粘膜ワクチンとして今後の開発が期待される。